第8話じゃれ合う木陰さんと天野さん

「だからその、木陰さんって学校だとすごく物静かなイメージがあったから、こんな風にワチャワチャ焦ってるのを見て、ちょっとびっくりしたっていうか」


 俺は逃げるように2人から視線を逸らしながら、だけど素直に理由を答えた。

 しかし何がダサいって、早口なのが超ダサかった。

 ダサいを越えてキモイまであった。

 穴があったら入りたい。


 あーあ。

 しかも人をパッと見のイメージで判断するような、ルッキズム男子って思われたかも。

 ――なんてマイナス思考に陥っていると、天野さんがほがらかに笑いながら言った。


「あはっ、そういうことね。美月ってこう見えて、実は結構な人見知りなんだよねー」


「ちょ、ちょっと陽菜ちゃん。そういうのは今はいいでしょ――」


「だから学校とか外だと緊張して静かになっちゃうの。逆にアタシと2人きりの時とか家族相手には、かなり積極的にしゃべるんだよ。ねー、美月」


「う、うん……まぁ……実はその、結構、内弁慶っていうか……」


 天野さんに普段の自分を明け透けにばらされてしまったからか、木陰さんが恥ずかしそうに俯いた。

 しかも頬を赤くしたまま、俺の様子を窺うように上目遣いで俺を見つめてくる。


 その仕草が可愛すぎる。

 なんて思ったものの、口には出さない。


 さすがにこれは、モブ男子が美少女ツートップに言っていいセリフではない。

 言ったら死ねる、学校カースト的に。


「でも珍しくない? 男子がいると超が付くほど人見知りを発揮する美月が、こんなに普通に男子と話してるなんて、アタシちょっとビックリなんだけど。っていうか初めて見るかも」


「言われてみれば、そうかも……」


「でしょ? 美月って男子と話す時はいつも『ですます』で話すのに、普通にしゃべってるし」


「さっきまではそうでもなかったんだけど……」

「あれ、そうなんだ?」


「多分、陽菜ちゃんがいきなり出てきてバカなことをやったせいで焦っちゃって、そのせいで緊張が吹っ飛んじゃったんじゃないかな」


「ふふん。ってことはアタシのおかげじゃん。さすがアタシ!」


「言っておくけど、今のは褒めてないからね?」

「ええっ!? うそっ!?」


 心底驚いたって顔をする天野さん。

 そんな天野さんを見て、もしかしてちょっとアホの子なのでは? と思ったが、もちろん口にはしなかった。


「それに中野くんはなんだか話しやすい感じだし……」


 語尾を小さくしながら上目遣いで話す木陰さんは、見るからに恥ずかしがっていたので、


「それはよかった」


 俺はそれ以上は深掘りすることなくこの話を終えた。


 男子と話すのが苦手――なのに俺とは話しやすい。


 つまり俺は木陰さんから異性としては見られてないんだろうなと察してしまうが、いちいちそこに文句を言ったりはしない。


 ちょっとガックリは来てしまうが、仕方ない。

 そう考えればさっき一緒に相合傘したのにも納得がいくしな。


 そもそも異性として認識されていなかったのだから、相合傘への抵抗感も低かったんだろう。

 ま、世の中そんなもんだ。


 帰宅部で配信聞きながらゲームするのが日課で、背も高くなく、筋肉が付いてるわけでもない、運動は並以下のモブAな俺が男らしいとは、俺自身ですら思わないし。


「そうそう、そうなの。この前だってね、コンビニの店員さんがちょっとやんちゃな感じの若い男の人だったせいで、なかなかレジに行けなくて代わりにアタシが――」


 しかし天野さんは楽しそうに笑いながら話を続けようとして――、


「もう、陽菜ちゃんってば~!」


 顔を真っ赤にしたままの木陰さんに、ポカポカと肩のあたりを叩かれてしまう。

 だけど力はほとんど入っていないようで、天野さんはこれっぽっちも痛がる素振りを見せなかった。


「はいはーい。黙ってまーす♪」


 天野さんが茶目っ気たっぷりにウインクしながら、てへぺろッと舌を出す。

 これまた信じられないくらいの可愛さだった。


 もちろんこれは俺に対して可愛いアピールをしたわけでもなんでもない。


 が、しかし。

 至近での美少女てへぺろを見せられて、俺の心臓は恥ずかしいくらいにドキドキと激しく高鳴ってしまっていた。


 あまりに大きすぎて、2人に聞こえてないか心配になるほどだ。


 なにより天野さんが登場したことで、一気に場の雰囲気が明るくなった。

 さっきまで相合傘をしながら2人して沈黙を続けていたのが嘘みたいだ。


 さすがキラキラ女子グループの中心人物。

 自分の周囲をも巻き込んで光り輝く世界に変えてしまう、それが天野陽菜という女の子だった。

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