第3話 グループデート
俺はチンピラたちに近づいて声をかける。
「おい、その辺でやめとけよ。いい大人がみっともないぞ」
チンピラたちが俺に振り向き、顔をしかめて威嚇してくる。
「ガキはスッ込んでろ!」
そのガキより幼い中学生をナンパしてた奴らが、何を言ってるんだか。
俺はあきれながら耳をほじって応える。
「今すぐ失せるなら通報はしないでおいてやる。
わかったらとっとと消えろ」
俺の余裕のある態度が気に障ったのか、チンピラたちが殺気立った。
目の前の男が懐に手を入れて何かを取り出し――って、折りたたみナイフ?! 物騒な奴らだな?!
チンピラがナイフを振り回すのを、俺は狭い通路でひょいひょいとかわしていく。
――そんな大振り、当たるわけがないだろうに。
顔を真っ赤にしたチンピラが、ナイフを腰に構えて俺に体当たりを仕掛けてきた。
おっと、これはやべえな。足払いをすればこいつが怪我をするし、前蹴りも異能が暴発したら殺しちまう。
……仕方ないか。
俺はチンピラのナイフを構える両手を掴み、体当たりを受け止めた。
ぽたり、と床に俺の血が滴った。
俺はチンピラを肩で突き飛ばしてナイフを取り上げ、冷静な声で告げる。
「こんなもん、店内で振り回すな。馬鹿どもが」
俺に気圧された様子のチンピラたちが、「チッ、帰るぞ!」と声を上げてぞろぞろと引き上げていった。
俺はため息をついて、ナイフを近くのテーブルに置いた。
「――ふぅ。なんとか帰ってくれたか」
ふと見ると、ツインテールの子が俺の手をじっと見つめていた。
俺は努めて微笑んで、その子に告げる。
「気にするな、俺がヘマをしただけだ。早く友達のところに戻れ」
ツインテールの子は首を横に振って、俺に告げる。
「それ、痛い?」
「……いや、まったく?」
俺は強がりを言った。手のひらが切れて痛くないわけがない。
できれば早く手当てをしたいけど、この子に心配させたくもなかった。
ツインテールの子が俺の手に触れる。
「おいおい、血で汚れるぞ」
――その瞬間、俺の手が温かい光に包まれていた。
痛みが引いていき、あっという間に光と共に痛みが消えた。
ツインテールの子が手を離し、俺は自分の手を確認する――傷が、完全に消えてる。
「なんだよこれ、お前の異能か?」
「……私はガラティア。
そうか、便利な異能もあるもんだな。俺もそんな異能だったらよかったのに。
俺は苦笑を浮かべてツインテールの子――ガラティアに告げる。
「ありがとな、ガラティア」
ガラティアが微笑むのと同時に、遠くで見守っていたのか、三人の女子が駆け寄ってきた。
「大丈夫?! ガラティア!」
「怖くなかった?!」
「ごめんね、すぐに助けに来れなくて!」
三人が同時に声をかけ、ガラティアは返事に困ったのか、ニコリと明るく微笑んだ。
「大丈夫だよ、
……なんで俺の名前を知ってるんだ?
あの
遠くから、その
「どうしたのみんな! ――って、
ガラティアが
「怖い人に絡まれてたところを助けてくれたんだよ」
「なんだか、危ないところを助けてもらったみたいね」
俺は肩をすくめて応える。
「たいした相手じゃない。俺の腕がなまってただけだ。
あの程度の攻撃で怪我をするなんて、親父に知られたらげんこつを頭に喰らってる」
ガラティアが俺に笑顔を向けて告げる。
「ねぇ
「ええ?! なんでだよ、別に今のは俺のお節介だから、気にしなくていいんだぞ?」
ガラティアが首を横に振った。
「私が
うーん、だめかって言われて断る理由、特にないしなぁ。
俺は頭をかきながら応える。
「ダチが二人居るんだが、そいつらが一緒でも良いか?」
ガラティアが笑顔で頷いた。
「うん! 大丈夫だよ!
まぁ、今日会ったばかりのクラスメイトだけどな。
飯を一緒に食って、悪い奴らじゃないのは理解できた。
後ろを振り返ると、大石たちは伝票とコップを持ってこちらに来るところのようだ。
俺はガラティアに手を引かれるままに、彼女たちの席の方に連れられていった。
****
俺と
ガラティアが元気に俺に告げる。
「私はガラティア・ストームブリンガー、中一だよ!」
「俺は
俺の横で男性陣が名乗りを上げる。
「私は
「俺は大石、同じく高一、俺たちはクラスメイトって奴だ」
今度は女性陣が名乗り出る。
「私は
「私は
「あの、私は
「……
最後に渋々、嫌そうに
「あんな大勢のチンピラ相手に、怖くなかったの?」
「あの程度の奴ら、怖がる必要なんかないだろ」
「でもあなた、自分の異能が怖いんじゃなかったの?」
俺の異能のことまで知ってるのか。
「……だから、なるだけ怪我をさせないように対応しただろ?」
「それで自分が怪我をしていたら世話がないわ。
女子の前だからって、格好を付けたの?」
「そんなものは関係がない。対処できると思ったから相手をしただけだ。
困ってる女子を放っておけないのは、当たり前のことだろ?」
「その子の異能は
見栄でも下手な嘘はつかない方が良いぞ」
俺は驚いて
「へぇ、あんた便利な異能を持ってるんだな」
「私のことは『
この異能のことを知って怖がらない人、初めて見たわ」
え? 怖がるってどういうことだ?
