第2章 俺んちが1年生美少女ツートップの溜まり場になった。
第25話 初恋の夢は黒猫とともに。(1)
夢を見ていた。
とても懐かしい夢だ。
今から5年ほど前、夏休みに数日ほどばあちゃんちに来ていた俺は、その最後の日に、特に何をするでもなく近所をブラついていた。
Tシャツにハーフパンツ、サンダルというラフな格好で、すぐ近くにある公園の前を通りかかった時、
「あれ、あの子……」
俺と同い年くらいの子が、公園に止めた自転車の横でうずくまって、何やらカチャカチャやっているのが目に入った。
前カゴ付きのダサいママチャリでなく、全男子の憧れである多段変速のイケイケなマウンテンバイクだ。
フレームは鮮やかなメタリックブルー。
スタイリッシュでバチクソカッコいい。
ピカピカで傷一つ付いてないので、多分買ったばかりの新品だ。
だけどチェーンが外れてしまって、その子は困っているらしかった。
公園で困ってる男子がいたら助けてあげる。
これは公園で遊ぶ公園男子のオキテだ。
大昔、昭和と呼ばれる
ドッジボールをしたり、鬼ごっこをしたり、スマブラをしたり、ポケモンをしたり。
公園は男子の社交場なのだ。
みんなで仲良く遊ぶために、僕らはみな助け合う。
なによりこの前、友だちにチェーンのハメ方を教えて貰ったばっかりだったので、僕にはちょっとだけ自信があった。
僕は公園に入ると、その子に近付いていった。
「ねぇ君、チェーンが外れちゃったの? 僕、多分だけど直せるよ」
いかにも困ってそうな様子で自転車の前にしゃがみこんでいた子は、驚いたように振り返った。
だけどその顔を見て、声をかけた僕の方がビックリしてしまった。
というのも、
「ほんと? 直せるの?」
振り返った子が女の子だったからだ。
しかもめちゃくちゃ可愛い女の子だった。
一目見ただけで、クラスの誰よりも可愛いと断言できてしまう。
うわっ、しまったな。
公園と自転車――しかもカッコいいマウンテンバイクだ――って組み合わせだったから、完全に男の子だと思い込んでいた。
よく見るとスカートだし。
でもしゃがんでる太ももの下に織り込んでたから、後ろからはハーフパンツに見えていたんだ。
実は僕は、女の子と話すのが少し苦手だった。
女の子と面と向かうと、それだけでとても緊張してしまう。
しかも今はその相手が超が付く美少女ってこともあって、既に僕の緊張はカンスト寸前だった。
でも自分から声をかけた以上、今さら引き返せはしない。
僕は緊張しながらもがんばって会話を続ける。
「うん。この前友だちにやり方を教えてもらったばかりだから、多分できるはずだよ」
僕はそう言うと女の子の隣にしゃがみこんだ。
とりま、身体を動かそう。
顔を見ているとそれだけで恥ずかしいから。
「まず前のギアにチェーンをしっかり噛ませるんだ」
「ふんふん」
女の子はやり方を覚えようとしているのだろう、僕の身体に密着するように身体を寄せて、手元を覗き込んできた。
一瞬チラリと横を見ると、すぐ隣にアイドルみたいな綺麗な顔があって、僕はさらに緊張してしまって、慌てて視線を自転車のチェーンへと戻した。
「次は後ろの一番大きいギアの、下側にチェーンをはわせて、と」
「うーん、大きいギアにはチェーンは巻けないよ? 何度かやったんだけど、チェーンの長さが足りないし」
「大丈夫。この状態でペダルをゆっくり回せば、後ろのギアがチェーンを巻き込んでいくはずだから」
「そうなんだ?」
「うん、多分」
僕は心の中で「お願い!」と祈りながらゆっくりとペダルを手で回す。
すると――、
カチャ、カチャ、カチャカチャカチャカチャ――。
軽快な音がして、マウンテンバイクのチェーンは後輪ギアにガッチリ噛み合った。
やった!
一発で成功だ!
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