第3話 二人で最強
「アル、ノア!帰ってきたか!」
こちらに気づいた村長が狩人のおじさんを引き連れて走ってきた。
「大変なことになった、大型魔獣が村の近くで発見されたらしい。
どうやら家畜が何頭かやられて、近くにいたばあさんが襲われたらしい。
幸い大きなけがを負わずに済んだらしいが」
「え!? その魔物は今どこにいるの?」
アルが慌てて聞き返すとか狩人のおじさんが前に出てきた。
「村長、こっからは俺が説明しよう。発見したのはお昼過ぎたころ、町はずれの家畜小屋で牛を数頭食っていた。おそらくもともとクマだったやつが魔獣化したやつだろう。矢を何本かいってみたが毛が鋼のようでまともに刺さらんかった。あれほど巨大な魔物、村の大人じゃあどうにもできん。また家畜を食いに村におりてくるだろうが、被害が広がる前に魔法を使える二人に協力してほしい」
「すまんのお、子供の二人にこんな危険なことをお願いしてもうて。しかしなあ、魔物はなかなか普通の人間には対処が難しいのじゃ」
申し訳なさそうに狩人のおじさんと村長が頭を下げてくる。
「いいよ村長、魔物は今までたくさん倒してきたし。それになんたって、俺たちふたりは将来偉大な魔法使いになるんだからな」
「え~、アルわたしも?私拘束魔法しか使えないしそんな大型な魔物相手なんて足手まといにしかならないよ」
「大丈夫だって、俺とお前がいたらどんな相手だって問題ない。だって俺たちはふたりで最強だからな」
心配する私をよそにアルは任せろとばかりににこっと笑った。
村の外れの広場に間引いた家畜を置きその周りに大型の魔物もすっぽりはまる深さの落とし穴を作ることで急ごしらえの罠を張る。
「僕には攻撃力が高い魔法を使うことができるけど、大型相手ほどになると詠唱の時間がどうしても必要なんだ。魔力を大量に取り込んだ魔物はふつうの武器や魔法だと傷一つつけられない。だから、まずは罠で動けなくする。狩人のおじさんたちはもしもの時に備えていてほしい。動きを封じさえすれば、あとは俺がやる」
なにかあったらノアもいるから大丈夫とこちらに目線を向けられると、大人たちからも期待のまなざしを向けられてとてもいたたまれなくなる。
私には確かに魔法を使う能力があるけど、今までだって唯一得意な拘束魔法を使ってアルが魔法を使う隙を作ってただけ。いろんな攻撃魔法を使えるアルに比べたらぜんぜんで、村の為に魔物に立ち向かおうなんて勇気だってない。
なんでアルはこんなに私を信頼してくれるんだろう。
罠を張った後近くの茂みに隠れてしばらく待ち伏せしていると、ズシンズシンと何かが近づいてくる音がした。
うめき声が近づいてくるとともにその音の持ち主の姿があらわになる。
おおきい!
元が大型の熊だったのだろう、普段村の周りに見る小型の魔物とは比べ物にならない。
なによりも体を覆っている毛が、魔力を帯びることでまるで竜のうろこのような黒い輝きを放っていた。
魔物が肉を食らおうと家畜に近づくと、罠が作動しその巨体が落とし穴に消える。
「やったか!?」
「グオオオオオオオ!!」
ほっとしたのもつかの間、唸り声をあげたかと思うと十分な深さに掘っていたはずの穴から大きく跳躍しはいずり出てきた。
普通とは言えないその魔物の動きに一瞬全員の動きが止まる。
「ゴアアアアアアア!!」
魔物は牙を剥き出すと近くに隠れていた大人たちをその腕で吹き飛ばしてしまう。
受け身すら取れず吹き飛ばされ倒れこむおじさんに襲い掛かろうとしたその時、魔法が直撃する。
「ちっ、やっぱりとっさにうった魔法じゃ効果は薄いか」
魔法を放ったアルは、緊張感を持った表情で傷一つできていない魔物と対峙する。
「グルルルルル」
アルを見て魔物はやっかいな獲物だと感じたのか、警戒した様子で唸り声をあげる。
「ノア、僕が気を引くから魔法を使ってくれ!」
「そんな! こんな魔物相手に私の魔法なんて……」
「大丈夫! ノアならできる」
アルが魔法でけん制しながら魔物の視線をくぎ付けにする。
うっとおしそうにしていた魔物も、どうやら自分にはあまり効果がないことに気が付くとアルに突進し襲い掛かる。
間一髪で身をかわすがその鋭利な爪先がかすり軽々と服を切り裂く。
うっすらとできた傷から血が出ているのを見て、私は頭が真っ白になった。
このままだと、アルが死んじゃう……。
私はいったい何をやっているんだろう。いつもいつも魔物退治の時はアルの後ろにいて守られてばかりで。私がやらなきゃ、アルを。今度はわたしが助けるんだ!
体内の魔力をありったけ込め解き放った。
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