邪竜の実力

 ギルドに戻れば、建物の前にブラムとティアマトは待機していた。


 二人きりにしてしまって大丈夫なのかちょっとだけ心配してたが、どうやら杞憂だったみたいだな。

 ……ブラムは滅茶苦茶心細そうにしてるけど。


「なんだ、外で待ってたのか」


 声を掛ければ、ブラムがいち早く反応する。


「あっ、お帰りなさいませ! ドラ……じゃなくて、ドレイク様!」


「もう用事は済んだようだな。先の痴れ者共はどうした?」


「さあな、そこら辺で昼寝でもしてんじゃねえか。待たせて悪かったな」


 全員漏れなく路地裏で伸びてるけど、そこまで言う必要はないだろ。

 それよりも、だ。


「さっき連中に絡まれていた人らは?」


「まだ中におるぞ。……なんじゃ、あの人間が気になると申すのか?」


「まあな。でも、無事そうならいいや」


 言って、俺は街の外へと方向転換する。


「声をかけなくてよいのか」


「必要ない」


 ミオを助けたのは、ただ見過ごせなかったってだけだ。

 最推しではあるが、別にお近づきになりたいとか、そんな理由では決してない。

 いやまあ、お近づきになれるのならマジ大歓迎なんだけど。


 だとしても——推しは、一歩引いた適度な距離から応援するべし。


 推しに認知されたいが為にでしゃばるのは、俺のちっぽけな矜持が許さない。

 今回は不可抗力だったから致し方なかったが、極力こっちからはアクションを起こさないようにしよう。


「んじゃまあ、気を取り直してサクッと依頼を片付けに行こうぜ」






 虹剣において魔物というのは、生物の負の残留思念が生み出した擬似生命体だ。

 それが大気中の魔力と融合することで魔物は発生する。

 だから、魔物は倒すと肉体が黒い粒子となって霧散するし、一帯にいる魔物を根こそぎ狩り尽くしたとしても、時間経過で自然と個体数は元に戻る。


 あくまで設定資料集で記述されていた設定だが、こっちの世界にも適用されていると見ていいだろう。

 そうじゃなきゃ、街周辺にいる魔物を間引きしてくれって依頼があることに説明がつかないし、斡旋してある依頼の多くがこういう魔物の討伐依頼だったからな。


 ちなみに街の中で魔物が自然発生しないのは、そうならないように街全体に抑止兼魔除けの結界が施されてあるからだ。

 それは、どれだけ小さな村や山奥の一軒家、野宿先であっても変わらない。

 発生抑止の結界式を誰でも簡単に入手できるから実現できていた。


 この情報も設定資料集で明言されている。


 他にも、強大な魔力が大気に干渉することで結界同様の効果を齎したり、元から魔物が発生しない空間があったりする。

 前者は霊峰の頂上付近が、後者は地の聖剣が祀られていた場所がそれに該当する。


 ——つっても、今のティアマトにそれほどの力はないはずだけど。


「そういやさ、今のお前ってどれくらい戦えんの?」


 街の外に移動して暫く歩いたところで、俺はティアマトに訊ねる。


「なんじゃ、妾の力を疑っておるのか」


「いや、そういうわけじゃないけどさ」


 いくらラスボスに匹敵するクラスの強さとはいえ、人に姿を変えた上に、魔力の大半を制限している状態だ。

 どうしてもある程度の疑問は出てしまう。


 だとしても、流石にそこらの人間よりは余裕で強いんだろうけど。


「……ふむ、いい機会じゃ。この姿に馴染むついでに妾の力を見せてやろうぞ」


 言って、ティアマトは魔力を練り上げ始める。

 それを掌に収斂し、増幅させた途端、周囲に発散した魔力の圧で肌が軽く痺れた。


「うひゃあ!?」


「……マジかい」


 確かに魔力量自体は、邪竜の時と比べてばかなり減衰している。

 けれど、圧力とか密度はそこまで弱まっていない。

 なんというかMPの最大値は減ってるけど、魔法攻撃力は据え置きって感じだ。


 俺とブラムが呆気に取られているのを余所に、ティアマトは近くにいる獣型の魔物——あれはトウテツだったか——に目星をつけ、練り上げた魔力を放つ。

 刹那——弾丸を上回る程の速度で飛んでいき、胴体の一部を巻き込んで頭部をを吹き飛ばしてみせた。


「うっわ……」


 単純な魔力操作だけでこれかよ。

 ここまで来ると、凄いを通り越してちょっと引くわ……。


 ブラムに至っては、完全に青褪めていた。


「……ふむ、身体は異なれど魔力は同じ感覚で扱えるのだな。どれ、もう少し試してみるか」


 言って、ティアマトはさっきと同様の魔力を生成し、近くにいた別の魔物をどんどん撃ち抜いていく。

 トウテツの他にスライムやら怪鳥の魔物ガルーダとか色々いたけど、全てワンパンで屠り、数分足らずでノルマの十五体討伐を達成してしまった。


 しかし、これで止まることなくティアマトは、魔力操作の感触を確かめるように淡々と魔物を狩り続ける。

 そうして更に十分が経過しようとした頃——、


「……む、もう魔力が尽きてしまったか。やはり魔力量を制限した状態では、この程度しか戦えぬのか。分かってはいたが、不便じゃのう」


「この程度で済む数じゃないけどな」


 言っとくが、この短時間で五十体くらい魔物倒してるぞ。

 おかげでダブルスコア超えてトリプルスコアになってんじゃねえか。


 とはいえ、十分そこらで魔力切れが起こるってことは、魔力制限はしっかり効いていると見るべきだな。

 となると……長丁場になりそうな場合は、俺がメインで戦った方が良さげか。


 ——ま、そこは状況によりけりか。


 恐らく、ティアマトが魔力切れを起こすほど長引く戦闘なんてそうそう遭遇することはないだろうけど、この情報は胸に留めておこう。


「さてと、そんじゃあ俺も何体か魔物を狩っておくとするか」

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