第3話 貞操観念逆転世界

 宇宙の外はくうなり。空とはしんくうの世界なり。上へ落ちる機会を経てしきとなる。

 色は膨大な累乗に依りて熱を作り、刹那の内に広がり、新たな宇宙を創る。


 これこそしき世界の開闢。インフレーション宇宙なり。


 賢者モード。あるいは悟りの境地。情緒の安定は穏やかな大海の如く。


 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。


「うふふ……ごちそうさまでした♪」

「け、結構なお点前で……凄く良かったです……」

「またのご利用の際はぜひニーナまで。心を込めてご奉仕を致しますわ♪」

「あっ、はい……」


 文字通り『気』が抜けて、ぐったりと、脱力する俺。

 対してつやっつやに輝きを増して可愛らしさが倍増したニーナ執事長。


「これで交合もできれば言うことなしなのですが……」


「ダメよ」

「ダメです」


「くすん……元とはいえ淫魔族なのに、ごちそうを前にお預けだなんて」


「……あの、これを聞くのもなんだかがっついているみたいで恥ずかしいのですが、なぜ食い気味に否定を? 男はストライクな女性とものだけど」


「それはね、アリスちゃん」


 神妙な顔でボサ金髪三十路眼鏡のアリシア伯爵は、めくるめく五回の発散により椅子にだらしなく座る俺の真向かいにしゃがんだ。

 スカートは未だたくし上げられたまま。パンツも取り払われたまま。

 興奮を収めてしおらしくなった我がムスコを面前に。


「仮性包茎だったのよねぇ、ムケてるのもいいけど、やっぱり皮被りがいいわね♪」

「ちょ。どこを見て、何を言ってるの……」


「アリスちゃんの脱力おちんちん」

「言い方……」


「うん、それで真面目な話なんだけど」

「真面目な話なら俺の真向かいにしゃがんで股間を凝視するの、やめて」


「うんうん♪ キスしたいなー♪」


「全然聞いてないし」

「お任せください、アリスさま」


「ああんっ、アリスちゃんのおちんちんが離れていっちゃうっ!」

「ミミさんに抱えあげられただけだよ……」


「なんでしたら、キスしてあげましょうか、伯爵さま」

「いやぁ……さすがにそっちのキスは……」


「遠慮はいりませんよ? ぶちゅーっと濃厚なベーゼをご所望であれば」


「うわ、ちょ。唇がせまってくるっ! ごめん、謝るから! おとなしくするから!」

「はい、わかりました」


 アリシア伯爵は、副執事長のミミに横抱きにされていた。別名、お姫さま抱っこ。

 伯爵、ミミさんに対して妙に甘いというか、何を言われても怒らないというか。

 彼女たち、どうやら不思議な関係性を保っているようだ。


 にしても、今更なんだけど。


 伯爵って、意外と小柄なんだよね。俺より目線一つ約15センチ低いみたいだ。

 うーん、目算だと伯爵は150センチあるかないかくらいかな。

 三十路らしいけれど、きちんと身なりを整えれば、愛らしい女性になりそう。


「アリスちゃんの貞操観念観では、おそらく、童貞は無価値と捉えているでしょう」

「まあ……一度もを破ったことのない破城槌など信頼に値しませんし」


「面白い例えね。じゃあアリスちゃん視点での処女の例えは?」

「未だ破られず堅牢に守られた城塞のですかね。身の堅さの信頼性を表わします」


「つまりそういうことよ」


「……貞操観念逆転世界、ですか」


「ええ。私たちの世界では、処女に、何の価値も見出さないの」

「ひるがえって童貞は」


「アリスちゃんの世界での『処女』に相当する価値がある。まして貴族ともなれば」


「ああ……そういう。俺の世界観では、確かに昔の貴族令嬢はまず身が清らかであることを求められた。政略結婚ではあれば増して、婚約者への礼儀とする古い考え」


「その考えでいくと貴族令息の方は?」


「バレない程度に遊んでも、たとえどこかで不義の子を作っても権力や金で封殺ですかね。重要なのは処女の令嬢が相手令息の精を得て子を成すことなので」


「ふむ。家の血統上、違う男の血が紛れ込んでは困るというわけね」


「つまりこれが逆転している?」


「そうね。この世界はね、童貞の男の子はまず全女性の至宝なの。なぜって男女比率は公称では『女が5に対して男が1』だから。実際は『女が6』に近いとも言われているけれど。要するに全体数で言えば女は世界に余りまくっている」


「……」


「しかもこれは貴族間での男女比率で、帝国の大半を占める平民の男女比率は……」

「えっ、どういうこと?」


「汚い話を聞かせて心苦しいけど、金と権力のある所に、男は売られていくの。だから平民間の男女比率など『女が9以上、男が1以下』とされているわ」


「……種としての繁栄は、どのようにして保持を?」


「気づいちゃっていると思うけど、その通りよ。もはや崩壊寸前なのよね。なので主に平民たちは、神殿にて女神ドルメシアスの祝福による『精』を与えられる形で、女性の下腹に着床させることでかろうじて子を成している。なお、男性遺伝情報はすべてデータに残されていて、女神の偉大な御力によって精子変換されているの」


