「お嬢様と初めてデート」
今日の教室は騒がしい。教室に入るなり、普段俺とは無関係なクラスメイトが、一斉に畳み掛けてくる。
『星川さんと付き合っているの?』『どこまで進んだ?』など四方八方から質問が絶えない。まあ付き合ってはいるんだけど...。そうだ、和也にこのことを相談しないと。俺は、鞄を机の上に置くと、和也の席に向かった。何気に俺から話しかけるのは初めてか?まあいい。
「和也、わりい、相談があって...。」
「おいおい、おはようは無いのかい?まあこんな状況じゃ、お前がこうなるのはわかってたけどな。」
不味い。このままじゃ奴のペースに飲み込まれる。俺は適当に相槌をし、本題を話す。
「悪い、デートについてなんだけど...。」
「おいおいおい、いきなりデートとかいわれても...まあなんのことか想像つくな..ってお前やっぱり付き合ってたのかぁ!?。」
和也がわざとらしく大声で叫ぶから、生徒は一斉に俺の方を向く。まだ付き合ってないと希望を持っている生徒らも、睨みと憎しみをこちらに向けて来る。もう周りでは、俺と愛菜が付き合っているのを認めざるを得ない状況になっている。二人が付き合っているのは事実だって。だから今俺が付き合ってないといえば、更に混乱すると思うので、「お付き合いしています」と一言言った。
「付き合ってるんですが、彼女が...星川さんが、土曜日にデートって。俺そんな経験ないし、よければ教えてくれないかと。」
俺はすでにおかしくなっていた。デートは認めてもらうためなのに、その認めてもらう人に教えてもらおうとしている。なんで??クラスは一瞬静かになったが、一人の生徒が、こういった。
「星川さん、パスタが好きってよく言ってたよ。」
俺が全くかかわらない(名前も知らない)生徒が発言したおかげで、いつしか俺を応援してくれる人も増えていた。
「パスタね...この前に食べに行った駅前のレストランのカルボナーラ、すごく美味しかったよ。」
「飯以外にも、遊園地とか、映画館とか。あ、星川さん、恋愛映画みたいとか言ってたよ。」
「あとあと、絶対に落とすデートの秘訣っていう雑誌貸そうか?」
「おいおい、付き合ってるんだからそんなのいらねーだろ。」
いつの間にか、俺が話に入る好きもなく、この物語はピークを迎えていた。みんな陽季のために尽くしてくれる。それが、何よりも嬉しいことだった。普段一人の自分が、こんなに馴染めるなんて。
「みんな、ありがとう。助かったわ。土曜日、頑張ってみるよ!」
みんなが俺の恋を応援してくれている。後は俺が彼女を喜ばせるだけだ。いつの間にか認めてもらうより、喜んでもらうほうが上。それもいいか。俺ができること。それは、彼女を楽しませること。
そして迎えた土曜日。駅前を待ち合わせ場所にして、彼女が来るのを待っている。10時待ち合わせだが、俺は9時にはもうそこにいた。何と言っても初めてのデート。俺的にしっかりプランを立てたつもり(クラスメイト参照)なので、喜んでもらえると嬉しいんだが。少しすると、向こうの方から、何やらすごい美人が歩いてくる。星川愛菜、俺のデート相手だ。普段の制服とは違い、白いワンピース。髪の毛はふわふわしていてとても可愛い。もう好き,,,。
「おまたせ、待った?」
「全然。てか待ち合わせ時間。10時だよ。まだ9時半だよ、早すぎない?」
「ふふ、貴方とのデートが楽しみすぎて。てか、早いのは、貴方もでは?」
それは一理ある。
「俺も、楽しみでな。デートなんて、したことなかったし。」
「それは良かったですね、それで...私の..その...服装は...どう..でしょうか」
愛菜は男をイチコロにしてしまうほどの照れを俺に見せてくれた。きっと、彼女は、この日のためにおしゃれをしてきてくれたのだろう。素直に褒めたいところだが、あざとさなのか本能なのかわからない赤い顔を見せてくるので、自分もなんだか恥ずかしくなってきた。
「そう...だな..にあって....るよ..。」
