第6話 初代対五代目
ノゾミがゆっくりと前進を始めるのをシンタロウは
ただ眺めていた、あまりにも静かに動き始めた為
ただ見入る以外の事が出来なったのだろう
それは共和国軍の指揮者も同じだったようで
ノゾミの歩みを止めるものは誰も現れなかった
ノゾミが川の真ん中まで歩みを進めた時
いまが反撃の時と判断したのか
それとも、ノゾミの圧力に押されたのかは、解らないが
共和国軍は全面反撃を開始する
いま共和国軍の全面に押し寄せている、蛮族は
疲労の極に達していたのだろう、あっという間に崩れ
共和国軍はそのまま川底の真ん中まで押し返す
そして・・・ノゾミと共和国軍の一部が激突するが
「グチャ」そんな肉体の破壊音を残し
ノゾミの前にいたすべての共和国兵が
ノゾミの持つ両手持ちの大剣によって
一瞬で肉塊にされる・・・・
その大剣は、長さは200スポット位なのだろうか
少なくとも、ノゾミ自身よりは、長いようだ
横幅は、だいたい成人男性の太ももと同じほどか?
鋼鉄製と考えると・・・どれほどの重さなのだろう
少なくとも並みの人間なら、持つのが、精一杯
いいとこ振り上げるのが限界だろう
その鉄の塊を恐るべきスピードで振り回し
次々と、周りの味方を肉塊に変えていく
ノゾミに共和国兵は、恐慌状態もう一歩手前だ
その恐怖は言葉は解らずともシンタロウにも伝染する
だがシンタロウは勇者だ、周りにいる兵の視線が自然に
シンタロウに集まってくる
兵の一人がシンタロウに、怒鳴るように、喋りかけてくる
慌てているのだろう、すごい早口の為、完全には理解できないが
何を言わんとしているのかは、シンタロウにも解る
ノゾミと戦え、倒せと言ってるのだろう
「あれと・・・戦うのか・・主人公補正があるから大丈夫だとは思うけど
実際に見ると・・・勝てる気がしないんだけど?・・・
そうだな、まずは話し合いだな、、言葉は通じるだろうし」
シンタロウはそう決めると、ノゾミに向かって歩き出す
気を利かせてるのか、たんにシンタロウに押し付けたいのか
それを見た共和国兵はノゾミの周りから一切いなくなると
シンタロウに、道を開けてくれる
(いや・・・余計な気遣いしないでくれるかな・・・うわ、向こうもこっちをガン見してる
まずは挨拶だよな、兜のせいで顔の下半分しか見えないけど、クールな
お姉さんって感じだよな、コミュ症の僕にはちょっと、話し掛けずらいんだけど)
シンタロウは、片手に120スポットの剣を構えながら
ノゾミの前に用心深く進み、ノゾミの大剣が、届かないと思える場所で、足を止めると
大きく深呼吸をする、シンタロウは覚悟を決めてノゾミに話しかける
「あの初めましてノゾミさんですよね?、僕・・・5代目勇者のシンタロウって言います
どうかよろしくお願いします」
コミュ症の自分にしては、悪くない挨拶だ・・・これなら向こうも気分を害さないだろう
ファーストイメージは上々だろうとシンタロウが思い、返事を待っていると
ノゾミは、シンタロウに1回頷くと、右手に持った大剣を頭上にゆっくりと
持ち上げ始める・・・
(あれ・・・もしかして僕以上にコミュ症なのかな?・・・それとも
なにか、気に障った?・・・そうか、、もしかしてまずは僕の力を見せろって
パターンかもしれない・・・そう来たか、ならまずは力試しだな)
シンタロウの考えどおりなのかは、解らないが
ノゾミは頭上に剣を上げ切ると、無造作に一歩踏み込み
