第2話 (性的に)興奮が止まらない

 ミルクと砂糖マシマシ。甘ったるい自分好みのコーヒーを飲んで一息ついて。


 ……。


 うう……。


 うおああああああっ!! 鎮まれ、俺のタカラモノォォォォ!!?(発狂寸前)


 下着まで女物の衣服に身を包み、得体の知れない興奮にて勃起は治まらず。これが若さなのか、ともあれ変態への道へ踏み出すのだけは御勘弁と股間を押さえる。


 お……落ち着けマイサン!! なんでこんなギンギンに興奮しちゃうのさ!?

 

 ひっひっふー、ひっひっふー。心の中で、なぜかラマーズ法を実践する。


 ボサ金髪の白衣の謎女はニコニコと上機嫌で俺を見つめている。ときおり野獣染みた気配がブワッと発されて(性的に)身の危険を感じるのは気のせいではない。


「伯爵さま、そろそろ……」

「そうだね、ミミ。話を進めていこうか」

「……は、伯爵って?」


「アリスさまの遺伝子の大元となられるお方のことでございます。あるいは考えようには同一人物でもあられるのに、アリスさまへの劣情を隠しもしないボサ金髪白衣の三十路喪女。アリシア・Cチャリスラトウィッジ・ワンダーランド伯爵閣下その人です」


「いや、ミミさ、私への当たりキツくない? だってアリスちゃんってばとっても可愛いのよ。シリンダーの中で眠る私だけの王子さま。未熟でパイパンおちんちんをぷるんぷるんさせて私を誘っている――っていう夢くらい見させてほしいわけ! 美少年をはべらす女の夢をさぁ! と言うか、我、伯爵ぞ? 貴族様ぞ?」


「では、僭越ながら副執事長のワタクシ、ミミ・ウォッチラビットが進行役を」

「スルーされると悲しいなぁ……パイパンおちんちん……」

「ちなみに執事長は、アリスさまにコーヒーをお持ちしたこの方です」

「改めまして、ご紹介に預かりました。ニーナ・ジャバウォッキーと申します」


「……メイド姿なのに執事長と副執事長? なんか、おかしくない?」


「そうでございますか?」 


「一応こう見えて俺、飛び級で大学まで出ているんだよ。P国のK大学って言うんだけどね。学業は大変だった。でもその分知識は詰め込みまくった。最悪で最高の仕事をするためには、あらゆる知識をようしている必要があったから」


「ちなみにその、最悪で最高のお仕事とは……?」


「……機会があったら話すよ。それよりメイドで執事について。伯爵は貧乏なの?」


「いえ、ワンダーランド伯爵家はランスレイト帝国きっての資産家でございます」


「じゃあなんでメイドに執事を兼任させるの。そもそもランスレイト帝国なんて聞いたことないし。……まあ、話を戻して有数の資産家なら使用人とか冗談みたいにいるんでしょ? 厳密にはメイドの区分から外れるけど、女性使用人の最上位は侍女長ハウスキーパーであって、執事系は男性が担当するものではないの?」


「……お聞きになられましたか、伯爵さま。これが貞操観念の違いというものです」


「なるほど!」


「えっ、どういうこと?」


「アリスさま」

「……えっ。ああそっか。俺を呼んだのね」

使、執事長も侍女長も女性が担当するものなのです」


「女性が? えっ、じゃあ、男は?」

「殿方は各世帯によって、または一族によって、大切に匿われておりますね」

「……ごめん、ミミさん。キミの話、さっぱり呑み込めないや」


「お聞きになられましたか、伯爵さま。この反応こそ、貞操観念の違いです。男を他の女どもに盗られぬよう大切に匿う理由がそもそも分かっておられない」


「うんうん!」


 なんだろうね、この違和感。とほうもなく嫌な予感がする……。

 俺は呻きに近いため息を小さくついた。


 と、そのとき。


 ミミと呼ばれたウサ耳の副執事長メイドが、スッと手鏡を俺に差し向けたのだ。当然、誰よりもよく知り足る自分の顔が映る……はずだった。

 瞬間、俺はひゅっと喉を鳴らしていた。

 いや、そうか。聞き流していたが。

 先ほどから伯爵たちは何度も言及していたではないか。


 俺のことを伯爵のクローンだと。本来なら女のはずが男になったと。


 わけのわからないことを言ってるなぁと流していたら、そうじゃなかったわけで。


 鏡に映されたおのれの姿は――金髪ボサ頭のアリシア伯爵を何らかの方法で最低10年ほど若返らせ、更に男に性別変更した紅顔の美少年に変わり果てていた。


 女装しても男の娘として成り立つレベル。というか現在進行形で女装している。


 可愛いなぁ……って、違うでしょ!