もっと素直に褒められないのか、俺。このクソ陰キャ。しかし、それを聞いた愛菜は満足そうな笑みを浮かべたので、良かった。
「じゃあ早いけど、早速行こうか。」
「よ..よろしくおねがいします。」
何か固くなっちゃってるけど、まあいい。
まず俺達は、映画館に向かった。ここで恋愛映画の「恋するぼっち少年」を見るつもりだ。もちろん恋愛映画など見たこと無い。館についたが、着く時間が早かったので、隣にあるゲームセンターで、時間を潰そう。ゲームセンターには普段一人でくるが、今日は彼女がいる。隣で歩く愛菜を見てると、心臓のリズムが加速する。中を見て回ると、愛菜がいきなり目を輝かしてある台に向かって指を指した。それは、くまのぬいぐるみ。
「くまさんのぬいぐるみぃぃ可愛い。」
お嬢様でも、こういう一面があるんだ。なんだか普段見れない幼さを感じる。可愛い。
「確かに可愛いね。取ってあげようか?」
「え、いいの?」
「もちろん。俺、普段からゲーセン来るから、任せて。」
「うん。頑張って。」
とはいったものの、もしこれが確率機だったら、俺ダサくないか。カッコつけたのに、失敗したら...。そう思いながらも、彼女のために、手が震えながらも、機械に100円を入れた。そして1回深呼吸して、機械を動かす。幸いプレイスキルがあったので、ある程度上手いところにアームを置けた。するとアームはゆっくり降りていく。そしてぬいぐるみを掴むと、そのまますーっと上にあがっていく。後は落ちるな落ちるな落ちるな落ちるな。アームは上まで上がりきると、物を落とさないまま、出口まで持っていってくれる。その物は、しっかり出口から排出され、無事手に入れることが出来た。良かった〜。もう緊張で汗ダクダク。
「わー、くまさんだあ。田中くん、ありがとう。」
愛菜はそう言って、それを大事に抱いてくれている。
「どういたしまして。」
努力が報われた。
いい感じに時間つぶし出来たので、映画を見る。映画の内容は、ぼっち少年が、幼いときに好きな人が事故で失い、人間不信になるが、ある人に出会い、再び恋に落ちる。そんなストーリー。しかし、俺は、そんなストーリーよりも、2時間くらい、ずっと彼女と隣で、ポップコーンをシェアするほうがよっぽど気になってしょうがない。映画に集中しなきゃ。ジュースでも飲んで落ち着け.....あ。間違って愛菜のやつ飲んじゃったあああああ。メロンソーダなのに、変に甘いような感じ。やばい、意識が。そして、俺の行動に気づいた愛菜は「間違えちゃったね」とだけ言った。少しだけ寿命が減った気がした。
こうして映画は、終わった。俺はさっきのこともあり、疲れてしまった。愛菜はと言うと。めちゃくちゃ泣いていた。
「もう...よかったよぉうっ。」
「良かった〜楽しんでくれたみたいで。」
「そうだよぉ〜。主人公は、あの女の子のお陰で人を愛す心を取り戻したんだよう。うぅ、それでね、心を取り戻したのはね、あの子が昔の女の子にそっくりだったからなんだよぉ。」
「クラスメイトに恋愛映画、星川さん好きって聞いたから、ここに来て正解だったよ。」
ありがとう、みんな。俺達は今、めっちゃ幸せだよ。
「でも私、こんなに泣いてるの、映画がすべてじゃないんだよ。貴方と一緒に見れたから。だからなの。ありがとう、私のために、リサーチしてくれて。」
何この子、めっちゃかわいいんですけど。彼女にしたい(彼女だけど)。そして、涙に隠れていた、この笑顔を見て、俺はこの子を守りたい。そうおもった。
映画も終わってそろそろ昼時。俺達は、パスタを食べにレストランにやってきた。店内は少し混んでいたけど、割とすぐに席につけた。俺達は、カルボナーラを2人前頼み、来るのを待っていた。
「よくここのお店知ってたね。ここのカルボナーラはほんっとうに美味しいんだよ。」
「ああ。これもクラスメイトのおかげでな、ホント助かるよ。」
本当にクラスの人には助かった。
「何か、最初の田中くんと変わったね。」
え?突然なにを?
