第4話 小さな村のゆうしゃさま


 ああ、やっぱりすごいな。

 目の前で起こっている予想以上の現象に目を見張る。

 ノアの杖から放たれた光が、さっきまで力の限り暴れまわっていた魔物の動きを、その圧倒的な魔力で封じ込める。


 臆病でいつも自分の後ろをついてきて、自信もない。そんな性格だからかノアは自分の力を過小評価してる。


 あれは魔法を使えるようになって気持ちが大きくなっていたころ。

 ついつい楽しくなって山向こうにまで嫌がるノアと行ったとき、偶然見つけた洞窟の中で竜と遭遇したときがある。

 とっさに攻撃魔法を使ったけどそこはまがりなりにも最強種の竜、傷一つつけることすらできなくて、その時はああ、ここで死んじゃうんだって思った。

 そこでノアが、見たことないような強大な拘束魔法を使ったんだ。

 周囲から魔力を集めたかと思うと、子供用の魔法の杖からは膨大な魔力があふれ出て竜を圧倒的な光りの魔力で拘束しちゃったんだ。

 竜がどんなに暴れようとしてもびくともせず、しかもその魔法は、魔物がもっている魔力そのものを封じ込める力す持っていた。

 なんとか逃げ出した後その魔法について聞いてみたら無我夢中だったようで何も覚えていなかったけど、僕は今でもその時の衝撃を覚えてる。

 竜すら封印した拘束魔法、熊の魔物ごときノアの相手じゃない。


 俺も負けてられないな、そう思いながら体中にある魔力を集中させ、詠唱を完成させる。


「俺たち二人は、最強の魔法使いだ」


 最高の攻撃魔法が杖から発動した。




 その夜は村でお祭りが開かれた。

 娯楽のない辺鄙な村にうまれた、村を危機から救った小さなふたりの勇者の話を肴にして盛り上がるのだった。


 騒がしいのは嫌だから端のほうでひとりごちそうをつついていると、さっきまで大人たちに絡まれていたアルがごきげんな様子で飲み物をもって隣に座った。


「ノアも大人たちに祝ってもらったらいいのに、相変わらずひとりでいたがるね」

「私なんてちょっと魔物を足止めしただけで、倒したのはアルのおかげでしょ?

 わたしはいいよ」

「そんなことないさ、ノアがいたから魔物を倒せたんだ。俺一人じゃ、なにもできなかったよ」


 私は昔から一人で本を読んでいることが好きで、ほかの子供たちと遊ぶことも大人たちにかまわれるのもめんどくさかった。

 そんな態度だったのになぜかアルだけはしつこく声をかけてきて、気づいたら一緒にいることが多くなっていた。

 ふと会話が途切れ静かな時が過ぎる。


「ノア、俺はさ、王都にある魔法学校に行こうと思う」


 アルのほうを振り向くと持ってきた飲み物を飲みながらぱちぱちと静かに燃える火を見ていた。


「あともうすぐしたら成人になって村の外に出てもいいって年齢になる。村長には止められたけど、狩人のおっさんが外の世界も見てこいって応援してくれたんだ」

「行商のおじさんにきいたんだけど、最近世界中で魔物の出現が増えてるらしくて、今日みたいな被害も出始めてる。王都には魔法学校っていうものがあってそこだとたくさんの人が集まって知恵を集めて、世界の為になる魔法の研究もおこなわれてるらしい。実力を認められたら、どんな出自の人間でも認められて自分の研究室を持たしてもらえるんだってさ」


 だからさ……


「俺が魔法学校に先に行って自分の研究室を持てるように頑張るからさ、ノアも成人になったときには。その時はさ、王都に来てくれないか? 俺は、これからもお前が一緒にいてくれるとうれしい」

 

 突然の内容に驚いて焚火の明かりで赤くなっている顔を見つめ返した。その目にはいつもと違って真剣な色が宿っていた。


 正直私はアルほど魔法に興味はない。けど本を読んだりするのは好きだ。

 村にいてもたまに来る行商のおじさんからしか本を買えないし、王都ならたくさんの本を読めるかもしれない……。


「うん、そうね、王都のほうが本いっぱい読めそうだし、もしそうなったら前向きに考えておくよ」


 アルは緊張が解けたようにほっと息を吐くと、飲み物を掲げた。


「俺たち二人ならどこでだって最強だ。それじゃ、未来の大魔法使いに乾杯!」




 そしてその日はきた。

 成人を迎えたアルは早朝王都に向かう商人の馬車に載せてもらうことになった。

 すこしずつ日がのぼろうとしている中、家族や狩人のおじさんや村長からは生活費とお祝いの品々が送られ、見送られようとしていた。

 村を守ってきた、小さな勇者さまの出発の日だった。


「ノア!」


 村の出口で一緒に見送りをしているこちらに気が付くと、こちらに駆け寄ってきた。


「手紙、送るからな。魔法学校でいっぱい頑張って、それで自分の研究室持つから、その時は、約束だから。待っていてほしい」

 

 朝日に照らされたその顔は希望に満ちていた。

 私は、おそらくその日のアルの顔を一生忘れないだろう。


「うん、私、待ってるから。手紙楽しみにしてる」







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