第2話自己肯定感低めな幼馴染
いつものように俺がスマホでSNSを見ていたときである。
ちょっとした広告が目に入った。
『女性アイドルオーディション開催決定!』
俺の幼馴染はめっちゃ可愛くて声が綺麗で運動神経も悪くない。
自分がアイドルになることには興味はないのだが、気が付けば俺はオーディションの特設サイトにアクセスした。
本当にアイドルになれるんじゃね? ってレベルの子が周りに居たら、そりゃもうこういう広告に興味を持たない方が難しい。
「お、15歳以上対象だしガチでイケるんじゃね?」
サイトを眺めること数分。募集要項も特に問題もなさそうだし、オーディションを開催している芸能事務所は超有名なところで信用できる。
今流行りの入会金30万円、月々の月謝が5万円とか、お金をとられたうえに何かと理由を着けて『デビュー』させて貰えないような悪徳な事務所ではなさそうだ。
とまぁ、これなら勧めても大丈夫だろう。
俺は興味本位で、アイドルをしているといっても誰にも疑われない容姿を持つ幼馴染である葵にオーディションのURLとメッセージを送った。
『これ、応募してみたら?』
俺がメッセージを送ると、葵からすぐに返事がくる。
『私なんかがアイドルってなれるわけないじゃん』
と言われるものの、俺からしてみたら謙遜しすぎである。
いつも俺は割と本気で言ってるのに、それを否定される。
今日はなぜかそれが俺の癪に触ったのか、葵に強めに出てしまった。
『いや、お前がアイドルになれなかったら誰がなれるんだよ? せっかくだし、応募してみろって』
熱烈な押しを感じたのだろうか、葵から電話が掛かってきた。
電話に出るや否や、呆れた口調の葵が話し出す。
「あのさ、私がアイドルになれるとか目が腐ってるんじゃない?」
「そうでもないって」
「颯太って私のこと可愛い可愛いっていうけど、頭おかしいでしょ」
「なんで、そんなに自己評価低いんだよ」
「てか、絶対に応募しないよ。そんじゃ……」
電話は切られてしまった。
自分が可愛いのを自覚しない幼馴染になぜだか無性に腹が立ってきた。
そして、俺はとんでもない行動に出る。
「よし、勝手に応募してやろ」
住所も知ってるし、ちょうどよさげな葵が正面を向いている顔写真も持っていることもあってか、不備なく応募フォームに葵の名前を登録できてしまうのであった。
なお、やっぱり勝手にはまずいよなぁとか思い、なんだかんだで葵のお母さんに『こういうの送っても良いですか?』と相談し、『ええ、いいんじゃない?』と許可をもらったのはここだけの話である。
※
勝手にアイドルオーディションに葵の履歴書を送ってから、大体3か月後。
俺の予想通りに葵は書類審査は通過した。
俺は意気揚々とこのことを伝えるために、学校が終わったら葵に大事な話をしたいから俺の部屋に来てくれないか? と伝えてある。
さあ、いつ来るのだろうかと俺が部屋でそわそわしていると、どこか落ち着かない様子の葵が俺の部屋にやってきた。
「……来たけど、いったい何?」
ちらちらと俺の方を見てくる葵。俺の大事な話が気になって、お隣である自分の家に帰らずに制服のままでやってきたようだ。
俺は改めて彼女の容姿を品定めするかのように見る。
女子の成長期は男よりも早いからか、葵の身長はすでに女性の大人とそう変わりないくらいの身長をしており、最近まで水泳を習っていたこともあってか程よく筋肉質な、すらりとした体系をしている。
体つきは完璧なのに加え、顔も凄く良くて葵は目鼻立ちのしっかりとしており、可愛いというよりも綺麗という感じの顔つきだ。
いやはや、本当に自慢できるくらいの幼馴染だな。
葵の容姿の良さを再確認した後、なんだかすぐにアイドルオーディションの書類選考に通ったことを言うのが勿体ないような気がしてしまい、俺は葵を焦らすようにもじもじとしながら言い淀んだ。
「……まー、あれだ。えーっと」
「で、話したいことってなんなの?」
「いや、まあ、あれだ」
「……なに?」
あ、ちょっと不機嫌な顔になってきた。
さすがにこれ以上を引き延ばすのはよくなさそうだし、言おう。
俺はわざとらしく、ごくりとのどを鳴らし神妙そうな面持ちで言った。
「アイドルオーディションに応募したら、書類選考を通過した」
「……ふーん。あっそ」
葵は心底興味のなさそうな態度で俺を冷ややかな目で見てきた。
え、いや、もっとこう驚くとかあってもよくないか?