 この現実はどう受け止めたらいいのだろう。なぜかよけいに勃起してきて困る。


 ちょっと落ち着いてみようか。できればその……アレをしたいところだけど。アレってナニって? 空気読んでよ、わかるでしょ。抜くの! シコシコだよ!


 まず、自分自身の顔は、鏡の類を使わないと見れない。そもそもおのれの外見がまったく別人なっているなんて普通はあり得ないし考えもつかない。


 しかし現実は……小説より奇なりを地で爆走しているようで。


 つまるところ俺はある種の可能性を見る。


「まさか、異世界転生した……とか?」


 俺は至る過程をすべて飛ばして、結論だけを、独りごちる。

 それに耳ざとく、伯爵と二人のメイドたちは『それな!?』と両手で小さく指さしてきた。彼女らの思いもしない態度に、俺、ビクッとなる。


「お、驚かせないでよ……っ」


「アリスさまが明晰な頭脳をお持ちで大変喜ばしく思います。もう少し詳しく申し上げれば、アリスさまは『ワンダーランド伯爵家の跡取り娘として創り上げられた、アリシア閣下のクローン体に生まれ変わった転生者』にございます。。ともあれ、ワタクシが持ち寄る情報では『そう』としか言えない事情がございまして」


「娘なのに股間にアレが生えてるけど……」


「クローン体に一週間前より突如股間におちんちんとタマタマが生えてきて娘が息子となり、伯爵はの鑑賞のため業務を滞らせ困っておりました」


「だってだって、つるつるの包茎おちんちん可愛いでしょ! 私、ドキドキよ!?」


「お断りしますが、伯爵の発言は変態そのものです。一般的なものでは……いえ、この世界の事情を鑑みれば……うーん。しかしてアリスさまにわかりやすく例えるなら少女のツルマン最高と叫んでいるのと同等の発言であるのはご理解いただけるかと」


「アッハイ」


「そして、これまでのアリスさまとの会話で確信に変わった事柄がございます」


「これ以上の驚きがあるの!?」


「アリスさまが以前生きておられた世界は、私たちの世界の貞操観念とは別物。曰く、貞操観念逆転世界より転生なされたと、ワタクシは見ております」


「……」

「アリスさま?」

「……いや、さすがに理解が追いつかない」

「さもありましょう」

「つまり、その、この世界は俺視点では男が女で、女が男であると?」


「エクセレント。十分ご理解なさっているようですね。はい、アリスさまの貞操観念感では、この世界の男女観はまさにその通り。この世界は女性主権社会で、社会の重責を負うのは女性ばかり。男性はそんな女性に護られて生きているのです」


「おおぅ……」


「というのも純粋な腕力では確かに男性のほうが強かれど、魔力強化をした女性には足元にも及ばず――ちなみに魔力強化はごく自然な行為でございます。基礎体力においても肉体的には男性のほうが優位でも、魔力強化をかけると圧倒的に……」


「女性のほうが強い」


「はい。その通りでございます」


「なぜそのような力の差が?」


「体内に巡る魔力の質と量が少なくとも倍ほど違うためです。まさか誰が染色体に魔力器官を担わせると考えるでしょうか。女神ドルメシアスの深遠なる思惑に我々は圧巻されるばかりです。女性の染色体はXX、男性の染色体はXY。この、X染色体の『数』が、生命体の情報を内包しつつも魔力を発生させる器官部となっています。練り上げられる魔力器官が単体と複数では、質も量も大きな差を生むのは当然のこと」


「そもそも、なんで染色体なんだろうね?」


「さて、ワタクシどもとしてはそれはそういうものという認識でございますれば」


「こんな世界に男の俺が転生するって意味なくない? 精々が変態の目の保養くらいだし。俺はその女神の召喚のためにわざわざ殺されたと理解するけれど」


「アリスちゃん、酷い」


「伯爵さま、ちょっと黙っててください」


「くすん」


「どうやら色々と世界観の理解を深めたほうが良さそうです。……まず、あなたさまを転生させたのは女神ドルメシアスではないと推察されます」


「理由は?」


「それは、実はこの世界は邪神の軍勢から侵略を受けているのです。奴らは北の極地から攻め込んできました。途中、大小の国家を滅ぼしながら。そう、現在この世界は戦時下にあります。女神ドルメシアスは邪神どもの侵略を駆逐せんと最前線に立ち、戦ってくださいました。また人類も指を咥えて見ているはずもなく剣を手に取りました。そうして100年が過ぎ――10年前のこと、偉大なる女神ドルメシアスはインリガシィセン、もしくはイム=リガル=イセンと呼ばれる邪神との戦いで刺し違える形で戦いを小康状態へと軌道修正し、受けた傷を癒すため深い眠りに入ったのでございます」


