第2話 新しい生活の始まり

 ガラケーを拾っただけで、彼女ができるなんて、そんな非現実的なことが起こるとは思ってもみなかった。しかも、その彼女が天界から来た美少女ヒカリだなんて。


「では、よろしくお願いします」


 とハニカミながらヒカリが頭を下げた。僕はまだ状況を把握できていないまま、ただ頷くしかなかった。


「え、えっと、とりあえず家に行こうか?」


 僕は少し震えた声で言った。


「はい、大和さんの家に行きましょう」


 こうして、僕たちは一緒に家へ向かった。家に到着する前に、ヒカリが突然立ち止まった。


「大和さん、少しお時間をいただけますか?」


「どうしたの?」


「天界の姿のままだと、下界の人々に違和感を与えてしまうので、ここで変身します」


「た、確かにそうだね。っていうか変身できるんだ。わかった。じゃあ、待ってるよ」


 ヒカリは目を閉じて集中し始めた。すると、突然彼女の体が薄い光に包まれ、その光が強くなるとともに彼女自身のシルエットが浮き彫りになっていく。


「わっ!」


 大和は驚いて目を背けた。ヒカリはそのまま変身を続け、光が再び彼女の体を包むと、現代的なカジュアルな服装に変わり、背中の翼も消えていた。


「どうですか、大和さん?」


 大和は赤面しながら確認した。


「う、うん、これなら普通に見えるよ。でも、ヒカリ、変身する時は誰にも見られない場所でやったほうがいいよ。あと、僕も見ないようにするから」


「わかりました。でも、どうしてですか?」


「えっと、君が変身中って一瞬、は、はだ、、、、いや。誰かに見られるとちょっとまずいと思うから。ぼ、僕も……」


 ヒカリはキョトンとした表情を浮かべた。


「よくわかりませんが、気をつけます」


 大和は大きく息をついて、


「よかった。それじゃあ、行こうか」


 恥ずかしさとドキドキ感でヒカリの顔を少しだけ見づらくなった僕は、少しだけ速足になってしまった。



 ――――



 その後、僕たちは藤原和菓子店に到着した。家と店は同じ建物の中にあり、店の入口から家の玄関に直接つながっている。


「ここが僕の家で、和菓子店でもあるんだ。母さんが中で待ってると思うよ」


 ヒカリは藤原和菓子店の外観を見て目を輝かせた。


「とても素敵な建物ですね。歴史を感じます。いつから続いているのですか?」


「この和菓子店は、一応僕で七代目になる。だから、だいたい170年くらいの歴史があるみたい」


「そうなのですね……170年も続いているなんて、本当にすごいです」


 そう、鳴瀬市は都心から電車で一時間ほどの距離なので、今ではベッドタウンのイメージ強いけど、昔は城下町として栄えていたらしい。だからうち以外にも長く家業を営んでる家はある。まあだいぶ減ったらしいけど。


 家に入ると、母が玄関で迎えてくれた。


「大和、おかえり。あら、その子は?」


「こ、こんにちは。私はヒカリと申します。今日から、お世話になります」


 母は少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔に戻り、「そうなのね、よろしくね、ヒカリさん」と優しく応じた。母の受け入れの速さに少し驚きつつも、今のヒカリの言葉からすると、ヒカリが一緒に住むって感じに聞こえたのがすごく気になる。


 一旦僕の部屋に入り、ヒカリとのこれからの生活について話し合った。っていうか家族以外の女の人をこの部屋に入れたことないからめっちゃ緊張する。

 ヒカリは初めて入る部屋ということもあってか、目に映る物が目新しいようで、せわしなく首を動かしている。見つかっちゃヤバいやつ、ちゃんと隠してあるよね?


「と、ところでヒカリ、これからどうするの? 見た感じ僕とあまり歳かわらないみたいだけど学校とかどうするの?」


「それについては、天界管理局がすでに手配してくれています。大和さんの願いが天界で受理されたため、私たちがお付き合いするために必要なものごとに強制力が働きます。年齢については天界人は地上の人たちより寿命が長いので明確に何歳っていうのは難しいですが、この下界で暮らしてくと決まったので多分大和さんと同じ歳に固定されたと思われます。なので私は大和さんの学校に転入することになりますが、まずは下界での生活に適応するための準備が必要ですね」


「そうだね、で、住む場所なんだけど……」


「はい。今日からよろしくお願いしますね」


 まばゆいくらい美しくそして可愛い顔で言ってのけるヒカリ。ああやっぱり一緒に住むんだよね。こんなめっちゃ可愛い子、しかも僕の彼女。……僕の理性大丈夫かな。


「あれ、でもどうしよう、うち、空いてる部屋無いよ?」


「え、一緒の部屋じゃダメなんですか?」


「え、仮にも男女同室とかヤバくない?倫理的にとか……」


「私たちお付き合いしてるんですから、何がダメなんですか?」


(ええええ、何て言うか色々な意味でオッケーっていうこと? え、え、え、違うよね。単純に天然なだけだよね?)


 男女の関係について一切経験の無い僕はただただうろたえる。ヒカリは楽しそうに笑顔を浮かべながら僕を見つめていた。



 ――――



 その日の夜、ヒカリを含め家族みんなで夕食を共にしながら、ヒカリは自分の身の上について話した。もちろん天界のことは一切触れない。どうも家族の認識として僕とヒカリが恋仲になったために、ヒカリはとある国から留学してきた女の子で、うちがホストファミリーになったって感じのようだ。時系列含めてツッコミどころ満載なのだけど、それが天界による強制力みたい。神様すげーな。家族全員が彼女の話に興味津々で聞き入っていた。妹の美咲はお姉ちゃんができた!っってめっちゃ喜んでるんだけど、妹よ、嬉しいのは良いのだけど、一々兄の肩を叩かないでくれ。結構痛い。


 特に父は和菓子店の手伝いをしてくれるというヒカリに対して大喜びだった。ヒカリは和菓子作りにかなり興味があるらしい。僕も好きだし、やはり将来は藤原和菓子店を継ぐつもりで居るから、彼女が同じものを好きになってくれるのは嬉しい。


「ヒカリさん、ありがとうね。うちの店を手伝ってくれるなんて、本当に助かるよ」


「いえ、私もお役に立てるなら嬉しいです」


「こりゃ、明日から大変だね。こんなべっぴんな看板娘ができたら、繁盛間違いなしだわね」


 ばーちゃんが父を焚きつける。


 うん、僕も明日が楽しみだな。

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