第4話 内緒の逢瀬
俺は鼻歌を歌うガラティアに手を引かれながら、女子たちと女子寮への道を歩いていた。
「すっかりガラティアになつかれちゃったね、
「ほんとね――でも、なついたのはガラティアだけなのかしら」
そりゃどういう意味だ?
「ガラティア以外、誰がなついたって言うのよ」
「みんなさっきはとっても良い笑顔だったし、今も楽しそうよ?
もしかして、
――もちろん、私は楽しいわよ?」
四人の女子が顔を赤く染めていた。
……そう照れられると、俺まで恥ずかしくなるんだが。
ガラティアが振り返り、無邪気な笑顔で告げる。
「それなら、今夜は私の部屋でおしゃべりの続きをしない?
夕食が終わったら、みんなで私の部屋に集まろうよ!」
「あら、いいの? あなたの部屋を使っても。男子を部屋に上げるのよ? 怖くないの?」
ガラティアがきょとんとした顔で
「怖いって、何が?
こいつ、無邪気だなぁ……女子中学生が女子寮の部屋に、高校生男子を上げるって話なんだぞ?
普通は警戒すると思うんだけど。
「それなら、
私たちが夕食の間は、ガラティアの部屋で待っていてください!
――わぁ、まだお話しできるんですね! 楽しみです!」
この子も乗り気なのか……。
「まぁ、女子五人が一緒なら、変なことにはならないでしょうし。
ガラティアの部屋を使うなら、私は構わないわよ」
「決まりね。そこのコンビニに立ち寄りましょう」
これは、断れる空気じゃないなぁ。
まぁそんなに遅い時間にはならねーだろう。
「はいはい、おしゃべりにつきあえばいいんだな」
俺は笑顔の女子たちに囲まれながら、コンビニに食料を買い込みに入っていった。
****
エントランスで彼女たちが次々と
「こうして門限チェックをしてるの。
監視カメラはあるけど、普段はチェックされないから安心して」
「おいおい、そういう秘密は教えるなよ。危ないだろうが」
「あら、
他の男性に簡単に教えるわけ、ないじゃない」
そこまで信頼されると、なんだか照れてくるな。
俺は頭をかきながら告げる。
「それで、俺はどこに行けばいいんだ?」
ガラティアが再び俺の手を引っ張って応える。
「私の部屋はこっちだよ!」
中のエレベーターホールに移動して、エレベーターに六人で乗り込む……女子五人に密室で囲まれると、女子の匂いが鼻にまとわりついてくる。
どこか落ち着かない気持ちでいると、どうやら女子たちも気分は同じようだ。どこかそわそわと落ち着きがない――ガラティアは、ワクワクしているだけのようだけど。
短い密室の旅行が終わり、三階のホールに出る。ガラティアを先頭に無人の廊下を歩きながら、俺は小声でみんなに尋ねる。
「他の子にばったり出くわしたりしないのか?」
「この時間は夕食の時間で、みんな食堂に行ってるんだよ。
その後は共有スペースでみんながおしゃべりして過ごすんだ。
だから、ばったりでくわすことは、まずないと思うよ」
「そうなのか……でも、女子寮なんだし、堂々としてるのも変な気分だな」
「実はね、男子を連れ込む子はそれほど珍しくないの。
もちろん、他の子に迷惑をかけないことが絶対条件だけどね。
これ、内緒よ? 他の学校の人に知られるとまずいから」
「だから、そういうことをペラペラと教えるなって……」
「フフ、秘密を共有すると、なんだか親しくなれた気がしない?」
そこまで信頼されるのは光栄だけど、男として複雑な心境にもなる。
「他の子も出会いに飢えてるのよ。
だからどうにかして見つけた男子と仲良くなって、部屋にこっそり連れ込んじゃうの。
普通は昼間だけど、まれに夜に連れ込む子も居る……その一人に、自分が加わるなんてね」
「なんだか、悪い子になった気がしてドキドキしますね」
背徳感って奴か。確かに、なんだかものすごい悪いことをしてる気分になる。
それを六人で共有してるものだから、奇妙な連帯感まで覚える。
ガラティアが扉の前で立ち止まり、俺に振り返った。
「ここだよ! 私の部屋は!」
そう言って扉に
****
ガラティアは俺をリビングまで連れて行ってから告げる。
「じゃあ私たちは夕食に行くから、ここで待ってて!」
「おう、ゆっくり食べてこい」
「いくら人の目がないからって、女子の部屋をあさっちゃだめだよ?」
「するか! そんなこと!」
俺は苦笑を浮かべて五人を見送った。
改めて部屋を見回すと、実に質素な部屋だ。あまりガラティアらしくない。
据え置きの家具が置いてあるだけで、私物がほとんど置いてないように見える。
あいつのことだから、もっとかわいらしいものが置いてある気もしたんだけど。
……いや、観察するのもよくないな。
俺はため息をついて、袋から握り飯を取り出して食い始めた。
****
花鳥風月の四人とガラティアは、混雑する食堂で少し遅めの夕食をとりながら、思い思いの言葉を口にしていく。
「男子を部屋に上げて放っておくなんて、よくできるね」
ガラティアはきょとんと
「なんで?
