第18話「普通に話せてるし、試しに付き合ってみたら?」

「だって昔言ってたじゃん。捨てられた子猫を助けてあげるような優しい人が好きだって」


「あはは、さすがにそれはピンポイントすぎだろ──」


 俺は陽菜がまたその場のノリで変なことを言ったのだろうと思って、笑い飛ばしたのだが、


「そ、それはその、たしかに言ったかもだけど~!」

 木陰さんは顔を真っ赤にしてしまった。


「あ、言ったんだ……」


 ピンポイント過ぎてビビったわ。

 運命のイタズラって怖い。

 こんなことあるんだな。


「ってことは、ほら。たくみんじゃん?」

「そ、それとこれとは話が別だと思うなー!」


「そう? けっこうお似合いだと思うけど。男子苦手な美月が普通に話せてるし、試しに付き合ってみたら?」


「だからお似合いとかそういうのは全然意識してないもん!」


 木陰さんは顔を真っ赤にしながら力強く全否定してから、ハッとしたように俺を見た。


 その表情には後悔がありありと見て取れる。

 心優しい木陰さんのことだから、俺を傷つけたと思ったに違いない。


「あはは、今日初めて話したんだし、そもそもそれ以前の問題だよな」


『捨てられた子猫を助けてあげるような優しい人』の前にはきっと「イケメンで」とか「高身長」といった俺にはない枕詞が付くに違いない。


 俺だって可愛い女の子は好きだ。

 もちろんそれだけってわけではないが、だからこそ女の子が男子を選ぶ基準に顔や身長を加味することも当然だと思う。


 そもそも俺は自分が木陰さんの恋愛対象になるとは思っていないし、だから俺は気にしてないってことを伝えたのだが――。


「あ、うん……」

 なぜか木陰さんが微妙に落胆したように目を伏せた。


 え、あれ?

 なんで?

 俺なにか気に障るようなこと、言った?


「じー……」


 そしてそんな木陰さんの様子を、観察でもするかのように静かに見つめている陽菜。


「な、なに陽菜ちゃん……?」

「べつにー?」


 なんとも居心地のよくない沈黙が、場を支配する。


 しかし、


「そ、そんなことより陽菜ちゃん、クロトの写真とらなくていいの?」


 木陰さんの提案によって沈黙は打ち破られた。


「あ、ほんとだ! ねーねー、たくみーん。クロトの写真を撮っていいかな? あと動画も」


 一瞬で元のテンションに戻った陽菜が――この切り替え力、本当に凄いと思う――制服のポケットからいそいそとスマホを取り出す。

 ほとんどデコられてないシンプルなケースに入っただけのスマホが、ちょっと意外だった。


「あはは、そんなの俺の許可なんかいらないから、いっぱい撮ってあげてよ」


 1年生美少女ツートップの陽菜に撮ってもらえたら、クロトも嬉しいだろう。


「じゃ、じゃあわたしも一緒に……」


 木陰さんもスマホを取り出して、猫ハウスで毛布を抱きしめながらスピスピごろごろしているクロトを、木陰さんと陽菜がスマホでパシャパシャと撮影し始めた。


 さっきの妙な空気はどこへやら。

 すっかりいつもの空気に戻っているのは、さすがキラキラ女子だ。

 キラキラ女子に不穏な空気は似合わないからな。


「見て見て美月、この角度ヤバッ!」

「わわっ、可愛い~♪」

「でしょでしょー?」


 2人は微妙に角度や距離を変えたり、自撮りで一緒に写真に納まったり、楽しそうに何枚も撮影する。


 陽菜だけでなく、木陰さんも見るからにはしゃいでいた。


 そんな可愛すぎる2人を見ていると、キラキラ女子パワーで俺もキラキラできるのでは、なんてバカなことをつい考えてしまう。

 

 楽しそうに写真撮影する木陰さんをしばらく見守っていると、


「ねぇねぇ、最後にみんなで記念写真を撮ろうよ」

「いいねー」

「ってわけだから、たくみんもこっち来て。一緒に撮ろっ」


 陽菜がそんなことを言ってきた。


「俺とか?」

「今日はクロトがここに来た記念日だからねー。ちゃんとみんな一緒の記録も残しとかないとでしょ?」


「ああ、うん。そうかも」

「というわけで、そんなところで見てないでこっちこっち♪」

「お、おう」


 手招きされた俺は、呼ばれるままに陽菜の隣に行った。

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