2-3:ポップコーンみたいな

 雪夢きよむ凍月しづきの関係はどうも、上手くいっているとは言い難い物らしい。ならばまず、そこを修復する――美青みお琴宝ことほの基本方針はすぐに固まった。


 放課後には映像美術研究会で各自、何をやりたいかを纏める集会がある。その後、美青、琴宝に加えて覇子はるこ羊日ようひはな風文子ふみこはやとで少し考えるという事になった。連絡役は美青自身が担当した。


 そして放課後になり、映美研えいびけんの面々は部室に集合した。


 雪夢と凍月の事は一大事としてあるが、部を纏めるのはしっかりしなければならない。ここら辺が美青にとってはまだ慣れない所だ。


 全員がそろうと、映画委員の六名がカメラを回し出す。


「じゃあまず、事前に話した通り、各自やりたい部活については送って貰ったので、それ以外でやりたい事っていうのがある人は挙手をお願いします」


「はい」


「おう」


 美青の言葉に挙手したのは、メロメと毬子まりこだった。


「じゃあ、メロメさんから」


 僅かに早かったメロメの方を、美青は示した。メロメは立ち上がる。


「蟻ちゃん(弓心ゆみ)と話したんだけど、文芸部の部室でのあれこれもカメラに収めたいねって事になってさ。ペンギンが入るかどうかでも変わるけど、いたらいたでペンギンの負担が増えるからサブカメラとして僕もカメラ欲しいかなって考えてる」


 メロメは弓心と二人、文芸部を選んでいる。


 美青は少し考えたが、自分が入ればカメラはなんとかなるものの、常にというわけにはいかない。となるとサブカメラについてはあった方がいいだろう。


「メロメさんの提案については分かった。ただ、サブカメラ必要な人他にいないかなっていうのは確認しておきたいかな」


「うい」


 再度、手を上げたのは毬子だ。


梅村うめむらさん」


 美青は彼女を指名する。


「今、ついと二人で先輩から部活に誘われててさ、格技研って言う新しくできる所なんだけど……メンバーが今の所私と終だから、誰が撮るにせよまずカメラは欲しいってのはある。もう一ついいか?」


「どうぞ」


 知らない話も当然出てくるだろうなというのを美青は事前に予測していた。毬子は全員を見回した。


「映美研だと強い奴多いけど、格技研……垣根なく広い範囲の格闘技・武器術研究する部活に入りたい奴は纏めて連れてこいって言われてんだよ。希望者終の他にいるか?」


 毬子は軽く手を上げて尋ねた。


「待て梅村、噂は聞いているが、二年の樺鬼堂かばきどう先輩がやろうとしている事か?」


 凍月が食いついた。


「そうだよ。っていうか雛菊ひなぎくも結構強いだろ。どうだ?」


「やはりあの人か。剣道部と二足の草鞋になるが、私もいく」


 凍月の注意を引いてくれてよかったと、美青はちょっと安堵した。


白菊しらぎく橘家たちばなやはまあ立場上無理として、東蓮寺とうれんじ藤宮ふじみやは?」


 毬子は墨桜会ぼくおうかい内部の実力者・千咲季ちさきと、武術に親しみがある紫姫しきに尋ねた。


「私はそういうのはいいかな……」


 千咲季はそっと拒否した。元々彼女は強い割に平和な性格なので、特に格技研に入る理由はないのだろう。


「私もパス。ダンス部の方で活動したいしソロでも活動したい。ってか美青!」


「はい、藤宮ふじみやさん」


 急に何か思いついたように手を上げた紫姫を美青は指す。


「サブカメラについてはメロメと毬子以外も持ってた方がいいんじゃないの? 私も自分のダンス撮る用に一つ持ってるけど、白生かおの練習風景とか撮る人いないし」


「私ー?」


 話題に出された白生は現在、契約しているチームの方の練習に出ているらしい。現時点でテニス部には顔出しした程度と聞いた。もっとも、白生の実力を考えれば高校のテニス部にいていいレベルではないが。


「あ、それで思い出したけど、テニス部にたまにコーチやってくれないかって言われてるから私もカメラ欲しい!」


 何故そんな大事な事を忘れているのか……美青は少し頭が痛くなるのを感じた。


「一人一つ持つというわけにもいきませんからねこれ」


 冷静な意見を出してくれたのはカメラを回している風文子だ。同じくカメラを回している灯理ともりが彼女を映す。


「映美研の内部である程度纏まっているチームに無理のない範囲で映画委員がつくというのが第一条件、それが及ばない所でサブカメラをストックし、必要な時に持つ……言ってはなんですが、藤宮さんの用途は個人使用ですし、桃坂ももさかさんについては企業の練習を表に出せるわけでもないので、単独で持つというのは撮影者の問題も加味して有効ではありません」