「それってどういう?」
「そのまんまだよ。」
「そのまんまって?」
「ほら、田中くんさ、最初クラスに馴染めずに、一人でいたじゃん。でも今はさ、みんなと話してる。」
確かに。俺達が付き合いだしてから、色々関わる事ができた。もちろんデートの相談以外も。
「まあでも、当初の予定は、私達のデートでみんなに認めてもらうのが目的だったのに、その目的が全部叶ってるね。」
「まあ、確かにな。でも、みんないい人で、もちろん嫌味とか言って来る人もいたけど、それよりもいい人もいっぱいいたよ。」
「そっか。良かった。田中くんがみんなと仲良くなって。これで安心して学校でイチャイチャできるね。」
「それは...どうなんだろう。」
でも、学校でもずっと彼女の幸せそうな笑顔を見届けられるのなら、それでもいいや。
そうやって話しているうちに、例のカルボナーラが来た。クリーミーな匂いで、盛付けは庶民には大変豪華な見た目をしている。
「うわ〜。美味しそう。いただきます。」
「俺も、いただきます。」
口に入れた瞬間、見た目を数倍超えたクリーミーさが口いっぱいに広がる。それを噛んでほぐすたびに甘さも滲み出てくる。食感もとてももちもちしていて、たまらない一品だ。
「おいひい〜。」
「本当においしいね。」
俺達は、同じ料理を2人で楽しむ。すると、愛菜はこんな提案をする。
「そうだ。もっと美味しくなる方法、思いつきました。」
「提案って?」
「待っててくださいね。ほ..ほらあーん\\」
「え...えええええ。」
いきなりだったが反抗するひまもなく、口に入る。そして、すぐに知る。これは関接キスなんだと。でも、こんな事されるの。幸せだ。
「どう?美味しい?」
「うん美味しい。タダでさえ美味しいのに、このパスタ、どんだけ美味しくなれば気が済むんだよ。」
「ふふ。喜んでくれて良かったです。」
俺は今、幸せだ。
レストランを出た後、俺は最後に、駅前にぽつんとある、観覧車に乗ることにした。一度、彼女と乗ってみたかったからだ。でも密室で二人っきり。緊張する。観覧車は、空いていて、すぐに乗れた。すると今までいた地上はどんどん遠くなっていき、あたりを一望できる様になった。てっぺん近くまで俺達は静かだった。俺はずっと目を輝かせる愛菜をずっと眺めていた。夕暮れの日と、それで光る愛菜の顔。景色なんかよりも、ずっと。きれいなその顔を。しかし、愛菜はそれに気づいたのか、町並みを眺めていたその瞳を、俺の目の前に持ってきた。
「田中くん。ずっと....みてたよね。私の...顔//そんなに変?」
「変じゃないよ。景色よりも、キレイで。これからもずっと近くで見ていたいなって。」
「そんなにずっと近くでみたいの?」
「う...うん...。」
俺がそう言うと、愛菜は、顔を俺の目の前に近づけた。
「あのー....その...恥ずかしいと言うか..近すぎるって言うか...」
「だって、近くで見たいって言ったじゃない。」
「そういう意味で行ったんじゃないんだけど。まあ、これはこれでありなんだけど...恥ずかしくて死ぬんでやめてください。」
「そう。わかったわ。そのかわりに。貴方の初めてを頂くわね。」
そう言って、彼女は俺の口に彼女の唇を押し付けた。いわゆるキス。ほんと、ズルすぎる。恥ずかしいでも、キスは、まだしたい。ずっとしたい。永遠に。俺達は3分くらいキスをしていた。最後に彼女が離れるときに、唾液の糸を引いていたことを、俺は忘れない。刺激が...強すぎた。本当に....彼女はずるい。
観覧車も降り、そろそろデートも終わり。楽しかった時間も、もう終わり。それに俺は孤独感を覚えた。
「今日は楽しかったわ。ありがとう。」
「こちらこそ。今日は楽しかった。」
「でも。なんだかさみしいな。」
「また来ればいいよ。行きたい場所とかあったら、どこへでも連れて行くからさ。」
「ありがとう。」
そうだ。孤独感があったって、別にいいじゃないか。月曜日にだって学校で会えるし、またデートに行けばいい。そうだ、さみしいのは、今だけだ。
「ねえ..最後にさ...一つお願いしてもいい?」
少し照れくさそうに彼女はそういった。
「いいぞ。何個でも。」
「えへへ。田中くんは優しいね。」
「どういたしまして。」
「あのさ...私のこと、愛菜って呼んでくれないかな?」
彼女は、夕暮れの太陽に負けないくらいのまっ顔な顔でそういった。可愛い。
「そのくらいお安い御用。そのかわりに、俺のことも名前で読んでくれ、愛菜。」
いきなり呼び捨てはまずかったか。でも、それを聞いた瞬間、彼女は、美しい瞳から雫かどんどん溢れてくる。お嬢様って言われてるけど、こんなふうに、泣いたり、笑ったりする、普通の女の子なんだと、そう実感できた。
「ありがとう。大好き、陽季♡」
やっぱり刺激が強すぎたか?これ。でも、今の愛菜の顔は、過去一可愛い顔だ。この笑顔は、絶対に失わせない。そう胸に誓った。
「俺も大好きだよ。愛菜。」
「ありがとう。じゃ、また学校でね。じゃあね、陽季。」
そう言って笑顔で走り去って行く愛菜を、俺は、ずっと手を振りながら、見送った。
『じゃあね。愛菜』
俺は心の中で、そう呟いた。
後書き
長いところお疲れさまでした。いかがだったでしょうか。今回は、前回と比較して、少し長めになっています。前回は、少し飽きると思います。過去やらなんやらで。その分今回は会話数を増やしたり楽しめたのでは無いでしょうか。愛菜の観覧車シーン、どうでしたか?個人的には、めちゃくちゃ好きなポイントです。いつかアニメ化して、あのシーンみたいなあ。そんな私の願いを叶えるために、皆様評価と、コメント気軽に受け付けておりますので、評価してくれると、大変励みになります。それでは次話をお楽しみに〜
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