第4話

 着替え終わりリビングに戻ってきた今日から担当となった美雪さんを見て、ボクは茫然としていた。


「あ、あの……その服のチョイスの意図は……?」

「え、えっと、可愛くないですか?」


 少しオズオズとした感じでボクに対して自分の服装を確認する彼女。

 いやぁ……おかしいっていうのかなぁ……。

 てか、おかしいと思う。

 だって、目の前に現れた彼女は、胸元の部分がぽっかりと開いたニットセーターを着ていたのだ。

 てか、さっきまでのスーツ姿では分からなかったが、彼女のスタイルが惜しみなく発揮されており、男の誰もが普通に胸元の谷間に視線を注いでしまうであろう……。

 あぁ……美雪さんってこんなにスタイルが良かったんですね……。

 スーツの時は小さい印象だったのに————。


「いや、可愛いと思いますよ」

「本当ですか! 良かった!」


 ボクの選んだ当たり障りのない言葉に彼女はとても満足して、飛び跳ねる。

 うん。従順な子だね。

 てか、ジャンプすると胸がたゆんたゆんと揺れて、思わずボクは視線を逸らしてしまう。

 普通にエロいだろ!

 ボクだって男なんだから……そう言うのを見ると————て、今はそんな話はどうでもいい。


「私、この服が一番おとなしい服なんです」

「ぶぼぁっ!?!?!?」


 思わず飲みかけていたコーヒーを吹き出してしまう。

 こ、これが一番おとなしい服だって!?


「あ、あの……大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……………んぐっ?!」


 思わずボクが突如の発作にでも襲われたのかと勘違いした彼女はボクに寄り添ってくれる。

 ボクは何とか平静を保つように意識を強く持ち、寄り添う彼女の方を見上げると、そこにはぱっくりと開かれた谷間。

 ぷるんとスライムも驚くようなその柔らかそうな肌に、目が吸い寄せられてしまう。

 てか、エッロ~~~~~~~~ッ!!!

 性欲に抗えなくなったら、どうするんだよ!?

 てか、仕事の関係者に手を出すとか、絶対にダメだろ!

 くっそ……。そう言えば、最近、性剣エクスカリバーの手入れ(つまり自慰行為)をしてなかったから、ムラムラして下半身が反応してるよ……。

 だ、だが、さすがにこんなところを美雪さんに見られたら、軽蔑されてしまうのが目に見えている!

 ボクは気持ちを鬼にして抗う。

 が、まあ、本能の方が打ち勝ってしまって、なかなか収まってくれない。

 こうなったら、何とか彼女に見えない角度でここをやり過ごすしかないか……。

 ボクはダイニングテーブルの椅子をひき、そこに座る。

 テーブルの下では見えないからね。


「いい臭い…………」


 美雪さんはポツリと呟く。

 その表情は少し頬を朱に染め、潤んだ瞳となっていた。

 えっと、何か様子おかしくないですか?


「………えっと、匂い?」

「えっ!? あ、ああ、コーヒーの香りがです!」


 彼女は現実に引き戻されたかのようにボクの方を見つつ、そういって平静を取り繕った。

 さっきの表情もすっごくエロかったんだけれど、敢えてここでは無視しておいた方が良いのかもしれない。


「そ、そういえば、そろそろお昼だね。ボクはさっき起きたばかりでブランチみたいになっちゃうけれど、昼食でも取ろうか?」

「あ、そうですね。私も事務所からこちらの方に直行したので、お腹がペコペコなんですよ」

「じゃあ、何か作ろうかな」

「あ、待ってください!」


 と、ボクが腰を浮かせようとすると、美雪さんがそれを制止する。

 ただ、制止するのに、前かがみの姿勢になる必要あります!?

 ニットの形状で、お胸のサイズ感や形、柔らかさまですべて伝わってくるんですけれど!?


「私が作りますね。実はこういうこともあろうかと、昼食の材料を買って来てあったんです!」


 彼女はそう笑顔で言うと、スーパーの袋を見せてくる。

 何やら食材を購入してきたらしい。


「ま、そういうことならお相伴にあやかろうかな」


 ボクは両手をヒラヒラと挙げて、興産の意思表示をする。

 彼女は「ふふっ!」と微笑むと、そのまま食材をもってキッチンに移動する。

 えっと、その格好で料理するの?

 ボクの違う方向での心配を他所に、彼女は手際よく食事を作っていく。

 バターの香りがふんわりとキッチンから届く。

 バターなんて最近使ってなかったなぁ……。

 自炊をしていたと言っても、ボク一人の分を作るだけだったら、そんなに手の込んだことをしたりしなかった。


「あ、あのぉ……」


 美雪さんがボクに対して声を掛けてくる。

 ボクは振り返ると、またもや前かがみ!?

 も、もう慣れたかもしれないけれど、本能は慣れてくれない。

 相変わらず性剣が落ち着いてくれない。

頼む! 落ち着いてくれ———————っ!


「ど、どうしました?」

「お皿を用意してもらえませんか? オムライスを作ったんですけれど、盛り付けるお皿の場所が分からなくて」

「ああっ! すみません!」


 ボクは少し大きめの平皿を2枚取り出し、彼女に差し出す。

 ボクの方が少し身長も高い関係で、後ろから覗き込むように平皿を渡すと、ガッツリと彼女の谷間が視界に飛び込んできた。


「あ、ありがとうございます。あ、あと……。あんまり見られると、恥ずかしいです……」


 いや、見せてるのそっちだからね!?

 これって正当防衛じゃないの!? 見えちゃったら仕方ないでしょ!?

 ま、まあ、少し視線がそっちの方に行っていたのはこっちも謝るけどさ……!

 ボクは恥ずかしさと性剣の限界を感じて、「手を洗って来るね」と言うと、トイレに駆け込んだのであった。

 

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