第6話 魔導の研究者
「はああ!!」
アルの魔法が馬車を囲っていた小型の魔物たちをまとめて吹き飛ばす。その威力は村にいた時より明らかに上がっていた。
「ノアありがとう、やっぱり君がいるととても助かるよ」
「わたしがいなくても問題ないんじゃない?」
「そんなことないよ、これまでは魔物の捕獲なんてできなかったんだから。ノアの拘束魔法のおかげで研究もすごく捗りそうだ」
小型の魔物の群れをアルの魔法で倒した後、事前に頼まれたとおり数匹の魔物を拘束魔法での捕縛した。魔物化した動物を捕まえて、魔力が生物に与える影響を調べるらしい。
聞いていた通りこのあたりはどうやら魔力濃度が濃いらしく魔物の出現数が明らかに増えていた。
「あー勇者さまだ~、今日はおんなつれてるー」
村に到着するとこちらに気づいた子供たちがととてとてと近づいてきた。どうやらアルはこの村じゃ人気者らしい。けど、勇者さま?
「こらあんたたち、ちゃんとあいさつしな」
子供たちが集まっているのに気がついて壮年の女性が出迎えてくれた。どうやらこの村の村長らしい。おそらくアルの研究の協力者だろう。
「ここに来る途中も魔物の駆除してくれたんだろ? いつもありがとうねえ、こんな辺鄙な村にまで来てくれて」
「そんな、俺たちはたいしたことはしてないですよ。自分たちの研究のついでにやってることです」
「それでもありがたいのさ。国にはずっと被害の報告してたんだけど誰もこんな辺鄙な村に駆けつけてくれやしない。王都のお偉いさんがたはわたしらしもじものことなんてどうでもいいみたいだしね、気にかけてくれるだけでうれしいのさ。子供たちなんてあんたたちのこと、昔話に出てくる勇者様だってさ」
そういえば昔読んだ本にそんな話があったっけ。
世界の危機が訪れたとき立ちあがる勇者や魔法使いのパーティが冒険する物語だったかな?男の子が好きそうなおとぎ話で故郷の村でも人気だったような気がする。
「でも申し訳ないねえ、うちの村はお偉い魔法使いさまに払えるほどのお金がなくてね」
「大丈夫ですよ、泊まる場所を提供してもらったり僕たちの研究に協力していただいてますし。王都でやれないこともありますので、こちらとしても助かってます」
「しかし魔力の研究ねえ。最近また魔物の数が増えて気がするよ。わたしゃ難しいことはわかんないけど。もしその研究とやらが進んで魔物がへれば、村の生活もよくなるだろうからねえ、わたしらも応援してるよ」
その後数日村に滞在し、魔物を拘束しては魔力量を調べるなどアルの研究を手伝うことになった。初めはしぶしぶ付き合っていたけど、夜は村長の家に泊めてもらいご飯を頂いたり村の子供たちにもなつかれるようになり、ちょっとだけ楽しくなっていた。
魔法学校にかえりアルの研究室に向かっていると、いつものようにすれ違う魔法使いたちの陰口が聞こえてきた。
王都に来てわかったことがある。魔法使いというのはおとぎばなしの本にのっていたような夢のある物とは違う。優秀な存在である『魔法学校を卒業した魔法使い』、特に『賢者』という称号をとると国や貴族から囲われるのだ。ほとんどが気に入られ成り上がることしか考えていない。
そういう意味でも、国に認められ最年少で研究室を持ったアルは周囲から妬まれていた。
目の前に魔法使いの集団に道をふさがれる。一番先頭にいるのはいつもいやがらせをしてくるメンバーのリーダー格だった。
確か公爵のお抱えの『賢者』の称号を持つ魔法使いだった気がする。まとってる魔力のオーラで実力が大したことがないのがわかる。金で賢者の称号を買ったのだろう。
「は! またお前はあんな辺鄙な村に行って点数稼ぎか。最年少で賢者の称号をもらったからって、調子に乗るなよ辺境の村出身の若造が」
「申し訳ありません、公爵家の魔法使い御一行様の気をわずらわせてしまい。私たちはこれから研究内容を王城への報告がありますのでがありますので、失礼します」
明らかに上から目線の発言に対して、アルは興味のなさそうにそっけない様子でその横を通り過ぎる。こそこそとアルの後ろについていくが、こんなアルの表情を見ることは村ではなかったな。アルの顔が村にいた時よりやつれているのはこいつらのせいだろう。
馬鹿なやつだな、お前は本当に。
憎しみの視線を感じながら通り過ぎると、後ろから不穏な捨て台詞が聞こえてきた。
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