第27話 中身が全然違う!
「ここ……かな?」
私は今、大きなビルの前に立っている。
地図アプリ的には合っていると思うんだけど本当に入って良いのかが分からない。
恐る恐る自動ドアに近づいてゆっくり入っていくと冷房の冷気がスーッと身体を包み込んだ。
「あの、すいません……加々良です。東井さんに呼ばれて来ました」
受付っぽい場所にいたお姉さんにメールに書いてあった担当さん?の名前を言う。
「加々良さんですね、話は伺っております。東井をお呼びしますのでそちらに掛けてお待ちください」
「はい、お願いします……」
凄いふわふわなソファに座って待つ。
なんか落ち着かないよぉ。
ソワソワしながらモニターに映っているティニットのPVを眺める。
まだ見たことないモンスターも映っている……こんど探して見よう、試練の塔のボスも見てないしやる事がいっぱいだ。
「加々良さんお待たせしてすいません、東井です」
「あ、加々良百です。いきなり今日来てすいません」
「いえいえ、お電話で知らせてくれましたしそもそも私どもがお呼びしたんですから」
スラっとした体型でスーツを着ているカッコいいお兄さんが私を出迎えてくれた。
「ではこちらへどうぞ」
キョロキョロと見渡しながら歩く、色んな人が何かをしているのは見てたけど多分ティニットを管理とかしてるのかな?とか思いつつ東井さんについていった。
「あれ?この子、東井さんのお子さんですか?」
「えー可愛い!」
「東井……お前、結婚してたんか」
休憩所みたいな場所を通る時に他の社員さんが私に近寄って来た。
「私は独身ですよ、それにこの子は私がお呼びしたお客様です」
「こんにちは、加々良百です」
とりあえず挨拶しておく。
「そうなんだ、小さいのに礼儀正しくて良い子だね」
「ジュースあげるよ、ここまで来るのに喉乾いたでしょ?」
「何処かで見たことある気がする……プレイヤー?」
ジュースやらお菓子やらを渡されたり頭を撫でられたりとわちゃわちゃだ。
「プレイヤー名聞いたら驚きますよ、皆さん知っている名前です」
チラリと東井さんが私の方を見る。
これ私がプレイヤー名を言えってこと?
「ラビリルって名前でティニットをプレイさせていただいてます」
ラビリルと言う言葉を言った瞬間に私から一歩離れ始めてどんどん社員さんが後退り始める。
「え、本当にラビリル?」
「確かに似てるが……」
「あの、笑って人を殺す奴がこの子……?」
「良く見るとまんま見た目ラビリルだけど……」
「「「「「中身が全然違う!」」」」」
ここにいる社員全員が口を揃える。
「え?え?何これ?」
「加々良さんが大人しくて驚いたみたいですね。ほら、何もかも破壊しそうなラビリルと違うじゃないですか」
失礼な、私だって現実と仮想世界とでは区別つけるよ!
それに……。
「昨日、沢山壊したので気分いいんです」
私は力強く言ってニッコリと笑う。
「「「「「やっぱり中身ラビリルだ!」」」」」
また社員さんは口を揃えて言う。
「おっと、そろそろ時間なので加々良さん行きましょう」
「あ、はい」
私は呆然としている社員さんと別れて東井さんの後ろについていった。
「こちらです」
ライブストリーミングルームと書いてある部屋だ。
意味は……なんだっけ、生配信?
東井さんがガチャリと扉を開けて入っていくのを後ろからついて入る。
「あ、東井さん、こんにちはーって何その可愛い女の子!」
部屋の中には椅子に座っているお姉さんがいた。
なんかこのお姉さん見たことある気がするんだけどどこで見たんだろう……。
「私がお呼びしたお客様で今回のスペシャルゲストです」
「へーいきなり今日配信って言われたから準備してたけど、その子の予定の問題だったんだね!私はティニット広告担当、美原由佳だよ!よろしくね!」
うん、話についていけない……そもそもスペシャルゲストってどう言うこと?配信って?
「ちょっとちょっと!その子、困惑してるんだけどもしかして何にも説明せずに連れてきた?」
「はい、今から説明します」
「はぁぁ……東井さんの悪い癖出たよ。ごめんね……えっと加々良ちゃん?」
とりあえず自己紹介しておこう。
「加々良百です、配信ってどういうことですか?」
「昨日のイベントの結果発表と次回アップデート情報を本日午後1時に配信予定なのですがそこにプレイヤーラビリルとして特別ゲストとして出ていただこうかと」
「えー!!!私が公式配信に?!」
そういえば今日の朝早くから告知あったよ!
「ちょっと待って、今ラビリルって……」
そうだ!このお姉さん、美原さんは公式配信でいつもティニットの事を紹介してる人!思い出したよ!
「それと合わせてプレイヤーラビリルを公式公認のプレイヤーとして発表させていただきたいと思いまして……流石にそれは加々良さんに許可を貰えればですが」
「公認?!ラビリルを?!」
「――ちょっと頭の中整理させてください……」
公認プレイヤー……うん、それならチートとか何か言われないと思うけど流石に1プレイヤー相手にやりすぎじゃない?
でもこんな機会絶対に無いし……。
「公認プレイヤーになったらティニットでプレイする時に何かメリット、デメリットありますか?」
「メリットは運営……我々ですね。我々がラビリルを悪事や情報操作などから守ります。デメリットは特に無いですが……定期的に生配信でもしてくれると助かります」
配信かぁ、もともとやろっかなとか考えてたしやり方とかは聞けばわかる。
「分かりました、でもお母さんが許してくれるか…」
「お母様には既に昨日の時点で許可を取っておりますよ、内緒にと説明しておきました」
多分お母さん、公認プレイヤーのことあんまりよく分かって無いと思う……。
私は今更遅いし気にして無いけど身バレだってあるんだよ?
「えっと、今度は私が話についていけそうに無いんだけど……加々良ちゃんはラビリルって事でおけ?」
「そうですね」
「はい、ラビリルです」
やっぱりラビリルと言う言葉に若干後退る。
「あーうん、とりあえず配信の準備して一緒にご飯食べよ?百ちゃんって呼んでも良い?私も由佳って呼んで良いしそれに敬語なんて要らないって」
「大丈夫で…だよ、由佳さん」
私がそれでも敬語で言おうとしたら睨まれたので言い直した。
「うんうん、じゃあよろしくね!百ちゃん」
ギュッと抱きしめられしばらく撫でられていた。
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