第7話 ノゾミさんの長いお話



 シンタロウは見知らぬテントの中で目を覚ました

 まず思いついたのが、夢だったのか?

 だが、残念なことにシンタロウの両手の感覚は無く

 シンタロウを落胆させる・・・・

 

 気分は最悪だが、確認しないといけない事がある

 まず、あれからどうなったのだろう?

 自分は生きているようだが・・・

 ここは何処なんだろう?

 テントの中のようだが?

 シンタロウが上半身を起こすと

 自分を見つめている、女と目が合う・・・


「ノゾミさん?・・・・」


 シンタロウを見つめる女は、椅子に腰かけながら

 側にいる別の女に、何やら指示をしている

 どうやら、目を覚ましたシンタロウに水を飲ませてくれるようだ


 水の入った、コップをシンタロウの両手の変わりに

 口まで運んでくれる、女に少しの抵抗を感じたシンタロウだが

 やはり、目覚めたばかりで、喉が渇いていたのか

 女のされるがままに、水を飲み渇きを癒させてもらう事にする


 まだ飲み足りないが、コップの水が無くなった所で女は

 シンタロウから離れ、ノゾミの後ろに、戻っていく

 その後ろ姿を、見送ると、自然にまた自分を見つめている

 ノゾミと目が合ってしまう・・・・

 シンタロウはノゾミの目を見つめながら、問いかけ始める


「あの・・・・ノゾミさん、あの後どうなったんですか?」


「共和国軍は、ほぼ壊滅状態で撤退したよ」


 まあ、そうだろうな、共和国軍の敗北はシンタロウにとっても

 たいしたショックでもなかった

 それよりも、なぜノゾミは自分を生かしているのか

 そちらの方が聞きたかった事で


「ノゾミさん・・・なんで僕を助けてくれたんだ?、、

 あと治療してくれたのなら、手も元通りしといてもらえたら

 嬉しかったんだけど」


 シンタロウの問いかけにノゾミは微笑むと


「なぜ・・・助けたか?簡単だ戦いが終わったからだよ

 君は共和国の助っ人・・・・私は蛮族の助っ人

 別に私は君個人に恨みはない

 戦いが終われば、もう敵でもないしね

 あと・・私は治療は一切してないよ・・川から引き揚げ

 ここに連れてきただけだね」


「え?・・・でも凄い失血だったし・・そうだ胸に剣が刺さり

 間違いなく致命傷だった」


 ノゾミの言う通りなら、なんで自分は生きているんだ?

 そう不思議に思い、つい独り言を出してしまうが

 そんなシンタロウに独り言に、ノゾミが答えを出してくれる


「君がいつも言っている勇者特典と言えば、理解しやすいのかな

 私達は、並大抵の事では、死ぬことは無い」


 たしかにその説明がシンタロウには一番理解しやすかったのだろう

 ノゾミに頷くと


「あの・・・できれば両手も何とかして欲しいんだけど?」


 いつもの調子に戻ってきたシンタロウに

 ノゾミは呆れつつも


「それなら、心配いらないよ、そのうち生えてくるから」


 ノゾミのアッサリした答えに、シンタロウはあっけに取られると

 

「え?・・・そうなの、生えてくるの?」


「ああ・・・早ければ、ひと眠りすれば、元に戻ってるかもしれないよ」


「そんなに早く?・・・いや勇者の体、すごいな」


「すごい?・・・・私にはでたらめに思えるけどね、とても生物とは言えないよね」


 ノゾミの自嘲じみた発言に、シンタロウは驚かされるが

 シンタロウには(勇者なんだから)その一言で、納得でき


 慣れなのだろう、そんなシンタロウの考えがノゾミには

 理解でき、思わず突っ込みそうになるが


「いや・・・あのね・・・まあもういいか・・・ところで

 シンタロウ、これからどうするつもりだい?」


 これからの事については、もうシンタロウには答えが出ていた


「うん・・・前にも言ったけどノゾミさんとの戦いの後どうするか

 すこし話したよね?」


「ああ・・・たしか、私が二人目の妻になるか、ベ〇ータとかになるんだっけ?」


 ノゾミの答えに、シンタロウは頷くと


「そう言ったんだけど、どうもこれは違うパータンだな

 ノゾミさんが僕の師匠になるんだと思う」


 相も変わらずの、シンタロウの都合の良い言い草に

 ノゾミ本当に呆れて、何も言う気が無くなってきたが

 返事をしない訳にも、いかないので溜息をつきながらも

 ノゾミは口を開く


「すまないが、私は君を弟子にするつもりは、全然ないよ」


 ノゾミの冷たい言葉に、一瞬思考が止まるが

 信じられない、どういう事なんだろう?