葵の反応が薄かったので、肩透かしを食らったような気分になっていたら……。
「いてっ……」
葵が俺の肩を軽く殴ってきた。
なんで? という目で見たら、葵はぶつぶつと小さな声で言う。
「大事な話っていうし、颯太に告白されるかも……とか思ってた」
「いやいや、俺がお前を好きなわけないだろ。普通に兄妹みたいなもんなんだからさ。もしかして、葵って俺のことを好きなのか?」
また葵に肩をごすっと殴られた。
なんで? という目で見ると、葵は不機嫌そうに言う。
「颯太のこと好きじゃないし。変な勘違いしないでくれる?」
「だろ?」
「……ほんと、別に好きじゃないし」
とまぁ、葵が俺のことを好きかどうかの話はさておいて、話をアイドルオーディションに応募した件について戻そう。
「ほら、俺の言ったとおりだっただろ? 書類選考は絶対に通過するって」
「てか、勝手に応募するとかキモいよ」
「うっ……。そ、それはまあ悪かった。で、でも、あれだ」
「なに?」
「ちゃんと、葵の母さんにアイドルオーディションに応募してもいい? って確認取ってあるから安心してくれ」
俺にできる最大限の笑みで答えた。
そして、葵の顔は青ざめていく。
「……お、お母さんに言ってないよね?」
「いや、お前よりも先に書類選考に通ったよって言ってある」
「まじ最悪……。お母さんはこれもいい経験だし絶対にオーディションを受けろって、ごり押ししてくるじゃん……」
「だろうな」
「……ほんとっ、最悪!」
心底嫌そうにする葵を見ていると、なんだか申し訳なくなってきたな。
俺は少し言い訳じみた感じで謝る。
「悪いな。でも、葵はすごく可愛いのに自信がなくて……。だから、アイドルオーディションに応募して書類選考に通れば、自信をもって貰えるかなって思ってさ」
葵は明らかに
幼馴染として兄妹も同然に育ってきたこともあり、そんな相手がいつも自分に自信がなさそうにふるまう姿は見ていて何とも言えない気持ちになる。
アイドルオーディションがきっかけで、少しでも自分に自信を持ってもらえればと思っていたのだが、本人が乗り気でないのなら無理強いは良くないか……。
オーディションを受けるか受けないかは葵が決めるべきだよな。
どうするかの判断を葵に委ねようとしたときである。
「私って本当に可愛い?」
自信がなさそうに、こたえる葵。
そんな彼女の背中を俺は押すように笑顔で答えた。
「ああ、めっちゃ可愛い」
「……そっか。ち、ちなみに、颯太は私がアイドルになれたら、実際どうなの?」
「どうって?」
「か、感想的な?」
幼馴染である葵がアイドルになり世間で話題になった姿を想像した。
そして、俺はそんな彼女に思うであろうことを口にする。
「幼馴染として誇らしいと思う。めっちゃお前のことを尊敬する」
俺がそう言い切った後のことだ。
葵はなんだか満更でもなさそうな顔でぼそっと言った。
「まあ、そんなに颯太がいうんだからしょうがない」
「何がだ?」
「オーディション受けてあげる。でも、あれ。受けるだけだし、本当に合格とかできなくても失望しないでよ?」
「当たり前だろ。てか、書類選考に通った時点で凄いと思うぞ」
「べ、別に凄くないし」
こうして、葵はアイドルとしての道を歩みだすのであった。
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