「要はインナントカという邪神との戦いで女神さまは休眠を必要とする傷を負った。それは10年前の出来事で、俺の転生なんかを仕込む余裕などないと?」


「はい。と同時に我々もあなたさまの転生に関わってはおりません。そのお身体はそもそも伯爵さまのクローン体で、跡継ぎ娘として皇室と神殿より許可を頂いて創っていただけでございますれば。あなたさまのために用意したボディではないのです」


「突然、娘が息子になってしまったのは想定外だったと」


「お察しの如くでございます」


「要は誰か知らない大きな存在が、俺を殺し、転生させた……?」


「可能性として、それが一番求める回答に近いかと愚考いたします」


「女性が男性をはるかに上回る力を持つ世界に、俺を転生させる意味とは……?」


「それなんですが」


「うん?」


「調べによると、アリスさまの染色体は女性を表わすXXのままでございます」


「……!?」


「稀なる変事が起きたようでございます。というのもアリスさまの染色体はXXでありながら、そこに書き込まれた情報自体は男性情報であったためです」


「そんなのありえるの? それ、何らかの重大な不具合を孕んではいないかな?」


「基本的に、XX染色体が本来の役目として活性化するのはどちらか片方だけでございます。アリスさまの場合、不活性化した片方のX染色体にY染色体が転座した形となりましょうか。そうしてY染色体情報を内包したX染色体は再び活性化を始めた。生命活動的にハード面での問題は特になく、また、Y染色体情報を転座したX染色体のソフト面もまた、特に問題は表れないでしょう」


「男として問題ないと」


「医学上、Y染色体がなくとも男性体であれば生殖能力に問題はございません」


「そっか……よかった、とするべきかな」


「ときに、アリスさまの股間の御一物、異装にて興奮されているご様子ですが……」


「……!?」


「申し訳ありませんが、ワタクシども使用人は仕えるご主人様方の機微を察して動くのが仕事でございます。あなたさまは転生者であり異世界の感性を色濃くお持ちですが、それでもワンダーランド伯爵家の跡取りであることに変わりはありません」


「う、うん」


「さて、アリスさま。ワタクシどもからすれば些少な事柄でも大変難儀なさることもあるはずです。特に、今などは。さればこそ楽になっていただきたく」


「いや、いいよ! ナニされるか怖いし!」


「ニーナ執事長。アリスさまの御一物をお鎮めになられませんか?」


「あら、譲ってくれるの? うふふ……じゃあ楽しませてもらうわ」


「存分にハンドでもオーラルでも」


「あっ、ズルい! 私もしたい!」


「伯爵さまはアリスさまと遺伝子上の同一人物ではないですか……」


「えー、私も可愛い息子のムスコをイタズラしたいよお。チュパチュパでも可!」


「そういうところでございますよ?」


「ぶーぶー!」


「齢三十を超えてその反応はいささか大人の女性としてどうかと……」


「ぶー!」


「あの、俺の意見は……」


「そんな可愛らしく御一物を勃起しておきながら何をおっしゃいます。ぜひ、鎮めてもらってください。ちなみにニーナ執事長は元淫魔族でございますれば、性技に関してはナニも心配ございません。賢者モード後にでも、もう少しお話を続けましょう。……では、ニーナ執事長、よろしくお願いいたします」


「思わぬ役得……♪ 久しぶりに活きの良い精子をたっぷりゴックンできそう♪」


「私のアリスちゃん……」


「あ、あの、ホント……大丈夫ですから!」


「アリスさまは私のこと、お嫌いですか?」


「そんな、ドストライクですよ!」


「嬉しい! 男の子にこんな情熱的な告白受けたの、生まれて初めてですよっ。さあさあ参りましょう。大切に気持ちよくなりましょうね? うふふ……」


「え、あ、ちょ……!?」


 ニーナ執事長は、バサッと一対の黒翼を広げた。のちに知る、力翼であった。

 それは、むしろ淫魔と呼ぶよりは魔性の天使のようで。

 彼女は圧倒される俺に慈愛の笑みを向け、俺のスカートの中に手を入れて……。


 手で、お口で、存分に。

 まさか人の前でされるとは思いもせず。

 詳しくは書かないが、勢いで五回、俺の興奮を鎮めてもらった。


 ……。


 ……いや、俺。


 ナニしてるのさ! メイドさんに手◯キとフ◯ラチオしてもらうとか!


 ホント、俺、なんのためにここに転生してきたわけ!?




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る