「精子データバンク、か。しかもそこまでしても出生の性別に偏りが出る」

「どうやらアリスちゃんがいた世界でも似たようなシステムがあるっぽいわね?」


「……ふと、怖いこと思いついちゃったんだけど」

「ん?」

「もし市井に誰のエスコートもない男が一人、フラリと現れでもしたら……」


「それはもう」

「もう?」


「男の気配を悪魔の如く察知した周囲の全女性が、突如としてパンツを脱ぐわね」

「パンツを脱ぐ!?」


「そして、飢えた獣のように下半身を露出したまま男に突貫していくでしょう。もちろん周囲の女性全員が、よ。老いも若きも関係なく、しゃにむににね」

「うわぁ……」


「残るは口にとても出せない性の惨劇。まず、男の精は吸い尽くされるわ……」


「((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」


 この世界、男に対してやりすぎなくらいハードモード過ぎない!?


 気を取り直して……ちょっと深呼吸しよう。すーはーすーはー。


「そ、それでどうして女性ばかり出生を?」


 と、ここでアリシア伯爵はするりとミミ副執事長の腕から逃れて、俺の座る椅子に半ば強引に尻を突っ込んで座ってきた。一つの椅子に二人が座る形となった。


 ふわり、と香る伯爵の体臭。それは淡い桃の香り。加齢臭は全然しない。


 ……ボサボサ頭のくせして、しかも同じ遺伝子を持っているのに、女性特有の良い匂いがする。これは……股間が変な勘違いをする前にパンツを履き直さねば。


 慌ててパンツ(伯爵のシルクのTバッグ尻に食い込む)をたくし上げ、スカートを降ろす。

 そんな中、伯爵は俺の腕を取って、彼女の細手の腕を絡ませてくる。


「……伯爵?」

「これくらいは許してよね。母と子。私の可愛い息子ちゃんだものー」

「まあ、はい……」


「いい子ねぇ。これからを思うと、少し気が重くなるけど……」

「……?」

「なぜ、この世界は女性出生率が男性のそれを凌駕するのか、だったわね」

「ええ。なぜですか?」


「一説では邪神の魔力によるものと言われている。クンカクンカ。でも、実際のところはよくわからない。スーハー。あるいは、男性より最低でも二倍の魔力を持つ女性そのものが男性の存在性を脅かしている説もある。男の子のいい匂い。……私としては両方とも違う気がするけれどね。あと、私、もしかして一番の幸せ者かも」


