1-10:部活にするか
濃厚な一日が終わった翌日、朝のホームルームで
昨日の
その話が纏まり、放課後になった。
ホームルームが終わると、少ししてPINK MAD SICKのメンバー四人、
唯一、鯉路はカメラを持って全員を後ろから見る位置に立った。
「撮ってた方がいいわよね、美青さん」
「うん、お願い。
「いいよー」
一年七組の映画委員とPINK MAD SICKのメンバーでは使っているカメラが違うが、編集班曰く性能に大差はないらしい。教壇の前に立つ美青・
「じゃあ早速だけど……まず、映画委員を
美青の言葉で、英が立ち上がる。
「ほいよ。愛殿の部活動成立要件からいくけど、まず部員が四人以上いる事、次に活動要旨が纏まってて先生に認可されて顧問がつく事。人数については二十四人もいてダメって事はなし、先生については確認したけど
英は事前に調べていたらしく、メモ帳を見ながらすらすら話していく。
「で、活動要旨についてが一番苦戦する所かなって思う。なんせ映画を撮るってだけなら映研もうあるし。ただ、だよ」
英は注目を集めるように人差し指を立てた。
「実は愛殿の部活にはインナーサークルって呼ばれるものが結構ある。その人達に聞いてみたけど、ここは結構個人的な理由の活動要旨でも先生との交渉次第で通るみたい。で、躑躅峠先生を頼るって話に戻るわけ」
かなり詳しく、英は話を纏めていた。
「ま、設立する上で問題なのは部活名くらいっすわ」
確かに、映研が既にあるとなるとそれ以外の名前になるだろう。
ただ、賛成反対を募る前に美青は少し確かめたかった。
「じゃあ、次に萩中さん、愛殿で部活を作るメリットデメリットについてお願い」
「ええ」
英の話を黒板に纏め終えた灯理は、その隣に『メリット』『デメリット』と書いた。
「メリットについては部費が出る、部室が手に入る、顧問の先生の同伴は必須だけど外での活動もしやすくなる、っていう事」
灯理はそれを順に書いていく。
「デメリットについて言うと、部で定期的に集まって活動報告を作る必要がある、外部に何かしらの形でかかわらなきゃいけなくなる……ざっと纏めるとこのくらいだけど、私達に関しては一概に当てはめられないわ」
灯理はそれぞれ書いたメリットデメリットの横に矢印を引いていく。
「部費に関しては私達が持ってる資産からすれば微々たるもの、部室は明確に二十四人集まれる所になるからメリットに数えていい、外での活動については
次に、灯理はデメリットの方を指す。美青はまるで教師の解説を見ているような気分になった。
「デメリットについてもそんなに気になる物ではないのよ。活動報告に関しては全員主役の映画を作る上で定期的に纏めた方がいいのは自明、活動報告は月ごとだけど、それくらいの頻度って考えると寧ろ私達の活動にも締まりが出る。最大の問題は」
灯理は最後に書いた部分を指した。
「活動を何かしらの形で外部に出す、っていう所。これについては英、インナーサークルの方でどうしてるかつかめた?」
灯理は英に話を回した。
英は再度立ち上がる。
「まあそれぞれ外部主催の学習系イベントに出るってのが大半ですわ。ただ、私達の場合『映画を撮る』って目的があるから、そこを中心に考えると勉強会だけで済むわけがないよなーってのは思う」
「ちょっといい?」
手を上げたのは、
「羊日」
美青は羊日を指名した。
「PINK MAD SICKの方ではやる予定だけど、動画投稿サイトに動画……全部でなくとも、公開できる範囲の物を出すって形ならどう? ただまあ、チャンネルの運営決める必要はあるけど」
「ちなみに聞くけど、PINK MAD SICKの方でのチャンネル管理は?」
「まあ私か鯉路のどっちかね。私は個人のチャンネルも持ってるからこれ以上はちょっとキャパオーバ―するわ」
「って事は羊日はそっちにある程度時間かけるから……こういうのできそうな人……」
本来なら自分がやるべきなのだが、いまいちイメージがつかない。