「あの?・・ノゾミさん、それは弟子にするには何かクエスト的な事

 しろって事?・・・なにか取ってこいとか?」


「いや、、何を言っても、なにしようとも、君を弟子にする事は

 絶対にないね」


「え?・・・なんで、、理解できないよ・・・正気なのノゾミさん?」


 あまりの言い草と、理解できないと顔を歪ませるシンタロウに

 もしかして、私が間違っているのかと?

 ノゾミは錯覚させられるが


「いや・・・シンタロウ、君を弟子にして、私に何のメリットがあるんだい?」


「なに、小さい事いってるんだよ・・・人に物を教えるって

 メリットかデメリットとか関係ないだろう? 見損なったよ」


 言ってることは、もっともかもしれないが

 なぜ、教えてもらうのが、当たり前なんだと?

 ノゾミも少しだが、イライラしてきた


「あのね、シンタロウ・・・君に教えてメリットが無いってのは

 教えても時間の無駄だからって、遠回しに言ったんだけど

 ハッキリ言わないと解らないみたいだね」


 ノゾミの言い分に、シンタロウは理解が出来ないのか

 不思議そうな表情になると


「いや・・・僕は選ばれた勇者だし・・・隠された力か才能が

 これから開花するはずだから」


 ノゾミは、深く溜息をつくと


「シンタロウ・・・君に半年近く付き合った、私の所見を言わせてもらうよ

 君には、見るべきものがない、知力も、体力も並み以下

 そのくせ、なんの努力もしない・・・

 それなのになぜか、自分は選ばれた者、強くなるはず、そう思い込んでいる

 私には、理解できないよ」


 ノゾミの突き放したような、言葉にシンタロウもショックを隠せないが

 

「でも・・・僕は勇者としてこの世界に選ばれて召喚されたんだ

 絶対に・・違う・・・僕は選ばれたんだ」


 ノゾミにも、キツイ言い方をしている自覚はあるし

 シンタロウがショックを受けているのも解る

 当たり前の話だが、自分には才能がない、そう指摘されて

 嬉しい人間はそういないだろう


「シンタロウ、、君にはショックだろうが、言わなくてはいけないようだ

 まず・・・君は選ばれてなんかいない・・ただの偶然だ

 あと・・君のもつ、この世界や勇者に対する思い込みは

 ほとんど、すべてが間違っている・・・ 

 まず・・・よけいな思い込みを無くすことだ」


「思い込み?・・・間違っている?」


 ノゾミはシンタロウに頷き


「逆に聞きたいんだが、君の思い込みで、正しかったことがあるのか?」


 ノゾミの冷たい言葉に、シンタロウもイラつき気味に答える


「異世界召喚なんてテンプレ展開その物が僕の身に起きたのが証拠だよ

 僕は普通の、いや普通以下の高校生だった

 そう、元の世界でいつも思っていた、、この世界は僕の世界じゃない

 転生でも転移でも、召喚でもいい、異世界に行けたら

 そこでなら、僕の本当の力が試せるはず

 そう思っていたら、本当に異世界に勇者として召喚されたんだ

 これが偶然の訳が無い・・・この世界が僕の本当の世界なんだ

 この世界なら、僕は上手くやれるはずなんだ」


 シンタロウの、怒鳴るような、叫びを聞き

 ノゾミは、ようやくシンタロウという人間が理解できたと思った

 シンタロウは本当にダメな人間だ、自分に原因があると考えず

 周りのせいにする、元の世界でダメなら、異世界にこようとダメだ

 それがノゾミの正直な感想だったのだが

 

 じつは、、シンタロウの人間性以外にも実は根本的な問題がある

 それを告げるべきか・・・ノゾミは暫く迷ったが

 シンタロウも知っておくべきだろう

 その結果がどうなるかは、解らないが・・彼自身の事でもある


「シンタロウ、、根本的な勘違いがある・・・君は異世界から来てはいない

 佐々木慎太郎、彼は今も日本のどこかで、暮しているはずだよ」


 ノゾミの衝撃的な言葉に、一瞬思考が止まるが


「ちょっとまって・・なにデタラメ言ってるの・・じゃあ僕は何?

 ドッペルゲンガーとか、そんな物だと言いたいの?」


「ちかいな、君は、佐々木慎太郎のコピーだよ

 シンタロウ、君という存在は半年前のあの召喚魔法で

 この世界に作られたんだ」


「そんな馬鹿な、、僕には17年日本で暮らした記憶だってある

 それもコピーされた物とでも?

