第7話 分岐点



 それから数年小さな研究室でアルと二人ですこじずつ、だけど着実に研究は進んでいった。

 魔物化した生物や魔力の濃い場所を調べることで魔力が生物の与える影響がわかってきた。魔力吸収量が多い生物が周囲からより魔力を引き寄せるようになることによって魔物化が進むということがわかり、人の中から魔物化が起きないようにするための薬の研究をすることになった。

 そんなある日。アルがいつにないほど勢いよく研究室のドアを開けて入ってきた。


「ノア! この前の薬の研究内容が王城に認められたよ! 今後は国が本格的にバックアップしてくれるんだって。研究が本格的に大きくなるよ!」


 アルの手には王城への召喚状が握られていた。




 数日後私たちは、王都中心にある王城に来ていた。

 普段は貴族や王族以外はあまり立ち入ることのない城の中は今まで見た建物の中でもとてもきらびやかで装飾などがあちこちにほどこされていた。

 衛兵に召喚状を見せて案内されると、そこには政治を統括する宰相、そしてなぜか公爵家といつも難癖付けていたそのお抱え賢者がいた。


「そなたたちの研究成果に国王陛下はたいそうお喜びである。事前に通知したように国のバックアップの元、研究室や人員も追加で用意し今後は本格的におしすすめていく。今後はより一層研鑽していくように」

「はい」


 厳粛な空気の中響く宰相の言葉に、私たち二人は首を垂れる。

 隣の幼なじみの返事からは今までの苦労が認められたよろこびが伝わってきた。そこで宰相が予想していなかったことを続けた。


「しかしどこの貴族派閥にも所属していないお前たちには、人や機材を集めるのは荷が重いだろう。そこで、今後は臨時として研究を公爵家の名義として統括するものとする。

 今まで通り現場での研究責任者はそなたとするが、報告は公爵家経由で行うこととする。これが今回の国の、王の決定である」


 驚きのあまり顔を上げると、そこにはにやりとわらう公爵家の賢者の顔があった。



「アル、大丈夫?」

「うん、これも国の決定だからね。ちょっといけ好かないけど、しょうがない。それにさ! 新しく研究室を増やすってことはさ、今まで使えなかったような貴重な研究器具が使えて、世界の問題ももっとはやく解決できるってことさ。これからも忙しくなるけど、今後もよろしくね、ノア」


 帰り際となりの顔をみてみると、ちょっと気を落としてはいたものの相変わらずその目はまっすぐ前を向いていた。



 アルの言っていた通りその後私たちの日々はとてもあわただしくなった。

 研究所の新設にあたり、今までアルの助手だった私も王国に貢献した魔法使いとして賢者の称号を得た。

 研究所には多くの人員が配置され、さらには研究室が増設された。たくさんの部屋には最新の機器が支給され、国の本気を今になって理解することになった。新規メンバーを募集しても私たち二人だけだった研究室は王国一の大所帯になった。

 アルの研究は年々増え続ける魔物の脅威への不安が広がっていた中で、新しい時代の訪れを感じさせる希望として世間では大々的に取り上げられていた。

 多くの人が研究にかかわることでできることも増えたが、管理しきれないものやしがらみ、衝突も増えた。ただ確かにこれまで以上に研究は早く進み多くの発見があった。


 今振り返れば、あわただしく時が流れる中でいちど立ち止まっていれば、この後起きる悲劇を回避できていたのかもしれない。


 研究所の新設からしばらくたったころ、研究用の魔物が足りなくなっていると珍しくほかのメンバーも村への出張についてくることになった。



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