第17話「でしょでしょ? たくみんだって女の子のスカートは短い方が好きだよねー」
「だって制服の着方がだらしないとか、スカートが短いとかどうでもいいことばっかり言ってくるんだもん。おしゃれしてるだけじゃんかー。普段は個性は大事にとか言ってるくせにさー。ちゃんと校則だって守ってるし、見せパンだって履いてるのに」
「確かに個性は大事って、入学式でも校長先生が言ってたもんな。その意見には俺も賛成だよ」
陽菜の言う通り、スカートがちょっと短いくらいは個性の範囲内だろう。
なにより俺は、陽菜がルールの範囲内をしっかり意識してファッションを楽しんでいることに驚いていた。
一見パッションで生きてるように見える陽菜だけど、何も考えずに流されるまま「普通」をしているだけの俺なんかよりも、はるかに真剣に人生を生きているんだ。
すごく大人で、すごくカッコいい。
こんな生き方が俺にもできたらな、などと俺は心の中で思った――のだが。
「でしょでしょ? たくみんだって女の子のスカートは短い方が好きだよねー」
「だからそういう答えにくい質問は、しないで欲しいかなぁ!?」
前言撤回!
陽菜はパッションの
変に深読みした俺がバカだったよ!
「えへへ、めんちゃい。たくみんは反応が可愛いから、ついついからかっちゃうんだよねー」
「完全に遊ばれてる……」
だけど嫌な気分はまったくしなかった。
陽菜の言動には、俺と仲良くなりたいって素直な気持ちは感じられても、バカにしようとかそういう悪意が、まったく感じられないから。
「だってそういう男子って、あんまりいないじゃん? なんか新鮮」
「いや、割といるだろ? むしろ多数派じゃないか?」
「そんなことないしー。たくみんはレア枠だよー」
「そうかなぁ……?」
もしかしたらキラキラ女子たちの周りには、女子とのトークに慣れてないモブ男子はいないのかも?
「で、結局どっちが好きなの?」
「その話、まだ続くんだ……」
「アタシみたいに短いスカート? それとも美月みたいに長いスカート? どっちかなー?」
「えーと……」
その修飾語の付けかた、マジやめて欲しいな!
陽菜と木陰さんのどっちを選ぶの? みたいな質問になっちゃいかねないよね!?
チラリと木陰さんに視線を向けると、木陰さんは妙に真剣な顔で俺を見ていた。
え、なに?
これそんな大事な質問なの?
「3、2、1、0、はいどうぞー」
陽菜が俺の口元にエアマイクを向けてくる。
「ふ、普通の長さかな?」
「ブブー! そういう不誠実な答えは求めてません」
「むぐ……」
「うりうり、素直に言っちゃいなよ。短いスカートが好きなんでしょー?」
「あーいや、その……」
「だいじょぶだいじょぶ。ここだけの話にしといてあげるからー。こう見えてアタシ、結構口が堅いんだよ? もちろん美月も」
「えーっと……」
「もぅ陽菜ちゃん、あんまり拓海くんを困らせちゃだめだよ?」
俺が答えに窮していると――スカートなんて短い方が好きに決まっているがエロ猿男子と思われたくなくて言えなかった――木陰さんが助け舟を出してくれた。
木陰さんは本当に優しいなぁ。
しかし陽菜は木陰さんをわずかな間、じっと見つめると言った。
「美月さぁ」
「な、なに?」
「たくみん男子なのに平気だし、なんか妙にたくみんの肩を持ってないー?」
「そ、そんなことないよ?」
「ふーん。そう?」
「そ、そうだよ。やだなぁ陽菜ちゃん」
「ふーん」
「な、なに?」
「美月はたくみんみたいな男子がタイプだもんねー」
「な、なんで急にそんな話になるのかなぁ!?」
木陰さんが焦ったように両手を左右に振った。
全力で全否定されたみたいでちょっと悲しい俺。
もちろんわかってるよ。
俺がキラキラ女子の恋愛対象外だってことくらい。
でも悲しいものは悲しいんだ。
男子とはそういう哀れな生き物なのである。
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