1-7:十鋒の理由
その日の朝、
十鋒は美青に言うと、前の席の琴宝にも同じ事を言って、更に
五人集めて何かしようとしている? 美青はそんな事を思った。その五人に共通する事は何か――思って美青は、大事な事を思い出した。
恐らく――考えて十鋒を見ると、とぼけた顔をしているので、美青は聞かずにおこうと思った。
昼になると、十鋒はすぐに立ち上がった。
「美青ちゃん、琴宝ちゃん、覇子ちゃん、慶ちゃん、メロメちゃん、学食いこう!!」
そして物凄い大声で叫ぶ。クラスメイトも何事かと十鋒と美青を見ている。
「分かったから落ち着いてね……」
美青は十鋒に言って、立ち上がった。
「慶、せっかくだから」
「うん」
覇子に言われて、慶がカメラを用意している。美青と琴宝が元々持っていた物については今は琴宝の方が持っているので、美青は財布がある事だけ確かめて学食に向かった。
「鴨嘴ちゃん元気だなあ……」
メロメはすぐに合流してきた。メロメには十鋒が鴨嘴に見えるらしい。もっとも、美青の中では何故か納得感があったが。
「樒場さん、カメラ回してもいい?」
慶は十鋒に尋ねる。
「いーよー! 大事な話だし!」
すぐに許可が出たので、慶はカメラを回し始めた。美青が後ろから覗き込むと、弾んだ足取りで歩く十鋒、その後を追うメロメと覇子が映っている。琴宝は美青と並んで後ろにいる。
「十鋒から話ってなんだろ」
琴宝は不思議そうに呟いた。
「この五人……何か樒場さんとあったっけ」
樒場さん、と聞いて、美青はスマホを取り出して鮎魚の連絡先にメッセージを送った。
〈すみません
〈
呆れたようなリアクションが返ってきて、美青はちょっと納得した。『樒場』という珍しい苗字に既視感があったし、なんなら『十鋒』『六槍』で武器の名前がついているのも一緒だったりと、共通点が多い。数字も入る。
「待って樒場さん」
学食に下りる階段をいく十鋒の方に、美青は右腕を伸ばした。
「何ー?」
振り返ったその顔は明るく、ちょっと聞くのを躊躇うような気持ちが美青の中に出た。
「樒場さんって……樒場六槍先生の関係者?」
美青がつかんだ情報を話すと、十鋒は目を大きく開き、輝かせた。
「知っててくれたんだ!」
「ちょ」
そして、階段を三段飛ばして着地する。見ていて冷や冷やする。
「美青、何か知ってんの?」
琴宝が後ろから追いつき、尋ねてくる。
「まあ、知ってるような知ってないような……」
十鋒が何か関係するらしい樒場六槍について、美青は桜来文芸部のOGでプロ作家であるという程度の認識しかない。作品は何作か読んだが、それで人物像を考えろというのも無理ではある。
「大丈夫! 全然変な話ではないから! それよりメニュー決めよ!」
十鋒は明るく言って、食券販売機の前に並んだ。
「まあ分かるからいいか……美青、何頼む?」
「んー……日替わり定食のB」
「トレー落とさないでね」
「気を付ける」
学食だとどうしてもトレーを持つ必要があるので、美青はあまりこなかったりする。左手は健常なのでフォローは効くが、人とぶつかったりすると危ない。
それから六人は食事を買って、一つの席に座った。十鋒はかつ丼を頼んでいた。
「じゃ、頂きまーす!」
そして即座に手を合わせる。
「いやまず呼び出した要件を言ってよ。気になるんだけど」
きつねうどんを前に、メロメが抗議する。確かにいきなり呼ばれていきなり話が展開していたらそれは疑問にも思うだろう。
「美青ちゃんはお姉ちゃんの事知ってたけど、メロメちゃんは?」
十鋒はいきなりさっきの話に戻った。
「樒場六槍……桜来にいた頃にペンギンがやるって言って読んだ桜来文芸部のOG……だけでもないよね、蟹ちゃん」
メロメは何故か文芸部とは接点がそんなにない慶に話を回した。慶は困ったようにカメラを動かしていたが、覇子が受け取ったので任せた。
「樒場っていう苗字だけの繋がりだけど……樒場
