第5話 初代登場
シンタロウが、ナウ川沿いの軍事都市タイトについて
もう一ヶ月が過ぎた、冬の訪れと共に蛮族がナウ川の向こう側に
集結し始めたとの、情報が一般兵にまで、伝わり始めるころ
真昼間だというのに、用意された自室に閉じこもり
何もしていない、シンタロウに大賢者は以前
シンタロウが言っていた、ボッチゲーマの意味が、ようやく理解できた
なるほど、一人ぼっちを、短くしてボッチか
言葉がまともに通じないうえに、人見知り
本来なら、指揮官や兵士との交流を進めるべきなんだろうが
シンタロウは必要がないと言い
戦いが終わった後、自分は勇者として讃えられていると
シンタロウは自信ありげに、大賢者にかたってみせる
確かに蛮族相手なら、その可能性もあるなと大賢者も思ってはいたのだが
{シンタロウまずいことに、なりそうだ}
大賢者の突然の呼びかけに、シンタロウは半分寝かけていた、脳を覚醒させると
(なにが、まずいことになったんだ?)
{うん、今回の蛮族襲来に初代が参加することになった}
(初代が?・・・たしか付き合の有る部族が関係しないかぎり
出てこないって言ってたけど・・・じゃあ、その部族もくるんだ?)
{そう言う事だ・・・しかしまずいことになったな
シンタロウ、初代が出てきたからには、今回の戦いは負けるだろう
君も逃げることを考えた方が良い・・・なにどうせ蛮族の侵攻なんて
一時的なものだよ、蛮族には瞬発力はあるけど、持続力が無い
押し返す時の戦いに参加すれば、元老院も納得するだろう}
(いや、なんかそうなる気がしてて、準備はしていたんだ、問題ない)
大賢者にはシンタロウの言っている、準備が何を差しているのが
サッパリ解らなかったので、いちおう確認してみることした
{シンタロウ、準備っていったい何を、申し訳ないが、私には
まったく心当たりがないんだけど}
シンタロウは大賢者の言葉を聞くとニヤリと唇を歪め
(決まっているだろう・・・戦い後、どうするかだよ
初代がどんな女でも、暖かく迎えてあげるつもりだから)
大賢者はあまりの事に、もうなんて言っていいのか解らなくなってしまった
だが 気を取り直すと
{シンタロウ、ちょっといいか?、その初代にどうやって勝つもりなのかは
もういい勝った後、迎えてあげるって?・・・どういう事だ?}
(よく考えてみたんだけど、初代との戦いの後は
大きく2パターンに分かれるはずなんだ
僕に惚れて、リームに続く二人目の妻になるパターンと
ライバルキャラになるパターンだ・・・解りやすく言えば、、ベ〇ータかな)
〇ジータ・・・何だそれは?
それが大賢者の最初の感想だったが、それでもシンタロウと
もう半年近く、付き合ってきたんだ、シンタロウが何を言わんとしてるのか
なんとなく、察しれるようには、なっていた
{そうか・・言わんとする事は、解ったよ・・・その頑張ってくれ}
大賢者にはもう、それ以外の言葉がどうしても浮かんでこなかった
シンタロウの方も、とくに大賢者の感想が欲しいわけでも無く
話が途切れるが、もうすぐ始める蛮族との戦いに意識が向いて行く
(なあ・・もうすぐ始まるけど、いつもだと蛮族はどう攻めてくるんだ?)
{そうだね・・・まずナウ川で渡河ポイントは、あんまりない
今回に関しては、特にそうだかなりの人数だしね
川辺にまず集まり、川を越える為の筏を作る
ある程度の筏ができるか、食料が尽きるか
どちらかのタイミングで、一斉に川を渡り始める
そんな感じで、戦術も何もない、人海戦術でくるね}
(すごい強引だね、川を渡るだけで結構な犠牲が出るんだろうな)
{ああ、そうだね、殆どの蛮族が川を渡れずに死ぬだろうね}
(そういえば、こっちの方はどうなの?共和国軍の方は?)
{共和国軍の方はね、この基地と同じような基地が、あと二つ
ナウ川沿いににあるんだけど、すべての基地から出動して
3個軍団3万6千が今回の防御戦に加わるよ}
大賢者の報告にシンタロウは少し慌てたように繰り返す
(3万6千?・・・10万の敵が来るのに少なくない?)
