第11話 過去の希望・未来の勇者
あれからどう生きていたのかあまり記憶がない。故郷の村に帰って茫然とした様子で帰ってきた私を両親は温かく迎えてくれたのは覚えている。
帰ってくるなり自室にこもりがちになった私のことを村の人たちは何かを察してそっとしてくれていた。いつも隣にいたはずの相棒がいなくなったことに、私はいつまでも向き合えきれずにいた。
引きこもっている間に世界はひっくり返っていた。
王都があった場所は魔力だまりとなり、魔力耐性のない普通の人では近づくことすらできなくなっていた。さらにそこからは魔物が大量に発生するようになり世界の終わりがはじまったとまことしやかにささやかれ、かつての王城は畏怖を込めて魔王城と呼ばれるようになっていた。
それから数年の月日がたったある日、村を訪れた一組のパーティがいた。各地で魔物の被害があった場所を渡り歩きながら人助けをして回っているらしく、この村にはどうやら私に用があってきたようだった。
そのパーティは人々から希望を込めて勇者一行と呼ばれていた。
両親に私の部屋へ通されたメンバーは、リーダーらしき剣士の男、簡単な回復魔法を使える女戦士と攻撃魔法の使える女魔法使い、おそらくみな成人したばかりであろう若い3人で形成されていた。
リーダーの男が切り出してきた。
「あの、あなたが大賢者のノアさんですか?」
「大賢者なんて、そんなたいそうなものじゃないわ。ただすこし魔法使いの適性があっただけ」
「いえ、魔法学校から避難してきた人たちから聞いております。どこからともなく現れその圧倒的な知識と数々の魔物を討伐した実績で、最年少で賢者の称号を得た大魔法使いだと」
賢者なんて頑張れば誰でももらえるものだとばかり思ってたけど、周りからはそうみられてたのね。
「私なんてただ本と研究が好きなだけだったわ。それで、今日は何の用なのかしら」
「今日はお願いに参りました。あなたの力をお借りしたいのです」
「私たちは、魔王を討伐したいです」
「偉大な魔法使いの称号を持つ賢者の唯一の生き残りであるあなたに、ぜひとも協力をお願いしたいのです」
「力ある魔法使いは魔王が生まれたときに城にたためほとんど残っていません。生き残ってる魔法使い方の中で、あなたがいちばん魔物を倒してきた実績があるとお聞きしています。数々の魔物を倒し偉大な研究などをされていたとか。魔力適性が高く今の魔王城にも以前いたため城内の様子も詳しいと。無理なお願いだとは承知しています、ですがどうか力を貸していただけませんか?」
私はあまりにも突然な話に動揺してしまった。考える時間をとらせてもらうためパーティにはその間家で泊まってもらうことにした。
私は自分の中で整理する必要があった。
魔王を討伐する、それは私自身の手でアルを殺すということだった。
その日の夜はそのパーティを招いてご飯になった。
こもりきりだった私が久しぶりに人と会っているのを見てうれしくなったのか両親はごちそうを持ってきてはリーダーである若い男に旅の話を聞いていた。
「僕たちはみな元王都の近くの同じ村出身なのです。そこでは魔力の濃度が高かったのか魔物がよくでていました。貧しい村だったので王都からの援助もなく魔物が出てきても自分たちで何とかしていました。だからみんな魔力耐性も高い人ばかりだったんですよ」
「それでも年々魔物の数も増えどんどん強くなっていきました。自分たちの力ではどうしようもなくなっていたころ、王都から魔法使いの方々がやってきました」
若いメンバーだけで今のこの時代に危険な旅をしている理由が気になったのか、自然とその話の流れになった。
「あれはまだ僕たちが小さかった頃の話です。大した報酬もお支払いできなかったと思うのですが、その方々はなんども村を助けてくれました。一度村を半壊するほど強力な魔物が出現したときも、危険を恐れず立ち向かう後ろ姿を子供ながら覚えています」
「その時決意しました。ああ、僕たちもいつかこの人たちのように、人々を守れるようになろうと。僕たちがそうしてもらったように」
そこで彼らが研究のため訪れていた村の子供たちだったことに気が付いた。思い起こせばどこかその面影がある。私たちはあの村を巻き込んでしまった。それでも彼らは前を向いて、そしてあの頃のアルの背中を覚えてくれているのだ。
目を輝かせて希望を語る姿はいつかこの村で夢を語っていたアルとどこかかぶるものがあり、その言葉に心を動かされていた。
それはおとぎ話の中に出てくるような名も無き勇者の姿でもあった。
私は決意を固めることにした。
アルも求めていた世界を救いたいという夢を持つこの青年たちを守らなきゃいけない。私たちがあの日守った未来の希望を、導かないといけない。
そしてもう一度アルに会いたい。遠い場所に一人で行ってしまった彼を、もう一度私は追いかける決意をした。
翌日、パーティを部屋に呼んだ。魔王を倒し世界を救うため、その夢を守るために。討伐に協力することを伝えると喜ぶメンバーに作戦を伝えた。
「魔王はもともと強力な魔法使いが魔物化した存在なの。どこまで理性が残ってるのかわからないけど、もう人の領域じゃない。あそこまで魔力をため込んだら普通の魔物たちと違って魔法を使っても倒せないと思う」
「あなたのパーティの子もそれなりに魔法は使えるようだけど、火力が全然足りない。そこで私のとっておきを使うわ。私の得意魔法系統は拘束魔法なんだけど、対魔物用の強力な封印魔法も使える。これを使えば、相手がどれほど強力な魔物であってもその魔力ごと抑え込んで封印することができるわ」
「完全に封印するためには詠唱にかなりの時間がかかる、だからあなたたちにはそのための時間稼ぎをしてほしいの」
真剣な顔でうなずく三人の顔を見ながら、私はもう一度彼に会いたいという気持ちを改めて決意した。
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