第12話 戦いの後で
これは昔書かれた魔王を倒した勇者の物語。
勇気ある者たちが魔物の王を倒し、世界を光に導いた、そんなお話が書かれた絵本。
でもこれから語るのは、勇者パーティの一人のとある魔法使いのお話。
とある小さな村にいた二人の小さな賢者さまの物語。
轟音と共に彼の体が光に包まれていく。
私が放った魔法は、光の檻となり完全に世界から魔王の力を遮断した。彼の力が弱まっていくのを感じる。
アル、覚えてる?この子たち、あの時守った村の子供たちなんだよ。悲しいことばかりの世界だったけど、未来への希望も、確かにあったんだよ。
最後の瞬間、彼の瞳が一瞬理性が戻ったような気がした。
全てが終わったとき、そこには光輝くクリスタルが一つ城の中心にたたずんでいた。
世界に平和が戻った後、私は昔の研究室を訪れていた。
魔王を倒しても王都に人が戻ってくることはなかった。魔王が集めた魔力が拡散されるのに時間がかかるからだろう。
戦闘によって城のあちこちが破壊されそこらじゅうが瓦礫の山になっていた。おそらくこの地は遺跡となるだろう。人々は新しい地で生活を営んでいた。
私は研究のための資料を運び出すために資料などを集めていた。
あの事件のあとも世界で魔力が増える現象はなくなっていない。研究室の生き残りとして、そしてあの事件の責任者の一人として研究しようと思う。ほとんどの機材は壊れていたが希望はある。ただ一人、魔力制御薬を飲んだ私自身の体が。
思いがけない形で人として進化してしまった私の体は、彼らの言う通りなら人よりずっと長く生きることになるだろう。
気がかりがもう一つある。私のかけた封印魔法がいつか解かれるかもしれないということ。その時に彼は、魔王なのかそれともアルなのか……。
最後まで責任を持つことが今の時代を作ってしまった自分の役割だった。
アルの自室だった場所にくると覚えのある私物がでてきて懐かしく感じるばかりだった。
机を確認していると、引き出しの奥に村にいたころ使っていた子供用の魔法の杖と共に一通の手紙がおいてあった。開いてみると日付が私が王都に来る前の物になっていた。
「久しぶりノア」
「君はずっと家で引きこもっていたかったと言うかもしれないけど、もうすぐ君とまた会えると思うと今から楽しみで仕方がないよ」
「子供のころにさよく村で夢を語っていたよね。勇者の物語に出てくる魔法使いのように、どんな困難に直面しても頼れる仲間と立ち向かって、最後はめでたしめでたしってさ」
「研究が完成すれば、世界中で魔物の被害にあっている人たちが苦しまなくて済まないようにできるんじゃないかって。でも、王都に魔法学校に来て、その希望は夢物語だったんだと気づかされた」
「ここでは魔法は政治の道具でしかなかった。魔法学校出身の偉大なる魔法使いという箔をつけて貴族に仕えるか、研究室という名の派閥争いに明け暮れてばかりいる。おかげで自分のような人間は変人扱いだよ」
「ずっとひとりでいるととなりに君がいてくれたらって思ってしまう。あの村にいたころが一番楽しかったなって。せっかく王都で待ってるって約束したのに、これじゃ君に笑われてしまうね」
「ノア、君と早く会いたいよ」
そこにはアルがひとりきりで王都にいたときの想いが書かれていた。引き出しの奥にしまっていたということは最後まで出せなかったのだろう。ぽたぽたと流れ落ちた涙で文字がにじんでしまった手紙を握り締めた。
今度は私が彼を待つんだ。未来でどういう再会になるかわからない、それでも彼が目覚めたときそばにいてあげたい。
またいつか彼の笑顔を見る、そのために。
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