 整然と、風文子はサブカメラ問題について具体的な問題点と解決策を提示してくれた。


「カメラストックが幾ついるかって所になるかなー、問題は」


 英が肝心な所だけ抜き出す。彼女は記録も並行して行なっている。


「今の時点だと文芸部で一つ、格技研希望者で一つ、他同じ部活になると……十鋒とほこと藤宮さんが同じダンス部で、他に被りはないけど……」


 美青はそこでPINK MAD SICKでまとまっている五人を見た。


「うちのバンドについては撮影機材余らせてるから、カウントしなくていいわ」


 その代表である羊日ようひが断ってくる。


「じゃあ三つが基本で、他に何かあった時の為の予備も用意するとして……綿原わたはらさん、編集できる最大の数はどの程度?」


 美青は編集班の班長である風文子に尋ねた。


「現時点で椿谷つばきたにさんと橘家さんのカメラを加えて視点が八つ……これだけでも編集班は結構ぎりぎりなので、サブカメラの方については増やして四つまでが限界です。編集班代表として一つ言うのであれば」


 美青は一瞬、英を見た。彼女はすぐにサムズアップして記録の用意をした。


 美青が風文子に視線を戻すと、彼女は言った。


「編集班で集まって作業できる環境があった方がスムーズに進む……何せ慣れている人間の方が少ないので、相談しながらできる場をここの二階に作れないかという話は班内で出ています」


「綿原さん、必要な設備については?」


「編集に凝った物を求められない限り、それ程多くはありませんが……何せ二階がまだ未見ですからね……一応、各人からの要望は募ります」


「そっちはよろしく。で、英、広報については足りそう?」


 美青はもう一つ映美研を運営する上で重要な広報班の班長・英に尋ねた。


「現状一つのSNSアカウント作ってそこで運営するのが一つ、これは藤宮さんにも協力して貰うけど……もう一つはまあ校内で地道に映美研の活動を周知して貰う事。これの方はちょっとポスターとかで少しは予算食いそうって感じ」


 こちらは広報班自体ができてすぐなので、あまり話が進んでいなかった。


「ただまあ、今の時点だと人出そのものは足りそう。拡散力がどの程度出るかって事でもあるけど、あんまり動画の頻度が高まってもそれはそれで回らなくなるから、メインを六つにしてみおちーとお琴さんの二つも実質的にはサブって扱いにするのが一番撮影以外の部分での負担は減りそう」


 確かに、サブカメラ四つを用意するとして、映画委員の人数六と美青と琴宝二で合計は十二、半分をメイン、半分をサブに回すとすれば編集と広報に負担はかけないかと美青はメモした。


「っていう各班の実情もあるから、サブカメラについては新規に四つ、私と琴宝の分は……ちょっと今二人で撮ってるものが終わってから追加になるから、もう少し待って欲しい。琴宝、みんなが使ってるのと同じ物の入手って可能?」


 美青は調達を担当している琴宝に尋ねた。琴宝を見ると、スマホを見ている。


「……四つ、ギリ手に入る。到着に関しては今週中、私と美青のについては片方だけなら貸せるから、届くまで撮りたい物があるって人は順番決めて予約して。私の方を貸す」


 琴宝は即座に段取りを決めた。こういう時は本当に頼りになる。


 否――風文子も英も、それぞれの職務を全うした上でそれぞれの意見を最大限引き出そうとしてくれている。美青は寧ろ、自分がしっかりできているのかが不安だった。


「あー、そういう事ならサブカメについては一旦置いといていいかな蟻ちゃん」


「はい!! 編集の手間考えると寧ろ地獄を回避できます!!」


「って事だから文芸部組は大丈夫。蝉ちゃん達は?」


 メロメはもう一つ固まっているダンス部組に話を回した。


「ダンス部は部で記録するし紫姫ちゃんがカメラ持ってるからあんまり関係ないよ!」


 十鋒が元気よく断言する。


「まあすぐにいる物ではないわね……とはいえ、使う時は本当に使うわよ」


 紫姫は妥協点を出してきた。


「格技研にこれから顔出すんだけど、橘家の奴借りてもいい……?」


 流れ的に言い出しづらいのか、毬子は言いづらそうに言った。


「いやそれはひとまず映画委員でなんとかするって事でしょ。雪夢、私の指示でカメラお願いしたいけど、いい?」


 待ったをかけたのはういだった。雪夢は初の身長が低いのを補う為に映画委員榊木さかき班の補佐になっている。


「やる」


 そして雪夢はすぐに頷いた。


 美青が初を見ると、こっそりウインクしてきた。いつの間にか話を察している辺り、初は初で相変わらず人の動きに聡い。


「じゃあ、基本的な方針としてまずは映画委員を頼る事、その次が私と琴宝、サブカメラについてはどこに置くかのアンケートを後でグループでやるから、各自返してね。他に連絡事項がある人は?」


 美青の言葉に手を上げる者はいなかった。


「じゃあ、今日は解散。榊木さん、楓山かえでやまさん、格技研の方の三人のフォローよろしく」


「みゅ、任せて」


「分かった」


「それじゃ、私と琴宝の方でのあれこれをお願いしてた人を残して、解散とします」


 まるでポップコーンを一つも零さないように料理するような感覚――美青はちょっと眩暈を感じた。本題は寧ろこれからだと言うのに、疲れがにじみ出る。


 居残りを頼んでいる覇子は桜来おうらい時代、常にこれをやっていたのかと思うと、その苦労が思いやられる――ちょっと現実逃避的だなと思って、美青は思考を切り替えた。



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