第143話 拍子抜け

「様子見などしない方が身のためですよ」


掴まれた短剣を引っ込めようとするが全く動かない。


圧倒的に筋力負けしてるね。


私は諦めて短剣から手を離してアスタロト様から離れた。


「……パラ召喚"破壊開始"」


パラを召喚しておいてからユニークスキルを発動する。


パラは召喚されるとすぐに隅っこの方に逃げていった。


「貴方のお仲間さん、逃げてますけどよろしいのですか?」


私はアスタロト様の問いかけを無視して殴りかかる。


「無視ですか……」


アスタロト様は残念そうにしながら私の拳を掴んで止めた。


「まだ左手が!」


掴まれた方とは逆の拳でアスタロト様を殴ろうとするがそれも掴まれてしまう。


「ぐぬぬ……!動けない」

「なかなかの攻撃でしたよ」


完全に遊ばれている、掴まれた手はどんなに力を入れてもびくともしない。


「では少しだけわたくしも反撃しますね」

「え――」


バキッ


両手首を思いっきり折られ物凄い激痛が私に走った。


「あ、あ」


いたぁぁい!無理無理!凄い痛い!


「がふっ!」


さらにアスタロト様は膝蹴りで私のお腹にクリーンヒットさせる。


それでもアスタロト様に掴まれたまま私は動けずにいた。


「手加減したつもりでしたがほとんどHPが無くなっていますね、スキルで防御でも下がっているのでしょうか?」

「……ふー」

「おや?痛みで喋れませんか?」


別に痛みで喋れないわけじゃないけどスキルの説明とかするつもりないし無視でいいよね。


そんなこと思っていたら手首の痛みがすっかり無くなっていた。


HPもしっかり全回復してるし回復されたね……まだ倒すつもりはないということね。


「そのスキル、全ての力を出せてないようですね……何か条件でもあるのでしょう」

「うわっ!」


アスタロト様の禍々しいオーラが私に流れてきた。


『スキル《采配》により現在発動中のスキルが最大限発揮されるようになります』


メッセージが現れると共に身体がグンと軽くなる。


さっきからアスタロト様の使うスキル強すぎない?クールタイム前借りに無詠唱で全回復、謎の采配による条件無視で最強モード。


どれも何かしらデメリットはあるんだろうけどメリットが大きすぎるよ……。


「これは想像以上に強くなりましたね、わたくしが抑え込めないとは」


最強モードになった私はアスタロト様の拘束をなんとか抜け出した。


これだけ筋力上がってもギリギリ抗える程度なんだよ……。


絶対勝てないしなるべく痛くないように負けたい。


「《風龍の加護》《攻撃予測》」


最大限出来る限りのスキルを使ってもう一度アスタロト様に突撃した。


「素晴らしい速度です、わたくしの手下として欲しくなってきました」

「手下になんかなりません!」


さっきみたいに拳を掴まれることはなかったが普通に手のひらで防がれた。


「やはり貴方から悪魔の気配がします、それも上位クラスの……お知り合いに悪魔がいるのですか?」

「知りません!」


アスタロト様の腕を掴んで投げ飛ばした。


私が悪魔になれるとは思っていないようだね。


「《テレポート》」

「うわ、ずる」


飛ばされて地面に激突する前に瞬間移動して私の目の前に戻ってきた。


「貴方の事は大体分かりました、まだまだ知りたいこともありますが終わりにしましょう……」

「あぐっ……!」


アスタロト様は私の首を掴んで思いっきり締めてきた。


ぐるじぃ……首が折れる――


息が出来なくなり私のHPがぐんぐん減っていく。


し、死ぬ……。


そう思っていたらアスタロト様が吹っ飛んでいった。


「ゲホッ、ゲホッ……パラ」


パラがアスタロト様の顔に突進して吹き飛ばしたらしい。


すっかりパラを召喚してたの忘れていた。


「わたくしにダメージを与えるとは……!」


アスタロト様は驚きつつ若干怒っていた。


「いくよ、パラ!」


私とパラが横に並んでアスタロト様に向かって構える。


「…………いえ、決闘はここで終わりにしましょう。引き分けということでよろしいですか?」

「え?あ、はい」


私は急な提案に拍子抜けしつつ引き分けを受け入れた。


『決闘が終了しました』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る