第2話 竜端悠人
女子中学生――
「その変わった動き、その顔……あんたもしかして、
俺はびっくりして
「……なんで、名前を知ってるんだよ」
「あんた、中学生大会の有名人だったのよ。自覚なかったの?」
俺が『あの試合』で引退したとき、こいつは小学六年だったはずだ。それでよく知ってたな。
「多少は顔が知られてるとは思ってたけど、お前みたいな年下に動きまで覚えられてるとは思わなかった」
「なんであんた、公式戦から姿を消したのよ」
俺はため息をついて応える。
「俺を知ってるなら、『あの試合』も知ってるんじゃないのか? それならわかるだろ?
あんな異能を持ってる俺は、もう公式戦に出場できない」
「あんなの、試合中の事故じゃない! 異能を制御できるようになれば大丈夫なはずでしょう?!」
俺は肩をすくめて応える。
「俺は未だに異能を制御できない。それにあの異能はドーピングよりたちが悪い反則技だ。空手連盟からも参加許可は出せないって言われてる。
だからもう、あれ以来武術もやめたんだ」
悔しそうに俺を睨み付け、まだ何かを言いたそうな
先輩は戸惑いながら俺に告げる。
「あの
「仕方ないでしょう、そういう異能持ちなんだから」
この試合で異能は一切使ってない。けど興奮して異能が暴発したら、俺はまた相手に重傷を負わせてしまう。
そんな人間が、武術を続けられるわけがないんだ。
俺は戸惑う大石と、微笑む
****
少し長めの黒髪をした少女――
「お疲れ
黒いショートカットをした、幼い印象の少女――
「あんなに強い人、この街に居たんですね。どんな人なんですか?」
「
組み手をするために都の空手大会に参加してた、大会荒らしよ。
見ての通り、とんでもなく強いの。
でも一年ちょっと前に試合事故を起こしてから、大会では姿を見せなくなったんだけど……高校からこの街に来たのね」
長い黒髪で眼鏡をかけた少女――
「ふーん、詳しいじゃない。さては、
「……そんなんじゃないったら」
「あら、嘘は良くないわ。私に嘘が通用しないのを忘れないで」
ふぅ、と
こんな些細な嘘も、彼女は許容してくれない。
「あの強さに憧れてた、尊敬する格闘家だったわ」
「そう、憧れの先輩と手合わせした感想はどうだった?」
「……やっぱり強いわね。まるで勝てる気がしなかったわ」
仲の良い四人のそばで、ぼんやりと彼女たちの話を聞きながら、
桜色のツインテールと色白の肌をした少女――ガラティアは、
「
その一言に、
「あれ、ガラティアの好みだった? 三歳年上を狙うとか、結構ませてる子なのね」
「私たちくらいの年頃は、同い年より年上に魅力を感じやすい子が多いからね。仕方ないんじゃない?」
「確かに、ちょっとかっこいい人ですね」
「そう? 顔は平凡に見えるけど。
「もうそれはいいじゃない!
そんなことより、ファミレスでお昼でも食べようよ」
賛成して移動を開始する四人が、まだ動かないガラティアに振り返って告げる。
「ガラティア、行くよ!」
振り返ったガラティアが、慌てて四人に追いついて、一緒に武道場から出て行った。
****
俺は武道場から更衣室に消えていく五人の女子を、横目で観察していた。
「どこの学校の制服だ? あの子ら。ずいぶん仲が良さそうだけど」
「あれは
ツインテールの子は知らないが、他の四人は『
Sランクの
大石が驚いて
「お前、ずいぶん詳しいな。
「私は
だが有名人のチェックぐらいはしてある」
俺は思わず
「まさかお前、中学生をナンパしようとか思ってないだろうな?」
「ははは! 私はそういうことはしないさ。よく勘違いされるがね」
「勘違いされるっていうなら、その銀髪サングラスをやめれば良いのに」
「これは地毛だ。染めようとしても、不思議と色が付かなくてね。
瞳の色も他人と違うから、サングラスで隠してるのさ」
そう言ってわずかにサングラスを下ろし、俺たちに見せてくれた瞳の色は、ルビーのような真っ赤な色をしていた。
「……珍しい体質をしてるんだな。からかうようなことを言って悪かった」
サングラスを戻した
悪い奴ではなさそうだけど、だからって中学生の情報をリサーチしてるとか、変な奴だな。
大石が俺たちに告げる。
「俺たちも昼飯を食べに行こうぜ。この近くに学生御用達のファミレスがあるはずだ」
俺たちは頷いて、大石の後に付いていった。
****
開始のコールと共に
開始わずか一秒足らず――そんな刹那で勝負が付き、相手の大柄な選手は場外まで吹き飛び、口から血を流していた。
観客たちが大騒ぎをしたところで、映像は終わっていた。
「それが一年ちょっと前、あいつが中二の時の、夏の大会の映像よ。
相手選手は胸骨を粉砕骨折する重傷、今はプレートを埋め込んで復帰してるらしいけど。
その大会以来、あいつは公式戦から姿を消したのよ」
レモネードを飲みながら映像を見ていた
「なんだか、とんでもない異能じゃないですか? 時を止める異能なんですかね」
「私はその場に居たけど、わずかに残像が見えたわ。
時を止めるんじゃなくて、とんてもないスピードとパワーを出しちゃう異能だと思う。
あいつは再び相手に重傷を与えるのが怖くて、武術をやめてしまったのね」
「こんな異能じゃ、大会出場を拒否されても仕方ないわ。
異能を制御できないんじゃ、武術をやめたのは賢明な判断よ。
話を聞く限り、武術が大好きな人だったでしょうに。つらい決断だったでしょうね」
「優しくて誠実な人なのかな。自分の趣味を諦めてまで、他人に怪我を負わせたくないって思うなんて。
今日の試合ではこんな動きをしてなかったから、いつも異能が暴発するわけじゃないと思うんだけど」
黙って映像を見ていたガラティアも
「やっぱり、かっこいいね」
「この現場にガラティアがいれば、
「ああ、ガラティアの
ガラティアが困ったように微笑んで応える。
「私はこの時期には居なかったから、それは叶わない願いだよ」
その言葉の意味を、その場の四人は理解できなかった。
その場に居なかったのは当たり前じゃないか――そう四人は思った。
ガラティアがふと店内の席に座る
「あ、
「え、私は嫌よ? 気まずいもの」
ガラティアは
「私はちょっとトイレに行ってくるわ」
席を立った
****
俺たちが昼飯を済ませてドリンクバーを飲みながらだべっていると、店内から声が聞こえてきた。
「ちょっと、通してよ!」
ふと見ると、桜色のツインテールの子がチンピラたちに囲まれているようだ。
チンピラの一人が告げる。
「よー嬢ちゃん、俺たちと一緒に遊ばねーか」
俺はあきれながらつぶやく。
「おいおい、中学生をナンパするチンピラかよ」
周りを見ても、助けに入ろうとする人間は居なさそうだ。
「――まったく、さっきの女子仲間はどこ行ったんだろうな!」
俺が立ち上がると、大石が俺に告げる。
「待てよ、十人くらい居るぞ。放っておいても
「だからって放っておけるかよ」
俺は一人で、ツインテールの子のところに向かっていった。
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