俺はきょとんと
「なんで怖がるんだ? 別に誰かに怪我をさせるわけじゃないだろ?」
「人は多かれ少なかれ、嘘をつく生き物よ。
それを見破る私を、みんなが疎ましがるの。
私も嘘の味が大嫌いだし、他人の嘘を許せないわ。
だから私の周りには、仲の良いこの子たちしか近寄ってこないのよ」
「なるほどなぁ、それはちょっと面倒な異能かもしれないな」
嘘をつかれると嫌いな味がするとか、生きづらそうだ。
「ちなみに
屋外なら、あんなチンピラくらい縛り付けられたのだけれど、屋内の弱い照明だとちょっと力不足なの。
半径二メートル以内の音を自在に操れるの。でも怖がりだから、さっきはチンピラに立ち向かえなかったわ。
ガラティアを助けてくれてありがとう」
なるほど、彼女たちもガラティアを助けようとはしてたのか。
俺は
「おい
「私のことをファーストネームで呼ぶな!
それとこの街に来て私を知らないとか、どんだけモグリなのよ?!」
「そんなこと言われても、俺はこの間この街に越してきたばかりだしなぁ。
そんなに有名なのか? お前」
「
頭を射貫かれたら死んじゃうから、怒らせないように注意すると良いわ」
俺は冷や汗をかきながら
「まるで怪獣映画みたいだな……なんでそんな物騒な能力なんだよ」
「ほっといて! あんただって物騒な能力じゃない!」
「それで、
大石が俺の代わりに応える。
「
俺はため息をついて応える。
「異能診断書にはランクだけ書かれていたからなぁ。
判定不能だから、名前も付けられなかったんだろ、多分」
「しかし女子中学生とグループデートか。
高校生活一日目としては、華々しいデビューだな。
「グループデートって……お前のそれは、冗談か本気かわからねーよ」
女子たちに謝ろうと彼女たちを見ると、ガラティア以外の四人が顔を赤くしてうつむいていた。
……ん? なんか反応がうぶだな。
「どうしたんだ? なんでそんなに照れてるんだ?」
「
大方、デートという単語で異性を意識してしまった、というところじゃないか?」
ガラティアが輝かしい笑顔で告げる。
「
ガラティアは無邪気だなぁ。
ますます顔を赤くした四人が黙り込んだので、俺はなるだけ優しい声で告げる。
「四人とも、そんな緊張するなよ。ただの冗談、もっとリラックスしようぜ。
そんなに意識されると、こっちまで緊張しそうだ。
「それはそうなんだけど……」
「
「――
勢いよく顔を上げて
「落ち着け
俺に憧れてたって、どこにだ? 俺の外見は平凡だって自覚ぐらいあるぞ。
「――だから、ファーストネームで呼ばないで!」
「あ、悪い
「憧れの人にファーストネームで呼ばれると、嬉しくてどうしたらいいのかわからなくなるんでしょ?」
頭から湯気を出しながら、
……図星なのか。
俺は頭をかきながら告げる。
「俺のどこに憧れたって言うんだ? 今まで女子にもてた記憶なんてないんだけど」
「そんだけ武術の腕があって、何を言ってるのよ」
「ああ、強さに憧れてたって意味か」
「それにとっても誠実よね。私の異能を恐れないくらいには」
「そんなこと言われても、嘘をつく必要がないしなぁ」
「さっきみたいに危ない場面でも、助けに来てくれる頼りがいがある人だし!」
「いや、だから女子があんな目に遭ってたら、誰だって放っておけないだろうよ」
「でも、実際に助けに入ってくれたのは、
「それはそうなんだけど……みんな、俺を買いかぶりすぎじゃないか?
いくら女子校通いだからって、そんなにチョロいと人生で苦労するぞ?」
ガラティアが無邪気な笑顔で俺に告げる。
「そんなことないよ!
「存在感って……そんなことを言われたのも初めてだな……」
その後も男女で、お互いの趣味や学校の話なんかを交えて過ごした。
彼女たちは始業式が明日で、今日は暇だったらしい。
俺の学校に
女子寮住みの女子校通いで男子との出会いがないと、彼女たちは嘆いていた。
だからって共学の高校に遊びに行くとか、結構冒険心のある子たちなのかな。
それとも、保護されすぎる生活で冒険に飢えてるのか。後者かな、多分。
俺たちとの会話は、彼女たちの好奇心を大いに満足させたようで、終始笑顔で言葉を交わしていた。
日が傾く頃になって
「名残惜しいけど、そろそろ帰らないと」
「そうか、じゃあ女子寮まで送っていく」
「必要ないわよ、私が付いてるのよ?」
「暗くなる時間に女子だけとか、いくら強くてもさせられるかよ。
男がいるだけで変なのが寄ってきづらくなる。俺のことは虫除けぐらいに思っておけ」
「虫除けなら、一人居れば充分だろう。
私と大石はこれで帰るが、構わないか」
俺は頷いて
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