第12話 俺んちに1年生美少女ツートップが来た。

 庭の門を抜け、玄関の鍵を開け、扉を開く。


「ただいま~」


 一人暮らしなので家には誰もいないものの、長年の習慣で自然と、家に帰った時のお決まりのフレーズを口にしてしまう。


「お邪魔します」

「おじゃましまーす」


 木陰さんと陽菜の2人も、よその家に遊びに行った時のお決まりのフレーズを言って家に入った。


 通学スニーカーを脱いだら足でちょいちょいと雑にそろえただけの俺や、ローファーを軽く揃えて置いただけの陽菜と違って、木陰さんはローファーを脱ぐと子猫を一瞬、片手抱きにして、脱いだローファーをピシッと綺麗に揃えていた。


 何気ない所作だったけど、礼儀正しいのがすごく木陰さんらしいなと思う。


 そのまま陽菜と木陰さんと子猫を居間に案内した。


「タオルを取ってくるから、ソファに座ってちょっと待っててくれるか?」


「ありがと、たくみーん」


「あの、お手間じゃなければ、よく絞った濡れタオルを電子レンジでチンしてもらってもいいかな? この子の身体を温めてあげたいなって」


「ホットタオルにするってことな。了解」


 居間のエアコンの電源を入れつつ、洗面所に行って一番ふかふかのタオルを選ぶと、まずは2人に手渡す。


 次に木陰さんにお願いされた通りに、タオルを水に濡らしてよく絞って、平皿の上に置いて、台所のレンジで、チーン。

 アッチアチのホットタオルにして、子猫を抱いている木陰さんの前に皿ごと差し出した。


「かなり熱いから気を付けてな。やけどしないように」

「ありがとうございます。あちち……」


「大丈夫か?」

「うん、ぜんぜん平気」


 木陰さんがホットタオルで子猫の身体を拭いてあげると、


 ミャァ……ごろごろ、ごろごろ。


 身体がぬくもって気持ちよかったのだろう、子猫は見るからに脱力しながら、気持ちよさそうにのどを鳴らし始めた。


 今日一の大音量のごろごろだ。


「ふふっ」

 それを見た木陰さんが嬉しそうに微笑んだ。


「もしかしなくても、木陰さんって猫好き?」

「……じ、実は」

  

 木陰さんが照れくさそうにはにかむ。


「だよな。身体を温めるためにホットタオルにするとか、パッとは思い付かないし」


 少なくとも俺は、タオルで拭いてあげようくらいしか思わなかった。


「猫を飼えない代わりに、ネットで猫のサイトや飼い主ブログをよく見たりしてて。だから一応知識だけはある感じかな? へ、変だよね、飼いもしないのに」


 最後の方が小声になっちゃった木陰さんが、上目づかいで俺を見た。


 うぐ……っ。

 木陰さんが時々するこの仕草、すごく可愛くて困る。

 何が困るって、されるたびにドキッとしてしまうから困る。


 さすが1年生美少女ツートップの上目遣い。

 モブ男子Aには刺激が強すぎた。


 木陰さんからは最初の頃にあった心の壁、みたいのがどんどんなくなりつつあるように感じていた。

 口調は砕けてきたし、なによりニコニコしてる。


 そしてそれは俺の方も同じだった。


「変なんてまさか! そのおかげでこの子も温まったんだし、木陰さん様様だよ。よっ、木陰大明神」


 なんてちょっとオチャラケたセリフまで飛び出す。

 言ってから、さすがに今のは調子乗り過ぎかなと思ったんだけど、


「ふふっ、拓海くんって結構面白い人なんだね♪ ふふっ、ふふふふ」


 どうやら木陰さんの笑いのツボにはまったらしく、それはもう楽しそうに笑ってくれたのだった。

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