慶はすぐに、メロメと、美青と、琴宝もいた場所での記憶を出した。
「樒場遠宇……あー、凄い昔の夭折したご先祖様だ!」
十鋒は箸を慶に向けて言った。この分だと、詳しい事は知らないらしい。
美青も思い出した。
七人棺――『桜来七不思議』の元となった『桜来創設時に人体実験の材料として死亡した七人』の一人に樒場という苗字が存在した。十鋒はその詳細を知っているのだろうか。
「それで、十鋒と樒場六槍先生はどのような接点なのかな」
覇子が尋ねる。
「年の離れた姉妹だよ! 十六個違う!」
十六、と聞いて思わず美青は自分の年齢に十六を足したが、それが本当ならば姉の六槍は現在三十二歳、大分歳の離れた姉妹だ。
「美青が読んでるプロの作家の妹か……それでなんで十鋒は私達を?」
琴宝が美青と同じメニューに箸をつけながら言った。
「
十鋒はいきなりとんでもなく大事な所に突っ込んできた。あまりに声が大きいので、周りの視線まで集まってくる。
もっとも――美青からすれば、自分、琴宝、メロメ、慶、覇子というメンバーが一緒にいた一番大事な部分については猿黄沢事変の首謀者を片付けた所なので、それはそうだろうと予想していたが。
「まあそれは事実なんだけど、どうしてそれで樒場さんが? 解決したって言うならクラスにいる樒場さんと
活躍の大小に関わらず、当時のメンバーは全員解決に尽力している。その中で何故最後の局面に居合わせた五人なのかは美青には分からない。
「お姉ちゃんの事を助けてくれたから!」
そして返ってきた答えは、更によく分からなかった。
「少しいいかな、十鋒。一から話してくれ」
カメラを十鋒に向け、覇子は十鋒に求めた。十鋒はダブルピースを送っているが、確かに追加の情報が欲しい。
「んーと……」
知らない人もいるのかな、桜来の文芸部を出てプロになった作家はいっぱいいる。
でも、その全員、若い内に死ぬか発狂して引退してる。消息不明になった人も珍しくないみたい。
お姉ちゃんはそれを知っててプロになったけど、いつも怯えてた。
『自分もいつ死ぬか分からない』って怯えながら作品書いてた――実は。
お姉ちゃんの目には何か視界を遮る黒い物が映るようになってて、病院にいっても全然異常が認められなかった。あんまり人には言えないって、お姉ちゃんはいつも悩んでた。
でも、美青ちゃん達が各クラスになんだっけ、
お姉ちゃんはそれを飲んだら目が治ったって驚いてた。
その時言ってたのが――。
「頭の中で『もう私はあなたに触れられない』って声が聞こえて、それ以来不思議な事は一切なくなって、そのまま猿黄沢事変が発覚して……あとはもう、全然平和になった」
十鋒はかつ丼をつつきながら話し終えた。
「だからさ」
そして十鋒は、メロメ、慶、覇子、琴宝、美青を順に見た。
「あいつをやっつけてくれたみんなは、私のヒーローなんだよ」
とても純粋な笑顔で、十鋒は「ありがとう」と言った。
「……それで十鋒は、今の私達にも協力してくれるという事かな」
覇子は考えるように言った。
「それもあるんだけど」
十鋒は少し考えるように首を回した。
「この人達と一緒になりたいって思ったのが、一番の理由だよ」
それが――一番純真な、十鋒の理由なのだろうと思えた。
「なら――これからもっと、十鋒さんの事知らなきゃね」
美青が言うと、十鋒は少しきょとんとした表情になった。すぐに、強気な笑顔になる。
「さんじゃなくて『十鋒』がいいな。みんなからそう呼ばれたいし」
「じゃあ、十鋒。改めて、これからよろしくね」
美青が右腕を差し出すと、十鋒はその手を両手で握った。
「うん!」
ニッカリ笑う十鋒と一緒ならば、きっと面白い事になると、美青は確信しながら、食事に戻った。
放課後に起きる一つの事件の発端が始まっていたとは、思ってもいなかったが。
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