第20話 ある配信者の出来事

「ちわっス!今日は今話題のティニットをついに手に入れたからプレイしていくっス!」


ウチの名前はカティア、動画配信者っス!


チャンネル登録者は1万人くらいで普段からゲーム配信をしているっス。


『ちわっス!』

『ちわー』

『っス!』


コメントが視聴者の挨拶で埋まる。


同接人数は100人くらい。


「ちなみにここは始まりの街っていう最初の街にいるっスよ」


配信しているのが珍しくないのかカメラに向かって話している自分を他の人たちは全く気にしていない。


『街並み綺麗!』

『おお!』

『武器何にしたの?』


「武器っスか?武器は普通に剣にしたっス」


シャキンと腰にかけてある剣を抜いてカメラの前に見せる。


『カッコいいね!』

『ザ、普通』

『無難に扱いやすそう』


新しいゲームだからか、人気のゲームだからか、いつもよりコメントの流れがはやくて活気がある。


「最初は始まりの草原っていういかにも最初に行ってくださいって名前の場所が良いらしいっスね」


『分かりやすくて宜しい』

『カティアちゃんの事だから最初から高難易度の場所行くと思ってた』

『流石にデスペナルティあるしキツイでしょ』


「フッフッフ、流石うちの視聴者っスね!もちろんそんな簡単そうな場所には行かないっスよ!」


ウチはどんなゲームでも最初のダンジョンやチュートリアルクエストなどは飛ばしてるっス、大体すぐ死ぬけどそれが楽しいっスよ。


大体は強敵と戦ってから目標を決めてからっスね。


『しってた』

『今調べたけど低レベルならデスペナは無いらしい』

『それでその高難易度の場所は何処なの?』


「それも事前に調べて知ってるっス!南にあるエリブミの森が1番敵が強いらしいっス!早速行くっスよー」


視聴者のみんなと話しながらエリブミの森に行く。


「ここがエリブミの森っス!ちなみにヘルプってスキルがバリバリ危険って警告鳴らしてるっスね」


『見た目は普通に森』

『まあ森だわな』

『ちゃんと警告守ってもろて』

『1000円 即死亡に赤スパ賭けるわ』

『視界悪そう』


ズラズラとコメントが流れていくのをなんとか追っていく。


その点スパチャは目立つから直ぐに分かった。


「赤スパニキまた現れたっスね!生き残ったら赤スパっスよ」


この人はいつもウチが死ぬか死なないかで赤スパを投げてくるっス、何処からこんなにもお金が出てくるんスかねぇ。ありがたいっスけど。


「おっ!初エンカウントっス!」


ウルフLv8


「オオカミっスね、動きが速そうっス」


うちは剣をウルフに向けて構えた。


『レベル高っw』

『迫力ある〜』

『噛まれたら痛そう』

『モンスターのグラフィックも凄いな』


「ここは先制攻撃っス!」


剣をウルフに向かって振りかざす。


運良くウルフに剣が当たり少しだけダメージを与えられた。


「ほら、ウチは負けないっスよ」


ダメージを与えて調子に乗ったうちはもう一度攻撃しようとした。


しかし次はウルフに避けられて体当たりをくらう。


「あたっ!うう……やるっスね」


痛覚設定は20%ほどだからほとんど痛くは無いっスけどHPはほとんど無くなったっス。


『終わったw』

『1000円 頑張ったで賞』

『ナイスパだけど既に諦められてて草』

『360円 調子に乗ったで賞』

『うーん、ナイスパ』

『一撃でHPないなったw』

『おつ!』


「ちょっ!まだ死んで無いっスから!」


距離を置いていたウルフが詰めようと突進してきた。


「その攻撃モーションはさっき見たっス!」


真っ直ぐ突っ込んできたウルフを頑張って避ける……が速すぎて避けきれない。


「やばっ!」


すぐそばでウルフが口を大きく開けて構えているのが見えた。


これを受けたらどう考えても死ぬ。


『死ぬまで残り3秒……』

『カティア……君は勇敢に戦ったよ』


ウチはどうする事も出来ずに目を瞑ってしまった。


……あれ?死んで無い?


何も衝撃が来ず、死んだ時は大体通知が来るのにそれも来ない。


うちは恐る恐る目を開けてみる。


「あー大丈夫?思わず助けちゃったけど要らなかった?」


目の前にウルフは居なくて代わりに綺麗な青いドレスを纏ったウチより年下だろう女の子がいた。


『20000円 超絶美少女キター!』

『おいカティアちゃんも美少女だろ!』

『助けられてて草』

『40000円 生き残っただと……』

『ドンマイ赤スパニキ……ナイスパ』

『うおおおおお!』


コメントもこの女の子で盛り上がっている。


どうやら、ウチはこの女の子に助けられたらしい。


「あの、助けてくれてありがとうっス!ウチはカティアと言うっス!」

「私はラビリルだよ、見たところ初心者っぽいけどこんなところでレベル上げ?」


ラビリルさんは不思議そうにウチの事を見てくる。


どう考えても初心者なウチがこんなレベルの所にいる方がおかしいっスからね。


「ウチはまず高難易度の場所に行くことをモットーにしてるっスから死ぬ覚悟できたっス!」

「そうなんだ、ところでカティアの後ろに浮いているそのキューブ?みたいなの何?」


ラビリルさんはカメラの事を言っているみたいっス。


「これはカメラっス、生配信中っス!もしかして顔映すのダメでしたっスか?」

「ええっ!それカメラなの?別に映しても良いけど……」


ラビリルさんは「へー」とか「小さくて可愛いかも」とか言ってカメラに近づいてちょんちょん触っていた。


ああ、そんな事したら視聴者の皆んなが……。


『はう……!ガチ恋距離助からない』

『近い!近いぃ!』

『美少女助かる』

『吐息が聞こえるような……』

『可愛い……俺ら可愛いのか』

『まるで自分の頭を突かれているような感覚』

『ついでに撫でてもらっても構わないぞ』


やっぱり大変なことになってるっス、そしてスパチャが凄い勢いで流れていくっス……。


「じゃあ私は用事があるからこれで!あとウルフは群れで良く現れるから気をつけてねー」


ラビリルさんはウチとカメラに向かって手をブンブン振って凄い速さで森の中に消えていった。


「ハハ、大人しく始まりの草原に行くっスか」


ウチは当分の目標をウルフ相手に勝つ事、最終的にラビリルさんにも勝ちたいっスね。


そんな目標を立てつつ、ウチは始まりの草原へと向かった。


ちなみに今日のアーカイブは100万再生を超えチャンネル登録もそこそこ増えた。

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