第9話

 翌日、フィリアが宿を出て朝食を済まして町の入り口に行くと、そこには随分と多い荷物を抱えたピルチャが立っていた。


「あっ、フィリアさんおはようございます!」

「え、ええ。おはよう。あの、その異様な荷物はなに?」

「私もフィリアさんの旅に同行しようと思いまして」

「え?」


 フィリアがピルチャの荷物について指摘すると、ピルチャはなんの迷いもなくそう答えた。

 まさかとは思うが、昨日のよしというのはフィリアについて行くことを決意したという意味だったのだろうか。


「別に弟子にしてくれとは言いません。ただ私が勝手にフィリアさんの旅についていくだけです。ほら、技は見て盗めと言うじゃないですか」

「それは……そう、なの? ……いや、いやいや。それは駄目。ご両親が心配するに決まってる」

「両親は説得済みなので問題ないです。ほら、行きましょう!」


 ピルチャの圧に押されてつい納得しそうになるが、これは駄目だと首を横に振った。しかし頑固者のピルチャは根回しが早い。

 満点の笑みを浮かべて馬車に乗り込んだ。


「……しかたがない、のかな」


 元はといえばエドもついてきたので一緒に旅をすることにした。ピルチャも無理やりにでも同行する気だ。これ以上奇行を取られる前に素直に旅に連れて行ってあげる方がいいのかもしれない。

 特段危険な場所に行く予定はないのだから、魔法使い見習いが一緒でも問題はないだろう。

 フィリアは半場諦めてピルチャの乗り込んだ馬車に乗った。


「けど、エイデンはいいの? 貴方と随分と仲が良さそうだったけど」

「私とエイデンは幼馴染なんです。小さい頃からいつも一緒で……でも、私だっていつまでもエイデンに守られてばかりはいや。私だってエイデンのことを守ってあげられる魔法使いになりたいんです。だから、大丈夫」


 ぐっと拳を握りしめたピルチャの目は本気だった。

 その瞳は寂しさを携えている。だがそれ以上に強くなりたいという意志を強く感じさせた。


「私は立派な魔法使いになるって決めたから」

「ほんと、そういうところ昔から変わんねぇよな」

「ええ、だって私って頑固だから……って、なんでエイデンがここにいるの⁉︎」

「あ? だって俺がいないとお前、怪我するかもしれないだろ。俺もついてく」


 ということで俺もと言ってエイデンまで馬車に乗り込んできた。


「え、エイデンどこから話を聞いてたの?」

「え? なんか立派な魔法使いになるって決めたとかいうところから」

「あっ、なんだ。そこからか、よかったぁ〜」

「なんだ、俺の悪口でも言ってたのか?」

「別に、そんなんじゃないけど!」


 ほっとしたり、ふいっと顔を逸らしたり、ピルチャの情緒は忙しそうだ。


「エイデンは親御さんに許可は取ったの?」

「ん? うん。親父に立派な剣士になるために修行出てくるって言っておいた」

「それ、旅に出るとは言ってないんじゃない?」

「……さ、出発しようぜ!」


 事前に親に許可をとっていたピルチャとは違い、エイデンは少し言葉足らずに感じるが、エイデンの号令で馬車は動き出してしまった。


「……旅先でご両親に手紙をちゃんと書きなさい」

「はい、もちろん!」

「はーい」


 自分の娘息子がどこにいるか、元気でやっているかわかれば両親も少しは安心するだろう。

 フィリアの提案に二人は素直に頷いた。

 こうして三人と一匹の旅が始まったのだ。

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