 第一どんな証拠があるって言うの?

 今の日本に佐々木慎太郎がいるって証拠でもあるの?」


 シンタロウにはとても理解できないし、納得できない

 いくらノゾミの言う事でも、こればっかりは

 信じることが出来ない


 だがそんなシンタロウに、ノゾミはさらなる事実を


「証拠かね、、そうだねじゃあ、さっき君が言った記憶だけど

 どこまで昔の事を思い出せる?」


 ノゾミの質問にシンタロウは、ハッキリと答える


「小さいころまで思い出せるよ、だって自分の記憶なんだから」


「そうだろうね・・・私にもあるよ・・・産まれた時の記憶さえもね」


「え?」・・・・ノゾミの突然の告白にシンタロウも

 その時の・・・・そう自分が産まれた時の記憶が頭に浮かんでくる


「自分が産まれた時の記憶を持ってるなんて、あり得る訳ないよね?

 私達の記憶はね、実際に経験した事じゃないんだよ

 そうだね、、知識として頭の中に入っていて

 映画や、ドラマみたいに、見ることができる・・・・

 そんな感じなのかな?」


 シンタロウは混乱していた、、たしかにノゾミの言う通り

 生まれた時の記憶や、赤ん坊の時の記憶

 普通の人間なら、覚えているはずのない記憶まで自分の中にはある

 自分は・・・佐々木慎太郎のコピーとしてこの世界に作らたものだろうか?

 そんな・・・馬鹿なこと・・・


「まだ信じられないかい・・まあいいよ、信じる信じないは君の自由だ

 話を少し戻すけど・・・君に物を教えるのが時間の無駄だと言ったのにも

 いま。言ったことが少し関係がある・・・

 私達はこの世界に作られた時に、ほぼ完成されているんだ

 もちろん成長しない訳じゃない、経験や知識は学ぶこともできる

 でも肉体的には、私達は成長しない

 いくら筋肉を鍛えようと思っても鍛えられない

 逆に衰えることもないけどね

 すごく言いずらいんだけど・・・・

 どんなに努力しても君の肉体の能力は、今以上に上昇しないし

 知力が低すぎて、魔法を覚えることも出来ないだろう」


 ノゾミの冷たい断言に、シンタロウは喋ることも考えることも

 出来なくなる・・・・

 そんなシンタロウの様子に、ノゾミも少しだが罪悪感が湧いてくる

 シンタロウに比べたら自分は随分と恵まれている

 コピー元の佐藤望には感謝するべきだろう

 

「ノゾミさん・・・まだ信じられないんだけど・・・もう少し聞いていい?」


 もう立ち直ったのか?  それとも悪あがきが足りないのか

 どっちか、ノゾミには判断がつかないが

 まだ付き合ってやるべきだろう


「構わないよ、なんだね?」


「うん・・・僕らがコピーだとしたら、疑問があるんだけど

 この怪力はなに? 元の世界の僕はこんな力無かったし

 あと・・・さっき言ってた、なかなか死なないこの体はなぜ?」


「なるほど・・・もっともな疑問だね・・そうだねちょっと長くなるけど

 召喚魔法その物の説明から少しした方が良さそうだね」


 ノゾミは言葉を切ると、後ろにず~と控えていた女に

 シンタロウには解らない言葉で話しかける


「喋り続けて喉が渇いたろう?・・・飲み物を用意させるから

 私も喉が渇いたしね・・・ちなみにあの娘は、私の奴隷だから

 私の許可なく手を出したら・・・だたじゃ済まさないからね」


 そう笑顔で話すノゾミの姿に、これは冗談なのか?

 シンタロウには解らなかったが、それより気になったのが


「ノゾミさん奴隷を持っているんですね?

 召喚された勇者は全員、奴隷に反対してたって前

 言ってませんでした?」


「ああ、勿論反対してたよ・・・・でもね、この世界じゃ

 まだ早いというか、自由や人権より、生きることが優先される

 郷に入っては郷に従え、じゃないけど

 向こうの世界の常識を押し付けるのは止めたんだ

 

 それに・・・奴隷を解放したところで・・・その奴隷自身に非難されるんだ

 私はどうもいいご主人様らしくてね、私に捨てられたら野垂れ死にするか

 別のやつの奴隷にされるだけ・・・

 私の奴隷として仕えていれば、私の保護が受けられるしね

 どうも生涯、私の奴隷でいたいらしい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る