第9話 ノゾミさんはちょっとずるい



「そうそう、私達がなぜ怪力なのかだけど

 それは素材の違いのおかげだね・・・

 そうだね・・・ちょっと違うけど、例を挙げるとすれば

 ここに銅像が2体あるとする・・・

 見た目はまったく、一緒だ同じ金型で作られ寸分の違いもない

 ただ、片方は銅で作られ

 片方は黄金で作られている・・・・価値が高いのはどっちだい?」


 イロイロとノゾミから聞かされ、まだ混乱しているが

 今、聞いた例えは、わかりやすく

 シンタロウも直ぐに、答えることができた


「それは黄金製ですよね」


 ノゾミもシンタロウに理解してもらえて満足なのか 

 笑顔を見せている

 しかし、シンタロウの方は複雑な心境だった

 納得できない、、いや納得したくないのか

 いろいろな感情がシンタロウの心に湧いては消えて行くが

 つまらない疑問が、ふとシンタロウの中に


「あの、ノゾミさんて、てゆうか佐藤望さんて教師か何かだったんですか?」


「教師ではなかったけど、大学院で研究をしていた、まあ将来的には講師になり

 助教授・・・あわよくば教授とか・・・少しは野望も持っていたようね」


 やっぱりそうか・・・この授業を受けているかのような感覚

 

「ノゾミさんついでに・・・大学院にいた割に、体力ありますよね?

 なにかスポーツでもしてたんですか?」


 シンタロウの問いにノゾミは少しバツの悪い顔になると


「この身長だしね、、高校の三年間はバレーをしていた

 大学に入ってからは、止めていたんだけど

 運動不足を感じてね大学院に上がってからは

 護身もかねて空手を少しやっていた・・少しだよ」

 

 シンタロウの視線がノゾミには痛く

 つい、愛想笑いを浮かべながら言い訳がましい事を喋りだす


「いや・・確かに佐藤望は優れた素質を持っていた女性だが

 そのぶん男には本当に、モテなかったんだ、なにせ25歳の時点で

 一度も男と付き合った事もなく、キスさえしたことが無かったんだから

 たぶん、2024年まで生きていると仮定しても

 結婚もしてない、仕事だけが生きがいの寂しい女に、なっているはずだよ」


 佐藤望に死ぬほど失礼な事を言っているが

 シンタロウの心にはあまり響かなかったようだ


「ノゾミさんその分 女にはモテたんじゃないですか?」


 シンタロウの鋭いツッコミにノゾミは言葉を失うが


「確かに女子高だったせいか、ラブレターはいっぱい貰ったけど

 私はそちらの趣味は無いし・・・迷惑なだけだったよ」


 そのノゾミの言い訳に、シンタロウは大きく溜息を付くと


「はーーーたとえ同性にでも、モテた事あるならいいじゃないですか

 僕なんて、、ラブレターなんか貰っ事もないし

 女の子とまともに話したこともないんですよ」


 切れかけている、シンタロウの勢いに完全に飲まれているが

 ノゾミにも、言い分はまだある


「シンタロウ、、君が佐々木慎太郎のコピーになることを選べなかったように

 私も佐藤望のコピーになることを、選べた訳じゃないんだよ」


「そんなこと解っていますよ」


 そう一言いうと、シンタロウは黙りこんでしまった




「まあ・・・今日はもう休むといいよ、その寝床は私の物なんだけど

 進呈しよう、、希望するなら、後ろにいる奴隷も付けるけど?」


 いつものシンタロウなら即答するのだろうけど

 いまは、一人で考えたいんだろう

 首を横に振る

 ノゾミはそんなシンタロウを見つめると

 後ろにいる奴隷女に指示をだし、シンタロウに布団を掛けさせる


「あの・・・有難いですけど、ノゾミさんはどうするんですか?」


「気にしないでもいいよ・・私達に睡眠は実はいらないんだ

 ただ、定期的に眠くなるだけで・・眠らなくても何も問題が無い」


「え・・・じゃあ、もしかして食事もいらないとか?」


「そうだよ、定期的にお腹が減り、喉が渇くが・・・我慢してれば

 そのうち何ともなくなる・・・

 ついでに教えておくが、性欲も、定期的に湧くが我慢してれば消えるし

 子供は絶対に作れない、さっきも言ったが私達の血は

 本物じゃない、血に似たなにか、精液も一緒だよ

 あとね、、今まで気づいていなかったみたいだけど

 オシッコや大便も、本物じゃない、似た何かだ出しても2~3日すれば

 消えてしまうし、したいのを我慢すればそのうち収まる

 それどころか、出さなくても問題ない

 ・・・解ったろう?・・・私達は生き物じゃないんだよ」


 いまのノゾミの言葉はシンタロウにとって一番の衝撃だったかもしれない

 信じたくない事実に、確実な物証が出来てしまうのだから

 そんなシンタロウを見てノゾミはどう思ったのか


「まだ聞きたい事があるのなら、付き合うが?」


 シンタロウは首を横に振り、目を閉じる

 ノゾミも、奴隷に下がるように命じると

 自分も目を閉じることにした

 


 目を瞑ったが、眠くはなってこなかった

 いや、ノゾミの言ってる事が真実なら、寝なくても何の問題も無いんだろか?

 シンタロウも考えてみる・・・自分は何者なんだろうと?

 

 






 考えているうちに、シンタロウも眠ってしまっていたようだ

 外が明るくなって、朝になる、、シンタロウは当たり前のように目を覚ます

 そう当たり前にだ・・・シンタロウはこの当たり前は

 体が求めた物なのか・・・それともそう決まっているからなのか

 解らない・・・眠りに付くまで考えたが、答えがでない

 いや答えは出ているのかもしれないが

 シンタロウには、その事を認めることが出来なかった


「どうやら、手も元通りになったようだね」


 突然のノゾミの言葉に慌てて両手を見てみる

 間違いなく両手がある・・・嬉しいがこれでまた

 ノゾミの言う事が証明されてしまった

 シンタロウにとっては、複雑な心境にならざるえない


「どうしたんだい?・・・もとに戻ったんだ、嬉しくないのかい?」


「いや、うれしいけど・・・」


「そうかね?・・・ところで朝食はいるかい?」


「いや・・・勿論、食べるに決まっているでしょう・・・

 何で聞くんですか?」


 ノゾミは少し困ったような顔をすると


「私は、食べないし、余分な食料を持ってきていなくてね」


「それって・・・我慢しろって言ってますよね?」


「まあ・・そうかな・・・奴隷の食べる分しか持ってきていなくてね

 君が食べるつもりなら・・奪ってこないといけない

 奪われた蛮族たぶんっ餓死することになる

 私はそれほど気にならないが、君は気にするだろう?」


 当たり前だと、シンタロウは大きく頷くと

 ノゾミに嫌味を言っておくことにする

 

「ノゾミさんと違って、まだそこまでこの世界に染まっていないんです」  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る