差し向けられた刺客
『ヘイスト』を習得したことで、修行効率は飛躍的に向上した。
敏捷性の上昇は、基本動かなかったからあんま関係なかったが、行動速度の上昇が魔力の生成速度にも良い影響を与えてくれた。
おかげで”生成”と”形成”のサイクルを早く回せるようになり、結果、『ヘイスト』を習得するよりも短い時間で次の魔術の習得に成功した。
勿論、サイクルが早くなった分だけ魔力消費は激しくなったが、魔族特有の魔力量の多さと先に習得しておいた『MP消費効率アップ』の恩恵があったことで、魔力切れを起こさずに修行をし続けることができた。
そうこうするうちに、あっという間に時は流れ。
——霊峰山籠もり生活、十五日目。
「……まあ、ざっとこんなもんだろ」
初歩的なものばかりだが、一通りの支援魔術の習得が完了した。
膂力を上昇させる『キーネスト』、肉体をより頑強にしてくれる『ロバスト』、魔力出力を強化する『ブースト』。
他にも回復手段として『ファーストエイド』、状態異常対策に『リカバー』にデバフ対策の『ディスペル』——ひとまずこれだけ覚えれば、山を降りてもどうにかやっていけるはずだ。
それとこれは戦闘用ではないが、他者に術式回路を移植する魔術『
というか、どっちかというと後者二つの術の習得に滅茶苦茶時間をかけた。
戦闘用も必須だが、『形態変化』がなきゃ人前に出れないからな。
序盤であっさり勇者一行にぶっ倒されたとはいえ、仮にも魔王四天王の一角だった魔族だ。
そんな奴がふらっと人前にでも現れてみろ。
超絶大騒ぎになるどころか、俺の存在を嗅ぎつけた魔族がやって来くるわ、そんで更に勇者もやって来るわで阿鼻叫喚どころじゃない状況になるぞ。
勇者戦をバックれた以上、原作崩壊はもう気にしてないが、だからといって不用意に混乱を招きたいわけではない。
波風立てずに済むなら、それに越したことはない。
にしても……やっぱ
改めて思うが、習得できる術の幅が広すぎる。
ぱっと見はごりごりのフィジカルタイプなのに、実はかなりのテクニック系だったとか、原作をプレイしてた時は夢にも思わなかったぞ。
もし
なんて、つらつらと考えていた時だった。
「——ドラコ、貴様に客だぞ」
ふと、ティアマトの真剣な声音。
視線は山麓に向けられていた。
「あちゃー、遂に来ちゃったか」
言われて魔力探知してみれば、微かにではあるが反応がある。
まだここからかなり距離は離れているが、魔族のもの思わしき魔力が二つこちらに近づいて来ていた。
「来ちゃったって、まさか……!?」
「ああ、魔王軍の奴ら、とうとうここを嗅ぎつけたみたいだな」
答えれば、
「ひえっ!」
ブラムがびくりと飛び跳ねた。
それから俺の後頭部にべったりと張り付いて、
「あわ、あわわわ……ドラコ様、どどど、どうしましょう!? ぼくらがここにいることがバレちゃいました〜〜〜!!!」
「どうするも何も返り討ちにして、そのままお帰りいただくしかないだろ」
ここまで捜索に時間がかかったのは、やっぱティアマトの根城だからだろう。
奴らとしても、そう易々とここに足を踏み入れたくはないもんな。
「悪いな、お前の庭に変なの入れちまって」
「気にせずともよい。羽虫が一匹、二匹紛れ込んだところでどうということはない。ただ妾の気を害せば叩き潰す。それだけのことよ」
サラッとおっかない発言すんなし。
魔族を羽虫扱いとか……まあ、実際こいつからしたらそうなんだろうけど。
「けどまあ、元を辿れば俺が撒いた火種だ。自分で片付けてくるよ」
「ふむ、そうか。ならば……奴らをここに招かせよ」
「……ん? と、言いますと?」
訊ねれば、ティアマトは平然と言いのける。
「妾の前で戦えと言っておるのだ。修行の成果とやらを妾に見せてみよ」
「ええ……」
娯楽に飢えすぎだろ、この邪竜。
完全に闘技場の観客気分じゃねえか。
まあ、わざわざこっちから出迎えに山を降りなくていいのは助かるけど。
その後、ボスフロアで待ち構えていると、二人の魔族が姿を現した。
「——ようやく見つけたぞ! 我らが魔王様の命令に背き、あろうことか勇者一行に地の聖剣をみすみす渡す愚行を犯した裏切り者ドラコよ!」
俺を視界に捉えるなり叫んだのは、長い金髪の生真面目そうな男だった。
その隣では、如何にも荒っぽそうな銀髪の男が、ひゅ〜と口笛を鳴らしながら、にやりと笑っていた。
「おいおい、まさか邪竜のお膝元に潜んでいたとはな! おかげでテメエを見つけるのに随分と時間がかかっちまったぜ!」
「……へえ、あんたらが来るのか」
——ゴルドとシルバ。
魔王直属の精鋭部隊のメンバーではあるが、設定資料集でのみ、その存在が語られていた魔族。
奴らが本編で登場していないのは、確か……なんだっけな。
……ああ、そうだ、俺の背後にいる邪竜にぶっ殺されたからだ。
設定資料集によれば、何度もティアマトの隷属化に失敗したことで痺れを切らした魔王が、最終的にこの二人を派遣させたんだけど、結局こいつらでさえもティアマトには敗れてしまったという。
そして、この出来事と勇者の地の聖剣入手が重なったことで、ティアマトの隷属化計画は完全に頓挫し、終盤で勇者一行が現れるまではもう霊峰に近づく者は誰もいなくなった——というのが原作での流れだ。
となると、あいつらが刺客として選ばれたのも、ある意味では必然なのかもな。
——どのみち、ここでくたばることになるのだから。
もしかすると、
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