「な、なるほど……」


「伯爵さま。シリアスな話をしながらアリスさまの体臭をクンカクンカするのをおやめくださいませ。一応は親子であり、遺伝子上では同一存在なのですよ」

「だってミミー、私の遺伝子をそのまま持った、私の息子なのよ?」


「ええ、ワタクシも先ほどからそのように申し上げておりますれば」

「一度でいいから、アリスちゃんのおちんちんを根元までしゃぶりたいなぁ」


「同一の存在性を自分で認めながら、何をおっしゃっているのですか……」


「資産は帝国でも指折り。伯爵位を持つ貴族。当然、権力もある。でも、私」


「ちっともモテないのですよね」

「そうなのよー! こんな良条件持ちなのに、男っ気ゼロ!!」


「……それは、なぜ?」


「アリスちゃんのいた世界で、特に女性に不評な男性の身体的特徴は何?」


「……えーと、低身長、かな。禿げと肥満は二の次で。禿げはAGA治療をすれば治る可能性が高いし、肥満は節制すれば治る。そもそも過体重は甘えだから」


「なるほど。チビ、ハゲ、デブ、ね。で、特に女性に不評なのがチビとくる」

「男の三重苦とも。稀に、三つの悪条件を持ってしまった男もいるとかいないとか」


「……私の身長ね、148センチなの。いわゆる、チビに相当する身長なのよ」


「この世界でも、長さを表す単位法の一つがセンチであることにまず驚くよ」

「異世界人が持ち込んだ単位法よ。ミリ、センチ、メートル、キロ、ね」


「男女の価値観が逆転している上で、伯爵が矮躯であることでモテないと?」


「うん……この世界では背の低い女はとにかくモテない。昔いた婚約者も何かと理由をつけて逃げちゃった。そういうのが続いて未だ独身で処女なのよ……」


「俺がいた世界では小柄な女の子は大柄な女の子よりモテやすい傾向にあるけど」

「いいなぁその世界。男もたくさんいて、ヤリ放題でしょ?」

「でも俺が思うに、伯爵の場合、何かこう……それ以前に色々とこじらせている気が」


「大当たりです、アリスさま」

「ミミ!?」


「伯爵さまは、実は、年端もいかない男の子が大好きなのでございます」


「それ言っちゃダメなやつー!!」


「こないだなどレミオン子爵家の7歳の令息との婚姻を画策いたしまして」

「ロリコンならぬ、重度のショタコンなのか……」


「だって生まれ持った性癖って治らないんだもん! 私は小さい男の子と仲良くしたい! 男の子の未熟なおちんちんを私のナカに迎えたい! それで妊娠したい!」


「三十を超えた方が『~だもん』とか言わないでください。ドン引きです」


「アリスぅ、ミミがイジメるよぉ」

「ぎゃーっ。どさくさに俺の股間に顔をうずめるなぁっ!!」

「おちんちんちゅっちゅ」

「うおあああっ!? この人、スカートの中に顔を突っ込んでくるぅ!?」


 さすがにこれはない。油断も隙もない。


 副執事長のミミさんと執事長のニーナさんによって伯爵を緊急確保。危うく遺伝子上の同一人物にフ◯ラチオされるのを防いだ。


「あともう少しだったのに、パンツに妨害されて唇に温かみを感じるだけだった」


 伯爵は悔しそうな顔でそのような犯行供述を述べた。お稚児さん趣味もこじらせれば立派な性犯罪者である。本当にどうしようもない人。俺は深くため息を付く。


 でもねぇ、なーんか憎めないのよね……。


「まあ……変態であることさえ目を瞑れば、悪い人ではないとは思うのだけど」

「アリスさま、こういうときは毅然とした態度を取らねばなりません」


「遺伝子上は同一存在と言っても、俺自身は伯爵も一人の女性と見てしまうし、小柄な女性も嫌いではない。何より年上の女性って俺の守備範囲ストライクゾーンなんだよね……」


「あ、アリスちゃん……お母さんってば、嬉しくてお股がもう濡れ濡れよ……?」

「アリスさま。この世界でそれは心が広すぎます。いつか禁忌の行為に至りますよ」


「前世っていうのかな、P国で18歳の成人を迎えても童貞だったら、組織仲間の10歳年上の女性に筆下ろしして貰うとか、そういう約束してたのを思い出したよ」


「筆下ろしとは……?」


「童貞を捨てる隠語だね。まあ、それは良いとして、アリシア伯爵閣下」


「な、なに?」


「異質ではあれど、俺たちは親子関係らしいので性的本番行為は一切拒絶します。ですが、親子としてのボディコミュニケーションなら、許容できなくもないかなと」


「つ、つまり?」


「俺自身の興味も踏まえ、伯爵には膝に座って欲しいわけで。ハグしてあげます」

「アリスさま!?」

「い、いいい……いいの!?」


「その代わり、おっぱいを揉みます。揉みしだきます。最低な行為です。あなたがしたのはつまりそういう行為であると理解してもらいましょうか」


「ウホッ、ご褒美キタコレ」

「アリスさま……」


「こうしないと治まらないでしょ。この世界で希少な男が図らずも転げてきてさ」

「まあ……そうかもしれませんが」


「それに俺、わりとおっぱい星人だからね」

「はあ……」


 俺は小さい子に自分の膝に乗るよう示唆するふうに、ぱんぱんと膝を叩いてみせた。二人のメイドから身柄を解放された伯爵は、恐る恐る俺に乗っかってくる。


 軽い。なんだかんだ、女性って軽いよね。


 俺は伯爵を背後から抱擁してみせた。おおふぅ、と嘆息する彼女。間髪入れず、俺は宣言通り彼女の胸をもみしだく。着痩せでもするのか意外と大きな胸だった。


「あっ、あっ、私……妊娠しちゃいそう」

「いや、しないから」


「ショタは最高だけど、ある程度成長したショタに背後から抱かれるのも至福……」

「親子なので、その辺忘れずに」


「でも私、もう濡れ濡れよ?」

「じゃあ実際に確かめてみようかな」

「えっ、あっ……ああっ、そんなっ、そこに指をっ、アッー!」


 俺はやられたら、やり返すタイプである。

 伯爵のスカートの上から股間辺りを目星をつけて、つうっと、指で線を引く。

 すると。

 伯爵は……ブルッと身を震わせて。

 達してしまったのだった。


「これでしばらくは大人しくなるでしょ」

「アリスさま……恐ろしいお方」

「でも私も同じことして欲しいかもー?」


 俺はウットリと動かなくなった伯爵の頬に口づけして、耳元に囁きかける。


「で、この身体で本来は何をさせたかったのか教えてもらいましょうか」


「あ、うん……実はねぇ……」


 親子関係でお前は何をしてるんじゃ、というツッコミ、現在大募集中。

 だけど、収拾がつかなくなるくらいならいっそ自分から攻めて相手をコントロール下に置くのもアリだと俺は思う。濃厚な女の香りに酔わないよう注意しながら。


 俺は、伯爵の意外と豊満な胸を優しく揉みしだいては、ときおり耳元にふっと息を吹きかけたり頰にキスしたりして彼女のうぶな反応を楽しんでいた。




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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