{いや全然、言ったろう共和国軍は世界最強だと
この位の数の差なら余裕でひっくり返すよ、しかも
蛮族の方は、川を渡ってくるんだ、なにも問題ない
まあ、それも初代が居なければだけどね}
大賢者の言葉にシンタロウは頷くと
(なるほどね、初代がどうするか解らないし、後の事は、その時に考えるしかないか)
大賢者もシンタロウの言葉に同意する
たしかにもう、始まってしまっている
もう、ここまできたら 慌てる事もないだろう
{さて・・・シンタロウ覚悟はできたか?・・・もうすぐ始まるけど}
大賢者の言葉はシンタロウにはあまり、届いていなかった
川を挟んで目の前に、正確には、3000スポット向こうに蛮族10万が
この10万という数は、数えた訳じゃないから、実は正確じゃない
もしかしたら10万以上いるかもしれないし、いないかもしれない
でも、シンタロウはこんな沢山の人を直に見たことが無い、しかも
武装した大軍を見るのは勿論初めて事だ
川のこちら側には共和国軍が綺麗に陣形を整えている
前列に重装歩兵、その後ろに弓兵や補助兵が控え
同じような陣形で横一列になり右翼と左翼の両脇に騎馬兵を置く
共和国軍には基本の陣形を敷き、対岸の蛮族ににらみを利かせている
共和国軍の指揮官はこの時点での勝利を疑っていなかったし
対岸にいる蛮族も、陣形を整える共和国軍を見て
怖気づいている者が、ほとんどだ、本当はなら
すぐにでも逃げ出したいのだろう、だが
飢えがそれを許さない、、共和国軍に殺されるか
餓死か凍死、それか、共和国軍を打ち破り、豊かな共和国に入り
なんとか冬を越す・・・それ以外の選択肢を
ここに集まった蛮族は持っていない
{シンタロウ聞いているかね?・・・もうすぐ始まる、
最後の忠告になるかも知れないから、よく考えて欲しい
初代が出てきたら、逃げろ、周りに構うな、わかったね?}
大賢者の2度目の呼びかけに、ようやくシンタロウも
考える事が出来るようになってくる
(逃げろか・・・逃げるにしても僕は初代の容姿がどんなのかも
知らないし、気を付けろって言われてもな)
{確かに、しかし容姿の説明は難しいな・・・身長は178スポットだ
見た目の歳は25・・・あとは髪はかなり長い腰まで届いている
・・・・そうだなイメージで言うと、宝塚の男役みたいな感じなのかな?}
シンタロウは初めて聞く初代の情報に、興味がわいたが
まず気になったのが身長だ、シンタロウは162スポットしかない
自分と比べてかなり大きいのは間違いない
(178スポットって178CMだよね・・すごいデカいな・・ちょっと
これは、ベジー〇ポジションなのかな、いや、クーデレキャラの可能性も
出てきたな)
大賢者はもう、初代の情報を伝える事を、止めることにした
もう、シンタロウが何を言ってるのか、解らないし無駄だろう
{とにかく・・・忠告はしたぞ・・あと初めての実戦なんだ無理をしないことだ}
大賢者の忠告にシンタロウが頷いた時、対岸から、すさまじい雄たけびが上がった
シンタロウも気づき、対岸の蛮族に目が釘付けになる
周りを見回せば、味方も全員戦闘態勢に移行している
{始まったぞ}
対岸の蛮族が弓を引きこちらに向かって射かけてくる
それに対して共和国軍の指揮官も応射を指示する
お互い川を挟んでの弓の打ち合い
しかし、被害は蛮族の方が多いだろう
共和国軍の弓兵は、重装歩兵の盾に守られているからだ
シンタロウも弓兵同士の打ち合いを、見ていたが
ある異変に気付き始めた、、いやシンタロウだけじゃない
共和国軍全ての兵士がだ
「なんだ、、川が・・・だんだん浅くなっていくぞ、、水が引いていくのか?」
「どうしたんだ?・・・いったい何がおきてる?」
慌てる共和国軍の前で、ナウ川の川底があっという間に現れた
何が起きたのか、それは解らないが、重要なのは
もう、蛮族と、共和国軍の間には川が無く
蛮族はもう3000スポットとの至近距離にいるのだ
「うぉおおおおお」蛮族から突撃の雄たけびが上がると
呼応するように共和国軍の指揮官も陣地の死守を命じる
もう策など立てている時間がない
蛮族と、共和国軍はまさに正面から力で、ぶつかり合う事になった
シンタロウも共和国軍の誰もが予想していなかった激闘が始まった
戦闘開始から随分時間が立ったように感じるが実際の時間はどれ位なのだろう
この激闘のさなかシンタロウはようやく、一息つけるようになり
少しだけだが、周りが見れるくらいの余裕ができた
シンタロウはもう、かなりの人間を殺している、シンタロウにとって
幸運だったのは、配備された位置だろう、全軍の真ん中
なにも考えていない蛮族の、最も激しい攻撃にさらされた場所だった
後ろも前も横も、味方と敵に囲まれ逃げることもできない
目の前に、次かから次に現れる敵はシンタロウの思考を奪い
身を守る事、戦う事にのみに集中させてくれた
そんな一番の激戦地にいるシンタロウが一息つけたのだ
戦局が、変わりつつあるのだろう
蛮族に一方的に攻められ、防戦一方の共和国軍だったが
もちろんそれは共和国軍の狙い通りだ
いずれ蛮族の勢いが尽きる、そう共和国軍の指揮官は確信していた
今がその時か・・・いまが反撃の合図をだすときか?
そう指揮官が考え始めた時
シンタロウはそれに気づいた、いやシンタロウだけじゃない
シンタロウの周りにいる兵、殆どがだ
水の無いナウ川の向こう側に 一人の女が立っていた
腰まで届く黒髪を一つに編み上げ、何も武具を付けない蛮族とは違い
顔の上半分を隠すような、鋼鉄製の兜を被り、革製と思われ
手甲と拗ね当を付けているが、体を守るような鎧はつけておらず
その長身に、負けない見事な肢体を、見せつけているようだった
178スポットの長身だが、彼女以上に長身な蛮族に混じればそれほど目立ちはしない
だが彼女は、この戦場にいる誰の目にも特別に映る
それは彼女の周りに誰もいないせいだろうか?
まるで彼女の周りには壁でもあるかのように、誰一人として近づけない
あれほど、喧騒に包まれている蛮族の中にあって
彼女の周りに音は無く・・・誰もが彼女に・・・目を奪われていた
(大賢者・・・あれが初代勇者・・ノゾミか?)
シンタロウには確信があったが、確かめずにはおけなかった
大賢者は、シンタロウに、ゆっくりと答えた
{そうだあれが初代勇者ノゾミだよ}
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