第4話 新学期の始まり

 夏休みが終わり、新学期が始まった。今日からヒカリも僕と同じ学校に通うことになる。彼女は新しい制服を着て、まるでずっとここにいたかのような自然な笑顔を浮かべている。


「大和さん、行きましょうか」


「うん、行こう」


 ヒカリと一緒に歩いていると、通りすがりの人々が彼女を見て驚きの声を上げる。新学期早々、彼女の美しさが話題になるのは間違いなさそうだ。


「おい、大和、そっちの美人誰だよ?」


 クラスメイトの田中が声をかけてきた。彼は僕の親友で、いつも明るく元気な奴だ。


「あ、彼女の名前はヒカリ。転校生なんだ。今日からうちのクラスに来るんだよ」


「マジかよ! すごい美人じゃないか! ああうちの母ちゃんが言ってた藤原和菓子店の看板娘ってもしかして?」


「うん、そうだね。よろしく頼むよ、田中」


「おう、任せとけ! えっと、ヒカリさん? 俺田中って言います。大和のこと今後ともよろしくお願いしますね」


「はい。もちろんずっと大和さんのこと支えていきたいと思います!」


「はは、やっぱりそういう関係なんだよね。やるな、大和!」


 田中勇気たなか ゆうきは、バスケ部に所属しているスポーツ好きな性格だ。彼は僕と同じ高校2年生で、誰とでもすぐに仲良くなれる社交的な性格を持っている。少しお調子者なところもあるが、根はとても優しく、正義感が強い。


「じゃあ先行くなー。あんまりイチャイチャし過ぎて遅刻すんなよ!」


 田中は僕たちを気遣ったのか、走って先に行ってしまった。


 ――――


 鳴瀬学園は、広いキャンパスと緑豊かな環境が自慢の中高一貫の私立学校だ。校舎はモダンなデザインで統一され、各階に設置された大きな窓からは自然光がたっぷりと差し込み、明るく開放的な雰囲気が漂っている。運動場にはサッカー部や野球部の部員たちが早朝練習を行っており、その周りにはランニングコースやテニスコートなども備わっている。


「ここが鳴瀬学園だよ、ヒカリ」


「とても素敵な学校ですね。緑が多くて、落ち着いた雰囲気があります」


「そうだね。中高一貫だから、いろんな学年の生徒が一緒に活動しているよ」


 ヒカリは興味津々に周囲を見渡しながら、僕の説明を聞いていた。


「高等部の校舎はこっちね。案内するから、ついてきて」


 学校に着くと、ヒカリはすぐに先生に紹介され、クラスの注目を浴びた。教室に入った瞬間、彼女の存在が一気に教室の空気を変えた。


「皆さん、今日から転校してきた天城ヒカリさんです。2年A組に所属することになりました。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」


「よろしくお願いします」


 ヒカリの挨拶にクラスメイト全員が拍手を送る。僕もその中に混じりながら、彼女がどれだけ注目を集めるのかを感じていた。


「え、大和、お前あの子とどういう関係なの?」


 クラスメイトの山田が興味津々に聞いてくる。


「ああ、実は彼女、うちに居候してるんだ。まあ、いろいろあってね」


「居候?すごいな、お前。なんでそんなことに?」


「まあ、話すと長くなるんだけどさ」


 ――――


 授業が終わり、昼休みになると、ヒカリは僕の席にやってきた。


「大和さん、一緒にお昼を食べませんか?」


「もちろん、行こう」


 僕たちは学校の中庭にあるベンチに座り、一緒にお弁当を広げた。中庭には花壇や小さな噴水があり、生徒たちがリラックスできるスペースが設けられている。ヒカリが作ったお弁当は見た目も美しく、味も絶品だった。


「ヒカリ、これ本当に美味しいよ。どうやって作ったの?」


「ありがとうございます。天界で料理を学んだことがあるので、それが役に立っているのかもしれません」


「そうなんだ。すごいな」


「美味しいものを食べるの好きなんです」


 昼食を楽しみながら、僕たちは他愛のない話を続けた。ヒカリの存在が学校生活を一層楽しいものにしてくれているのを実感する。


 しかし、その楽しい時間も長くは続かなかった。昼食を終えて教室に戻ると、サッカー部のキャプテンである桐谷がヒカリに近づいてきた。


 桐谷は学校で一、二を争うイケメンで、サッカー部のエースでもある。勉強もスポーツもそつなくこなすうえに、女子にも絶大な人気を誇っている。そんな彼が僕に目もくれずにヒカリにアプローチをかけてきたのだ。


「天城さんだっけ?初めまして、俺、サッカー部のキャプテンやってる桐谷っていうんだ。君、すごく可愛いね。よかったら一緒に放課後どこか行かない?」


 桐谷は僕の存在を無視して、ヒカリに直接アプローチをかけてきた。僕の心の中で怒りが芽生えたが、ヒカリは冷静に答えた。


「ごめんなさい、桐谷さん。私は大和さんと一緒に帰る予定なんです」


 桐谷は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔に戻り、さらにアプローチを続けた。


「そんなこと言わずにさ、一度くらい一緒にどう?俺と一緒なら楽しい時間を過ごせると思うよ。君みたいな可愛い子が大和なんかといるのはもったいないって」


 その言葉にさすがに我慢できなくなった僕は、桐谷に向かって一歩前に出た。


「ヒカリは僕の彼女だ。あんまりしつこくするなよ、桐谷」


 桐谷は僕を睨みつけ、挑発的な笑みを浮かべた。


「彼女ねぇ。君がそう言うならそれでいいけど、俺が本気を出せば君なんかすぐに忘れさせるさ。俺に靡かない女なんていないんだから」


 そう言い残して桐谷は去っていった。僕はその場に立ち尽くし、ヒカリと顔を見合わせた。


「大和さん、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。ありがとう、ヒカリ」


「気にしないでください。大和さんが私のことを信じてくれているなら、それで十分です」


 ヒカリの言葉に僕は少し安心したが、心の中には桐谷への警戒心が芽生えていた。


 ――――


 放課後、僕たちは一緒に帰宅した。家に帰ると、母が玄関で迎えてくれた。


「お帰りなさい。今日はどうだった?」


「ただいま、母さん。ヒカリも一緒に行ったけど、無事に一日終わったよ」


「それはよかったわ。ヒカリちゃん、学校はどうだった?」


「とても楽しかったです。皆さん優しくて、すぐに馴染めそうです」


「それは良かったわ。大和、ヒカリちゃんと一緒に頑張ってね」


「うん、分かってるよ」


 ヒカリと一緒に夕食を食べながら、僕たちは学校での出来事を話し合った。桐谷の挑発に対する不安はまだ残っていたが、ヒカリの笑顔を見ると、その不安も少しずつ和らいでいくのを感じた。


「ヒカリ、明日も一緒に頑張ろうね」


「はい、大和さん。頑張りましょう」


 こうして、新しい学期が始まった。ヒカリとの日々がこれからどのように展開していくのか、楽しみと少しの不安を胸に、僕たちは新しい生活を歩み始めた。

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