本当に今更だけど
翌日も朝から晩まで魔力生成の訓練に勤しみ、ちょっとずつではあるが着実に魔力を生成する練度が上がっていった。
更に翌日、そのまた翌日も同様に同じ特訓に没頭し、気づけば山籠もり生活を始めてから早くも十日が経過していた。
現状、『消費MP効率アップ』の取得以外には、特にこれといった変化はない。
強いて言うのであれば、減少可能な割合が二パーから十パーに変わったのと俺自身が魔力生成に慣れてきたこと、それからブラムとティアマトの物理的な距離が縮まったことくらいだろうか。
最初は寝ているだけの大型犬に遠巻きからビビり散らしているチワワのようだったブラムだが、今では俺の陰に隠れてさえいれば、それなりに近づくことができるようになっている。
とはいえ、やはり未だティアマトのことは怖いみたいで、奴が俺に声をかけてきたり、あくびや伸びといったちょっとした動作をするだけでびくりと大きく身体を震わせてしまっていた。
なんというかブラムは、本質的には小型犬な気がする。
それも臆病で甘えん坊タイプの。
山籠もり生活が終わったら、ちゃんと何かしらのご褒美をやらないとな。
とまあ、こんな感じに魔力生成の訓練にも一定の目処が付いてきたから、そろそろ次の段階にして鬼門——魔力の形成に移行しようと思う。
「最初に習得する術は、どれがいいか……」
ステータス画面と睨めっこしながら呟く。
攻撃も回復も補助も全般的にこなせるからこそ、逆にどれを取ればいいのかが悩ましいところだ。
まあ、最終的には全部取ることになるんだけど。
「……なあ、ブラム。魔術ってどれから覚えれば良いと思う?」
頭の上に乗っているブラムに声をかける。
すると、よく分からない間が空いた後、ブラムはきょとんとした様子で、
「え、ブラムってぼくのこと……ですか?」
「そうだけど。なんでそんな驚いてんの?」
「だって、そんな呼び方されたことないので……」
「いや、そんなわけ……あっ」
そうじゃん、確かに一度もブラムって直接呼んだことないな。
そもそもブラムってニックネームは、ドラコじゃなくて
「……でも、嬉しいです! ドラコ様、ずっとぼくのこと、おいとかお前とかでしか呼んでくれたかったので」
「それは……うん、ごめん。次からは気をつけるよ、ブラム」
その拍子にブラムが頭の上からぽとっと落ちてきたから両手で受け止める。
ブラムは上機嫌そうに体を揺らしていた。
きっと尻尾があったらぶんぶん振り回していただろうな。
うん、やっぱ本質的には犬な気がする。
改めてそう思っていると、暇そうに横たわっていたティアマトが頭を起こした。
「——そこのスライム。随分と良き名前を付けてもらってるではないか」
「ぴぎゅ!?」
ブラムが変な鳴き声みたいな声と共にびくっと飛び跳ねる。
それからすぐに俺を盾にして、ティアマトを睨むように体を向ける。
「こ、これは、ドラコ様がぼくにつけてくれた名前だ! お、お前には、や、ややや、やらないぞ……!!」
「安心せい、他者の名を取るほど低俗な趣味は持ち合わせておらぬ。……して、ドラコよ。妾にそのスライムのような愛称はないのか?」
「いや、普通にないだろ。そこまで親しい仲でもないじゃん、俺ら」
出会ってから十日経ったとはいえ、そんなに親睦を深めてもないし。
「ふむ、そうか。なら、貴様に妾の愛称を付けさせる権利をくれてやろう」
「なんで上からなんだよ」
分かってはいたことだけど、王様気質過ぎんだろ。
けどまあ、だからこそ誰の下にもつかずにこんな場所にいるんだろうけど。
「まあ、そいつはまた今度な」
適当に流せば、
「くくっ、無礼な奴め。では、その時が来るのをゆっくり待つとするかの」
ティアマトは冗談めかしたように笑い、再びその場でくつろぎはじめた。
(……なんだったんだ、今の?)
ゲーム内ではちょっとしか出てなかったとはいえ、ティアマトがどういうキャラなのかはある程度把握しているつもりだ。
だったのだが……あいつ、あんなフレンドリーな奴だったっけ?
虹剣の世界とこっちの世界が非常に似て非なるものだとは分かってはいるが、こうも原作と違う一面を見させられると、なんかこう……しっくりこないな。
けれど、こればかりは仕方ないことではあるか。
とりあえず今のところは、そういうもんだってことで片付けておこう。
集中するべきなのは、これじゃないしな。
気を取り直し、俺はステータス画面に視線を戻す。
だいぶ脱線してしまったが、さっさと習得する魔術を選んで特訓に入らねえと。
「……うし、これだな」
悩んだ末、俺が選んだのは『ヘイスト』——名前の通り俊敏性や行動速度を上昇させる術式だ。
どのゲームにおいてもヘイスト系のスキルは腐りにくい。
それは虹剣も例に漏れず、通常戦闘においてもボス戦においてもかなり重宝していた。
別にRTA思考は持ち合わせていないが、速さは一種の正義だ。
どうせ後から取れるスキルは全て習得するとはいえ、初めの一歩としてはこれが丁度いいだろう。
そう結論付けたところで、俺はブラムを頭の上に戻して早速、習得の為の特訓に取り掛かることにした。
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