そのまま剣を、シンタロウに振り下ろす
さすがに丸わかりの、この攻撃にシンタロウも余裕で後ろに大きく、飛ぶ
「無口なんだな・・・話しは、自分を倒したら聞いてやるって事か?」
シンタロウの問いかけに、表情一つ変えずに、ノゾミは前進しだす
その自然な足取りに、シンタロウへの警戒なぞまるで感じられず
さすがのシンタロウも舐められているのだと、解る
(クソかませ犬のくせに、舐めやがって・・あ、いやかませ犬キャラって
それが通常だったな・・・ふう・・・落ち着くこう
最初舐めていた相手に、痛い目にあう、それがパターンだよな)
シンタロウは剣を右手で振り上げると、大きくノゾミにむかって飛ぶ
シンタロウは勘違いしていた、自分を攻撃してきたノゾミの
剣のスピードを・・・本気は出していないだろうが、あの大剣だ
自分が本気でいけば、自分の剣の方が速いはずだ・・・・
そう判断したシンタロウは、まだ自分を舐め、本気を出さない
今のうちに、剣などを弾き勝負を決める、そんなつもりでいた
ノゾミに向かい飛び掛かりながら剣を振り下ろすシンタロウ
そのシンタロウにむかい、大剣を下から振り上げるノゾミ
自分の予想通りの展開にシンタロウは勝利を確信した
「ザシュ」そう小さな音を立て、シンタロウの右手は肩から切り落とされた
「ぐぎゃぁああ、、ぼ僕の右手が肩から切り落とされたーーーー」
そのシンタロウの悲鳴に、誰かに説明でもしてるのか?
ついその事が気になり、ノゾミは動きを止めてしまった
シンタロウには、ノゾミの大剣の動きは見えていた、当たり前だろう
その大剣を弾き飛ばすつもりでいたのだから、
だが、見えていても、その大剣をかわすことが出来なった
シンタロウは焦り、大量の血が流れだす右肩を掴みながら
大賢者に助けを求める
(大賢者、、助けてくれ、早く治療してくれ、血が止まらない
このままじゃ、死んでしまう)
だが・・・シンタロウの必死の呼びかけにも大賢者は答えてくれない
死の恐怖と焦り、そして大賢者への苛立ちをシンタロウは爆発させる
「くそ・・・なにしてるんだ?・・・大賢者、早く僕の右腕を治してくれ」
その必死の叫びが通じたのか?それとも、別に理由があるのか
大賢者が、ようやく答えてくれた
「すまない・・・いま忙しいんだ、自分で何とかしてくれないか?」
ただし、いつものようにシンタロウの頭にでは無く
シンタロウの耳に大賢者の生の声が
何が起きてるのか解らない?・・シンタロウはそんな顔をしながら
その言葉をだした本人を見つめる・・・そうノゾミを
「え?・・・・どういう事?・・・ノゾミさんが、大賢者?」
シンタロウの独り言に、ノゾミは頷くと
「忠告したはずだぞ・・・初代には、まず勝てない、姿を見たら逃げろと」
そう話しかけると、シンタロウの方にまた一歩、近づこうと踏みだす
その動きを見た、シンタロウは、慌てて、左手のひらをノゾミに見せ
もう自分には敵意が無いことを示そうとするが
その行動はもう遅すぎたようだ
ノゾミは軽くシンタロウの左に移動すると
「ザシュ」ノゾミの大剣が振り下ろされ
「うわーー今度は左手が、、ひじから落とされた・・・ぐあああ」
切られた自分の左手を見ながら、誰かに説明するような悲鳴を上げる
シンタロウに、またもやノゾミは動きを止めてしまう
「いや・・・その・・見ればわかるし、やったのも私なんだから
説明してくれなくても、いいよシンタロウ」
ノゾミの言い草に、なに言ってるんだと?