「ガラティアは単に無防備なだけでしょうけど、
彼、今まで一度も嘘をついていないのよ? あれだけ言葉を交わしていて、信じられる?」
由香里が驚いて目を見開いた。
「そんな人、居るんですか?!」
「実際に居たのだから、認めるしかないんじゃない?
そりゃあ私の異能を怖がらない訳よね。彼にとって、嘘をつくことが不自然なのよ。
自然体で誠実で居られる人――貴重よね」
「ずいぶんと高評価だけど、まさか本気で狙ってたりするの?」
「どうかしら? とても興味深い男性だとは思ってるけど。
あれだけ好条件の物件、まず見つけるのは困難だと言っておくわ。
この出会いをものにするかどうかは、私たち次第じゃない?」
「これからの六年間、男子と出会う機会なんてほとんどないです。
そんな条件であれほどの人と出会うなんて、これはもう運命と行っても良いかもしれません」
「ちょっとやめてよー! 友達と男子を取り合うとか考えたくないんだけど!」
「取り合いになるかどうかは、まだわからないわよ?
それも含めて、今夜見極めるつもり」
女子たちはわいわいと忌憚のない意見を交わし合い、今夜の予定を立てていった。
****
俺が食後の筋トレをしていると、ガラティアが部屋に戻ってきた。
ガラティアの元気な声が部屋に響く。
「ただいまーって、あれ? 何してるの?
俺は筋トレを中断して身体を起こした。
「ああ、待ってる間暇だから筋トレをしていた。
悪いけどタオルを貸してもらえるか?」
「うん! いいよ!」
ガラティアがタンスから取り出したタオルを受け取り、俺は「サンキュー」と告げて汗を拭き取っていった。
「それで、他の子はどうしたんだ?」
「先にシャワーを浴びてくるって、自分の部屋に帰っていったよ-」
おいおい、風呂上がりの姿で集まる気かよ。
どんだけ俺は信用されてるんだ?
それとも、女子校の女子寮だから警戒心が緩んでるのか?
俺は頭痛を覚えながら、ペットボトルの水を飲み干していった。
ガラティアは黙って俺のそばに座り込み、俺のことを見つめていた。
「なぁガラティア」
「
愛称呼びかよ……ハードル高いな。
俺は気恥ずかしさを咳でごまかし、ティアに告げる。
「じゃあティア、お前はそうやって見てるだけで良いのか? おしゃべりするんじゃなかったのか?」
「それは後で、みんなが来てからにするよ。今はこうしてそばに居るだけで楽しいから、それで充分!」
「不思議な奴だな、お前は」
俺は黙って汗を拭き取りながら、汗が引くのを待っていた。
やがて女子たちがティアの部屋に集まってくる。
「あら、ガラティアと二人きりでも手を出してないのね。感心感心」
「当たり前だろう、何を言ってるんだ、
風呂上がりの女子たちは部屋着に着替えていて、薄着が目の毒だ。
俺はなるだけ彼女たちの服を見ないようにしながら言葉を交わしていく。
「生まれて初めて上がる、女子の部屋の気分はどうでした?」
「どうって言われてもな……男の部屋とは匂いが違うなってぐらいしかわからないよ。
じろじろと見て回るわけにも行かないしな」
「さすが
「なにをだよ……当たり前のことだろうに」
「
俺は頭をかきながら応える。
「あー、待ってる間、暇だから筋トレをしてたんだよ。汗のにおいじゃないか? 汗臭くて悪い」
「くさいなんてとんでもないです。なんだか不思議な香りで、嗅いでるとドキドキしてきます」
おいおい、大丈夫か女子校生。
ティア以外の四人が俺の周囲に集まって匂いを嗅ぎ始めた……俺は珍獣か?
そのうち、俺が首から提げていたタオルを
「わー、これすっごい香りが強い! これが
「……ほんとです。心地よい香りですね」
ふと見ると、
「どうしたんだ
「な、なんでもないったら!」
ティアが明るい声で告げる。
「
「わー馬鹿! そういうこと言うな!」
真っ赤な顔の
……女子校って、大変なんだな。男の匂い一つでこんな騒ぎになるのか。
その後はゆったりとくつろぎながら、ファミレスの会話の続きをしていった。
連絡先も交換しあい、俺は彼女たちと新しいメッセージグループを作った――本当に、ガードが甘くて心配になる。
ふと気がつくと、時計の針が十一時を過ぎていた。
「俺はそろそろ帰るよ」
不満の声を上げる女子をなだめ、俺は立ち上がった。
「私たち、明日は始業式だけで暇なの。今度は
「それは構わないけど……俺は午前中、授業があるぞ? 午後からになるけど、それでいいか?」
「ええ、それでいいわ。それに明日は金曜日だし、せっかくだから泊まりがけで一緒に映画でも見ない?」
「おいおい、女子校の生徒が男の部屋に外泊って、大丈夫なのか?」
優衣がいたずらっ子の笑みで応える。
「外泊届けを出しておけば大丈夫よ。
それに、こうして過ごしていて
泊まりがけでも、きっと
「そりゃまぁ、そんなことはしないけどよ」
なんだか、珍獣扱いが継続してるみたいだ。
「じゃあ下まで送るわ。もう外を出歩いてる子は居ないでしょうけど、一人で居ると通報されるわよ」
「そいつは怖いな。よろしく頼む」
俺は
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