「動画の管理くらいなら私ができるわよ」
ドヤ顔で言ったのは
「じゃあ、編集班ができて、それぞれできた動画を藤宮さんに集めて公開して貰う、って感じかな」
「問題はもう私のアカウントがあって、複垢でのミスが怖いからアカウントそのものは誰かが取って欲しいって事よ」
「それって簡単にできる?」
「そんな難しくはないわね」
「なら、アカウントについては私が作って、実際的な管理は藤宮さんがやる、っていうのは?」
「任せなさい」
懸念していた部分についてはあっさりなくなった。元々紫姫は自分のダンス動画を上げるのにそういうチャンネルを持っている。アカウントについては美青の方で作る事にした。
美青が黒板の方を見ると、もう灯理の方で全ての会話を纏めていた。
「っていうメリットデメリットの上で、一番大きいのは部室が手に入るっていう事かなって思うんだけど……何せ二十四人集まれるスペースはそうそうないし、ここだとPINK MAD SICKの人達が臨時の席になっちゃうし」
美青は少し前置きした。
「だから、改めて。このメリットデメリットを考えた上で、部活申請した方がいいと思う人は挙手」
美青が尋ねると、全員から手が上がった。ひっそり撮っている千咲季と鯉路を見ても、手を上げている。
「じゃあ、部活申請については決定……部活名かな」
美青は英を見て尋ねた。
「まあ既存の部活と被ってなければなんでもいいんだけどね。名前だけだと何やってるのか分かんない部活もあるし。部活一覧開いて名前ないか確認するから、案ある人は出して」
英もまとめ役が板についてきたなと美青は思う。以前とは違う感じがする。
「映画って所がぶれない名前の方が分かりやすいよなー」
「それは毬子の言う通りなんだけど、単なる映画ってわけじゃないのも勘案に入れたいんだよね」
美青の隣で琴宝が言う。
「映画……映像……」
呟いているのは
「にゃ?」
初は不思議そうな顔をしている。
「映像美術研究会」
すぐに、雪夢は美青の方を見て手を上げて言った。
「映像美術研究会……由来は?」
美青はまず気になる所を尋ねた。
「私達の映画を一つの美術として考えた」
簡潔だが、雪夢らしい答えではあった。
「クソ映画と言ってる割に映像美術か、皮肉が利いていていいな」
「英、既存の部活との照会は?」
「映像美術研究会……今の愛殿にはないね。名前としては使える筈!」
英はすぐに結論を出してきた。教室の中には雪夢の発言に賛同する声が多くて、美青は少し話しを纏めるのに困った。
「静かに。話はまだ終わっていないよ」
そこで纏めてくれたのが、
「じゃあ、映像美術研究会、通称・映美研で通そうと思うけど……賛成の人は挙手」
美青は再度、決を採った。全員が手を上げる。
「じゃ、決定だけど……活動要旨か……」
先生については伝会を頼ればいいという考えはある。その上で問題なのは活動要旨だが、美青自身が書くとどうしても個人的な物になりそうだった。
「灯理、後で時間ある?」
不意に、琴宝が灯理に尋ねた。
「あるけど……」
「私と灯理で考えたのを美青に見て貰って、その後全員の承諾を得て出す。今決めると多分全員意見言うからごちゃごちゃな内容になるでしょ」
琴宝の言う事は美青にとっては助かった。話の根幹を知っている琴宝と、人の話を纏めるのが上手い灯理のコンビならばうまい事やってくれそうな気もする。
「みんな、大丈夫かな」
美青の言葉に、それぞれが賛成の返事を返す。
「じゃあ、今日の集まりはここまで。解散とします」
美青は少し委員長っぽく言って、話を結んだ。
「あ、藤宮さんはアカウントの作り方教わりたいからうちにきて」
「OKよ」
そこで締まらないのが自分らしいと、美青は心で苦笑した。
その後、灯理と紫姫が琴宝と美青の部屋にくる事になり、美青は琴宝と灯理と紫姫と一緒に帰った。
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