一瞬だけシンタロウは、いまの状況を忘れるが
大剣を右手に持ち、自分を見つめるノゾミの目
次の瞬間にはもう、死の恐怖以外の感情がシンタロウからは消える
死の恐怖に支配されたシンタロウは本能に従いノゾミから死から逃げようと
あがき始める・・もし少しでも冷静に考えられるなら、絶対にしないであろうが
ノゾミに背を向けて全力で逃げ始める
「うわーーーーー」悲鳴をあげ、足をもつれさせながらもシンタロウは逃げるが
「があーー・・・・剣が・・・胸から生えている・・・うあああ」
後ろから飛んできたノゾミの大剣に背中から刺され、そのままの勢いで転倒してしまう
すぐに追いついたノゾミがシンタロウの背中を足で押さえながら
どうしても、考えてしまう・・・なぜいちいち悲鳴が説明口調なんだ?
いや、シンタロウにはどうしても理解できない事がいくつかある
この事もその一つなんだろう、そう思う事にする
首を回し自分を脅えた目で見つめてくる、シンタロウに気付く
ノゾミは溜息を、一つ付くと
「これで終わりだ、もう少し我慢したまえ」
そうノゾミは呟くと大剣の柄をもち、力ずくでシンタロウの体ごと、地面に押し込み始める
シンタロウはあまりの激痛にもう存在しない両手を振り回わそうとして
なんとか逃れようとしているのだろうが
圧倒的なノゾミの力で剣はどんどん押し込められ、剣の柄まで背中にめり込み始める
まるで昆虫がピンでとめられているような姿だ
シンタロウがまったく動かなくなったのを確認して
ノゾミは周りを、見回す・・・・
ノゾミの予想していた通り、すでに蛮族は川の向こう側まで追いやられており
自分の周りにはもう、共和国兵しかいない
「さて・・・誰から来るの見てるだけじゃ、私は倒せないわよ」
ノゾミを遠巻きに見ている、兵たちを挑発するが
じつはその必要はもうない、すでに、勝負はついているのだから
そう思いノゾミは握り絞めている剣の柄をさらに強く握る
そんなノゾミの不可思議な行動に兵たちはお互いを見つめ合うが
ノゾミが何をしているのか、そんな事に頭を悩ませる必要は
すぐに無くなった・・・・
「なんだ・・・この音は?・・・まさか水の音?・・・」
「にげろーーー早く岸に上がれーーーー」
ナウ河はあっという間に、逃げ遅れた多くの兵を飲み込み
元の豊かな水量を取り戻す
多くの仲間を飲み込んだ川をただ見つめる事しかできない
指揮官と生き残った兵達
だが残念な事にまだ戦いは終わってはいない
呆然と、そう呆然と川を見つめる事しかできない彼らの前には
また数万は残っている無傷の蛮族が川の向こうに
そして・・・・目の前には川から上がってきた女が一人
全身ずぶ濡れになり、水の勢いに取られたのだろう兜は無くなっていたが
その姿はここにいる兵士たちには、間違いようがなかった
蛮族から戦闘再開の雄たけびが上がる中
共和国軍は、絶望的な戦いを再開しなければならなかった
日が沈み始めるころ
戦いの優勢が決まり、共和国軍は撤退を始めだした
撤退中の共和国軍、そして追う蛮族たち
それを見てノゾミは思う
ノゾミは、この勝利に、喜びは無い、もちろん悲しみもだが
ハッキリ言えば、興味が無かった・・・
だが、関わってしまった以上、、この戦いの
歴史的意義を考えずにはいられない
ナウ河国境を守る3個軍団は壊滅状態、暫くは
北東からの蛮族の侵入を押さえることは出来なくなるだろう
共和国いずれ盛り返すだろうがここから、以前のような力を取り戻し
国境をまで再び蛮族を押し返すか
それとも、この敗戦は、共和国の寿命を縮めような事になるのか
「そうね・・・これも歴史ってやつよね」
歴史の可能性には興味が尽きないが、、それよりも今は先にすることがある
ノゾミはシンタロウが突き刺されたままの辺りを見てみるが
視界は悪くもう何処にシンタロウが刺さっているのか、さっぱり解らなかった
「面倒くさいけどまさか、回収しない訳にもいかないわよね」
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