2-6:備品あれこれ思う事
昼の内に、
放課後になると
物置にあったホワイトボードを運ぶのが美青には右腕の関係で無理なので、他の五人がかわるがわる運び込む様子をカメラで記録していた。力仕事に加われない申し訳なさはある。
部室教会にホワイトボードを運び込むと、それを前の方に持っていく。キャスター付きなのでそこはさほど問題なく進んだ。
その間に、美青と千咲季は二人で雪夢から聞いた話を琴宝達に伝えた。覇子が予見していたすれ違いについては明確に存在し、今ある溝の切っ掛け――雪夢と凍月が同じ中学になれなかった事――も明確になったと。
話しながら、荷運びは完了した。
「美青、カメラそこまで。あとは私と千咲季で撮る」
すぐに、琴宝が言ってきた。
「分かった。よろしく、千咲季」
「うん」
千咲季はカメラを取り出し、撮影を開始した。琴宝の方もすぐに撮影を始める。
「で、編集班が使う部屋の方も見とくか……」
「大事な話の合間に申し訳ありません……」
琴宝が言うと、風文子は申し訳なさそうに言った。二階以外に使える場所がないかとなっていた。二階に関してはほぼ宿泊設備と会議室なので、他を探した所、教会の裏に設備さえあればすぐにネットに繋げる部屋があると
階段の下に目立たずにある扉を潜って中に入ると、そこには事務的な目的で使うであろう部屋と、何もない完全な空き部屋がある。美青達は事務用の部屋に入り、それぞれ座った。編集班の人数と同じく、六席あるので丁度いい。
「で、どうすんのみおちー。きよむーがああいう事したの初めてだし、クラスの中じゃ噂になってるよ」
英が言う事は分かる。
何せ雪夢が美青を連れ出し、それをすぐさま千咲季が追いかけたのはクラスの中だ。美青自身、右隣の
「うーん……
「うん、それはそう。問題なのはクラスの方で隠せる感じじゃないって事と、ピマシの皆様も薄々は察してるってよっぴが言っている事」
英の言葉で、美青は全身に重圧を感じた。元々プライベートな事なので限られた人数で進めようと思ったが、現実に考えるとそう簡単にもいかなくなってきた。
「もう何人か雪夢と凍月の事だって気づいてる可能性はあるよね。
琴宝は実際に頭が回る二人の名前を出してきた。初に関してはほぼほぼ察していると言って間違いない。昨日の時点で雪夢を美青達から引き離す役割を自然に演出してくれていたのは、美青も分かっている。
「隠せない、かー……」
雪夢が自分を連れ出したという事は、勿論クラスの中でしたい話ではないという事でもあり、しかし彼女の言動(に加えて千咲季の動き)でもう隠せない所までいっている。
「問題の渦中にいるとは雪夢自身も自覚していると思うよ、美青」
覇子はアドバイスをくれた。
「覇子さんには分かるの?」
「隣の席だからね。顔を見ればすぐに。恐らく雪夢も気まずさを感じているが……あの子はそういう物を一切表には出さないし、見透かすのもかなり観察しないと無理だ」
約半年、雪夢と同じ部屋にいた覇子だからできるという所もあるらしい。寧ろ、雪夢との交渉を覇子に任せたい気持ちが美青の中にあるくらいに、覇子は雪夢の事を分かっている。
ただ、それは安易な妥協点でしかない。
「……どういう風に周知すればいいかって考えてもあんまりいい方法は思い浮かばないな」
「そりゃそうでしょ。そのやり方が美青に合ってないんだから」
合ってない――言ってくれたのは琴宝だ。
美青が彼女の方を見ると、カメラのモニターから視線を外して、美青を見ていた。
「裏で慎重に進めるっていうやり方より、直球でぶつかってく方が得意だよ、美青は」
琴宝は少し、微笑みを浮かべた。
もしかすると、琴宝は私以上に私の事を分かっているのかも知れないな――美青はそんな事を考えた。
「……うん。確かになんか慣れないなとはずっと思ってたけど、そういう理由なら分かる。琴宝」
「ん?」
「今日、雛菊さんをうちに呼ぶから、料理当番代わって」
そして、美青の意思を誰よりも早く正確に汲んでくれるのも、琴宝しかいない。
「OK。英、風文子、千咲季、クラスで雪夢と凍月の問題知らない人が何か聞いたら『昔馴染みが喧嘩してる』って感じで伝えて。間違ってはないし」
「うっす」
「分かりました」
「細かくは話さなくていいの?」
「一枚かんでくる誰かが出てくると話はややこしくなる。伝言ゲームって、人数が少ない方が簡単でしょ」
「そういう事ね。分かった」
琴宝がその辺りを動かしてくれるのは、ありがたい。
「ピマシの人達については羊日経由でちょっと見守って貰うとして……覇子」
まあ琴宝ならそうするだろうな、美青も、彼女の行動は理解できる。
「雪夢については話す機会がくればしっかり雛菊さんと話すように伝えておく。美青、どの程度かかる見通しかな」
「明日になんとかできるようにする」
覇子は琴宝の言いたい事を先回りして、一番大事な部分を引き受けてくれた。その問いに、美青は即答した。
「雛菊さんはきっと――楓山さんと仲直りしたいっていう気持ちは凄く強い。切っ掛けさえあれば、絶対に頷いてくれるし、頷いて貰う。そこは私が担当する」
凍月ならばきっと、という事は美青の中で明確だった。
彼女は単に、雪夢の内面の深い所にまだ触れていないだけだ。そこに触れた美青の助言を加えれば、あとは二人で話すだけ――一つ問題があるとすれば。
「なんで凍月が地元に戻らずに
琴宝の言う通りの部分だ。
「そこ聞きだすのも、絶対にやる」
できなければ――という事は、考えない事にした。
さりげない密会の中で諦めを見るのは空しいだけで、それよりも成功の礎を築く方が余程実際的だ。
「だからみんな、それぞれ頼んだ事はお願い」
美青が決意を顔に浮かべて全員を見ると、それぞれが微笑みを浮かべた。美青としては少し、予想外の反応だった。
「え……」
嫌な感じはしないが、全員が示し合わせたように微笑むと、戸惑ってしまう。
「みおちー凄い強くなったよね」
英は少し、羨ましそうに美青を見てくる。
「本当に、以前の
風文子も、英と同じ意見らしかった。
「大丈夫だよ。美青ちゃんの優しさがあれば、必ず上手くいく。私も、できる事をして支えるから」
千咲季がそう言ってくれるのは、頼もしい。
「美青がやろうとしている事は、美青にしかできない事でもある。だからこそ、手が回らない所は引き受ける」
覇子のお墨付きは、心強い。
「ま、なんかあったら私も手伝うからさ、話はダイニングでしてね」
琴宝はいつも、自分を助けてくれる。
なんとなく照れ臭くなって、赤くなりながら美青は――
「ありがとう」
心からの言葉を伝えた。
その後、美青は凍月と連絡を取り、うちに招く事に成功した。
ここからが大事な所になる――美青は、図書室で時間を潰しながら凍月が部活を終えるのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます