4.何時の世も職業の事前調査は大切
──その日は、俺にとって一生忘れられないものになった。
「【バトルドレス+77】装備しました」
「foooooo!!!!!!!!!」
「こいつ……」
「いやぁゴーストはいい子で助かるな。マジで娘さんを下さい」
「絶ッッ対ダメだから。見るな近寄るな手ぇ出そうとするなケダモノ」
「誰が手を出すか。見ているだけで充分」
「見んなっつってんのよ」
──◇──
【第0階層 城下町アドレ】
雑貨屋【すずらん】
──ライズの仮部屋(【すずらん】倉庫)
「さて、これからの方針を立てたわけだが、まずお前が何のジョブを選ぶかを決める」
この世界がゲームである事を知っているのは俺たちだけだが、基本システムのほとんどは【冒険者】達の知見で解析されている。単純に施行回数が多い分、ジョブなどの細かい部分は既に良く調べられている。
「という訳でゴースト。ジョブの解説を頼めるか?」
「consent:マスターが選ぶジョブは第1職です。そこからレベル20で第2職、レベル50で第3職に昇格することができます」
激カワ超美麗メイドゴーストによるデータ情報も合わせると、かなり確実な情報となるだろう。
事前に情報を得ていることがメリットなら、最前線までの距離がデメリットだ。最速最短で攻略するには適切なスキル選びが必要。
……この世界がゲームだとわかった今なら良くわかるが、このジョブ選びにはそこそこな数のハズレがある。間違いは許されない。
「俺の【スイッチヒッター】とゴーストの【リベンジャー】はどちらも第1職【ローグ】から派生したものだ」
「設定したのはあたしだから。わかってるわよ」
「うむ。で、お前が何をするかだが」
「そうね……ゴースト。第1職はどのくらいあるの?」
「answer:第1職は7種あります」
──────
【ウォリアー】
【ローグ】
【レンジャー】
【マジシャン】
【ヒーラー】
【サモナー】
【クリエイター】
──────
【ウォリアー】
「剣・斧・槍等の近接武器による攻撃、盾による防御を専門とするジョブです」
「前線で戦うジョブでも、俺たち【ローグ】とは違って後続を守ることもできる。【ローグ】はどいつも防御に長けては無いからな」
「第2職は片手武器と盾を選んだ防御重視の【ナイト】、両手武器を使う攻撃重視の【ソルジャー】等があります」
「んー……あたしがコレやると三人して役割が被るわよね」
「まぁな。俺は武器ならなんでもできるから中距離遠距離でもできるが、それを踏まえても近接すぎるな」
「answer:そもそもマスターの運動神経では難しいかと」
「まぁそうだけどさ……ハッキリ言うわね」
ゴースト意外とメアリーに厳しい。いや事実を言ってるだけなのかもしれんけども。
無表情なだけでお茶目なのか。可愛いぞ。
──◇──
【ローグ】
「短剣・片手剣を扱う近接戦闘ジョブです。状態異常や高速攻撃などが特徴です。
第2職は弓など遠距離にも攻撃ができる【ハンター】、短剣で相手を翻弄する【トリックスター】等があります」
「俺達のジョブでわかると思うが、かなり選択肢の多いジョブだ。あとやたら動く」
「運動音痴のマスターでは到底できません」
「そうだけども。まぁ実際全員【ローグ】は無しよね」
「いや、【ローグ】に関しては派生が多すぎるからダブっても案外役割が分かれて上手くいくケースもある。
とはいえ俺達には不要だな。俺が優秀だから」
「アンタ結構自信あるタイプよね」
「実際優秀なんだよ俺は。【スイッチヒッター】はめちゃくちゃ便利なんだぞ。しかも同業が少ない希少ジョブだ」
「使われない理由があるんじゃないの?」
「まぁあるが。そこは追々な」
──◇──
【レンジャー】
「銃・弓を扱う遠距離ジョブです。第2職は片手銃を扱う【ガンスリンガー】、両手銃を扱う【スナイパー】、弓を扱う【アーチャー】に分けられます」
「片手銃はどっちかというと近中距離だがな。できれば遠距離の【スナイパー】【アーチャー】が欲しいところだ」
「いいわね。結構本命なんじゃない?」
「チームアップでの役割は遠距離からの火力支援だぞ。大人しくチャンスを待って一撃を叩き込むタイプ。できるのか?」
「なんかアンタあたしの事甘くみてない? スーパーハッカーなんですけど?」
「そういうところだぞ甘くみえるのは」
──◇──
【マジシャン】
「魔法攻撃を操るジョブです。魔道書などでスキルを追加して得られます。
第2職は魔法攻撃のみに特化した【ウィッチ】、魔法と片手剣を使う【魔法剣士】、デバフ魔法に特化した【エンチャンター】に分かれます」
「魔法少女マジカル☆メアリーちゃんだな」
「喧嘩売ってんのか」
「世界征服を目論む悪徳と謀欲の魔法少女、マジカル☆メアリーちゃんですね」
「必殺技は脳味噌を炸裂させるマジカル☆シャットダウン」
「決め台詞は『貴方の心に不正アクセス』です」
「なんでそんなに物騒なのよマジカル☆メアリー」
──◇──
【ヒーラー】
「回復魔法を中心とした支援スキルが活躍するジョブです。第2職は聖属性魔法を習得した【シスター】、前線で戦闘が可能になった【バトルシスター】になります」
「これはムリだな」
「なんでよ」
「お前に回復を任せたくない」
「あたしの評価低くない?」
「いや世界征服とか目論む奴の回復とか怖すぎる」
「言いたい放題ね」
──◇──
【サモナー】
「魔物と契約し召喚するジョブです。
魔物を乗り物として扱う場合は【ライダー】に、武器や仲間として扱う場合は【テイマー】になります」
「これなら自分は戦わずに済むかもしれないぞ」
「あー、ペットはちょっとねぇ」
「answer:マスターはコミュ障なのでペットすら飼えません」
「ゴーストさっきから酷くない? あたし親だよ?」
「名付け親はライズです」
……名前、欲しかったんだな。
──◇──
【クリエイター】
「アイテム生成や武器の修復などが可能になります。
アイテムや武器を作る【鍛治師】、壁や簡易拠点を作る【建築士】に分岐します」
「随分と変わったジョブね」
「ショップが要らないのは本当に便利だ。俺とかは武器をめちゃくちゃ使うからな。サブジョブに入れてる」
「サブジョブ?」
「第3職解放時に解禁される二つ目のジョブスロットです。第2職までですが、二つ目のジョブを所得できます」
「知らなかったみたいだな。ゴーストのサブジョブも考えておかないとな」
「二つ使えるってイメージが無かったからスルーしてたわ……ごめんねゴースト。好きなジョブにしていいわよ」
「ちなみに【鍛治師】と【ライダー】が最人気サブジョブだ。俺も鍛治師」
「answer:【鍛治師】にします」
「はやすぎんのよ。ライズに懐きすぎよ」
──◇──
「で、どうするか決めたか?」
「ん。マジシャンやるわ」
「マジカル☆メアリー……」
「潰すぞ」
ナニを潰すのでしょうか。怖いですね。
兎角。決めたなら行動だ。
「じゃあ設定しに行くぞ。王宮に職業管理人がいるから。
その後は【祝福の花束】に加入して……やる事はいっぱいあるからな」
「忙しないわね」
いざ行動と思うと、やる事がどんどん出てくる。どれからやるか考える時が一番楽しいのかもな。
俺があれこれ考えている間に、メアリーはどこから見つけて来たのか紫蓮の装飾が美しい大杖を持っていた。
「ねぇ、この大きな杖貰っていい? 強そう」
女の子が第一に「強そう」とはいかなるものか。
しかしそれはちょっとなぁ、と言おうとしたが、この女俺の返事を待たずしてインベントリに入れおった。
「貰ってくわよ」
「無理やりだな。………………まぁいいか。
それは俺の持ってる杖の中でも最高傑作だ。大切に使えよ」
「最高傑作ってアンタ、杖使わないでしょ。
メイド服と同じ理由?」
「いや、それは本当は別の奴にやる予定でな……」
「ふーん。……女?」
「女。だが、まぁアイツは俺の贈り物は受け取らないだろうからなぁ。だからいいぞ」
「……その人、黒髪美人?」
「何でわかった」
「アンタ、その人にあのメイド服をプレゼントしようとして拒否されなかった?」
「エスパーかよ」
「馬鹿じゃないのあんた」
なんでわかるんだ。女の勘か?
──◇──
決まった以上は行動あるのみ。
【すずらん】の裏口へ三人で向かうと、何やらそろばんと睨めっこしてるベルに声を掛けられた。
本当に声だけ。こっちを一切見ずに。
「出かけるの?」
「おう。悪いが少し遅くなる」
「勝手にしたら」
「また後で詳しく話す」
「ん」
「じゃ、行ってくる」
簡素な会話。ベルも俺もコミュ強ってわけじゃないから、このくらいが丁度いい。
「まて。そこの小娘2匹。少し話がある」
「え、あたし達に?」
声を掛けておきながら、視線すら向けないベル。
女同士の話なら俺はいらないか?と思ったが、俺に構わずベルは話す。
「【スイッチヒッター】の総数が少ない理由」
「はい?」
キョトン顔のメアリー。
俺にはもうどういう話になるかわかったが、まぁわかりにくい踏み込み方だな。
「ジョブ解放の条件が、【全ての第2職の解放】だから。
そこにいる
そう。このジョブ、長所短所多かれど最大の問題はその解放難度。
第2職を解放したら別のジョブ……を繰り返して、というのは手間がかかる。最前線からの情報が届く昨今、【冒険者】は自分の目指すジョブにまっしぐらなのでこんな迂回はしないのである。
「新しいエリアに辿り着けば、隅々まで探索せずにはいられない。
その街の全ての店で全てのアイテムを買うまで街から出ない。
そういう妖怪よ、そいつは。
ついた通り名が【探索中毒】【妖怪底舐め男】【倉庫番】」
うーわ、みたいな顔でメアリーに見られている。
いやん恥ずかしい。
「そいつはそういうイカレた奴って事。
何企んでんのか知ったこっちゃないけど、上手く使えると思わない事ね」
そう吐き捨てて、「ほら行け」と言わんばかりに片手で追い払われる。
……ベルなりに、俺かメアリー達を心配してくれてるんだな。そう思おう。
──◇──
【アドレ王宮1F】
城下町から続く唯一の羽橋の先、そびえ立つ王宮。
本殿へと繋がる大門は開門されていないが、俺たちの目的はその側の稽古場だ。
どのジョブを選ぶにも、各拠点階層にある稽古場を使う。
アドレの兵士達はどいつもこいつも鎧甲冑で顔まで覆われているが、コピペではなく対格差や声の差もわかる。
NPCと言えど一つの生命。調さんの超技術と優しさが読み取れるな。
「よく来たであるな。今日は何用で」
「第1職登録がしたい」
「ふむ。第1職の者はいつでも私に申し出れば転職ができるぞ。
して、どの第1職を希望するか」
「あ、えーと、マジシャンをお願いするわ」
「うむ。では必要事項の確認と基本事項の確認のためにこちらに来るのである」
「俺たちは外で待ってるから行ってこい」
「えぇー……一人?」
「何でこいつこんなキョドッてんだ」
「answer:マスターはコミュ障ですので」
うーむ親近感。
イケイケギャルみたいな見た目して陰キャハッカーとはいい属性だ。
だがこの世は無常。兵士に連行されるメアリーの背中は小さかった……。
──◇──
さて、申請中にやる事も少ない。
ゴーストと一緒に城内を散歩する事に。
「ライズ」
「何だ?」
ゴーストに袖を摘まれて呼び止められる。
なんだその可愛い止め方。心に火が点いちゃうぞ。
「【城下町アドレ】の冒険者を検索しましたが、貴方に並ぶ高レベルの冒険者は数名しか見つかりませんでした」
「そりゃこの階層にも【飢餓の爪傭兵団】傘下のギルドはあるからな。俺レベルの奴もいる」
「Yes:そのライズに並ぶレベルの冒険者は全て【飢餓の爪傭兵団】【真紅道】及びその傘下ギルドの冒険者です」
「それがどうかしたか?」
「question:ライズは何故この階層にいるのですか」
ドストレート。
そりゃそうか。後進の育成を企てるトップランカーのギルドに属さない俺が何者なのか。気になるところだろうな。
「私との【決闘】の時、ライズは【決闘】には負けられないという旨の発言をしました」
──────
「悪いが……【決闘】となると負ける訳にはいかないんだよ。覚悟しな」
──────
言ったな。
いや言ってるな俺。思い出すと少し恥ずかしいな。
「question:【決闘】に負け、ここまで戻ってきたのではないですか?」
「そうだよ」
「あっさり認めるのですね」
「事実だからな……俺は79階層まで攻略したんだがな。
当時の仲間と【決闘】して、負けた」
「では、ライズの目的は」
「まぁリベンジになるな。だが、それだけじゃない」
「そうですか?」
「あの頃……一緒に階層攻略した仲間がいたんだ。
三人で結構色々やってさ。それが、あの【決闘】で終わった。
俺は階層を戻り、勝ったアイツは未だに先に進み、あと一人は未だにあの階層に居座ってる」
青春と、後悔の記憶。
なんかなぁなぁで復帰する事になったが、俺の根底にはこれがある。
原動力も、抑止力も、全てあの日の【決闘】に囚われている。
「何度か立ち直って階層攻略しようとしたんだが……どうにも、一人じゃ何もできなくなった。
仲間がいないと何もしたくなくなった。
挙句、新しい仲間を見つけても……あの頃と比べちまって、すぐ解散だ」
「question:では、何故マスターに協力を」
「……誘われんのは良くある事だったが。流石にゲームマスターからお願いされたのは初めてだ。
流石に重い腰を上げるってもんだ。ある程度してメアリーが独り立ちできたら、お役御免で降りるかもしれんな」
「そうですか」
納得したのか何なのか。ゴーストは表情一つ変えずに頷き、黙る。
なんとも言えない空気だ。居た堪れなくなり、先に口火を切る。
「……さて、ゴーストは第2職はどうする?」
「answer:ウォーリアー第2職【ナイト】かヒーラー第2職【シスター】のどちらかにします」
2択。だがどちらも防御的だ。超攻撃的ジョブ【リベンジャー】に合うだろうか。
「データから判断すると、どちらも【リベンジャー】との相性は悪いです」
「そうだな。じゃあ何で」
「answer:マスターを守りたいのです」
「……」
「……question:許されないでしょうか」
「いや、そこまでじゃないだろ」
サブジョブ自体は変更可能。メインジョブの方向性さえ間違えなければ取り返しがつく。
だが、今考えているのは別の事。ゴーストという個人の存在についてだ。
「感情を搭載して頂き、私は最良の判断ができなくなってしまいました。
私はただのデータ。最善最良を選択しなくてはならないのです」
相変わらず無表情だが、迷い、悲しみ、葛藤?
ゴーストの感情がなんとなくわかる。
そう。ゴーストにも感情はある。
「俺だってデータだろ。この【Blueearth】では」
存在が全て電子データになっているこの世界で、ゴーストと俺の違いはなんだ?
いや、街のNPCも、敵エネミーでさえ、俺達と変わらない存在だ。
生きている。この世界では。
「電子データに分解されている以上は、俺とお前に何の違いも無いはずだ。
むしろこの世界じゃお前のが高次生命体なんじゃないか?
「それは──」
言葉に詰まるゴースト。
うん。やっぱ生きてるよゴースト。すげぇな【Blueearth】。
しかしもう限界。気恥ずかしいのでこの話題は切り上げる。
「選ぶならシスターにしとけ。
エンチャントと回復魔法でメアリーをサポートしてやれるし、魔力が上がるから魔法攻撃のリベンジブラストも上手く扱えるぞ」
「──system:感情制御を解除します」
「ん?」
「ライズ」
「ふぐっ。何事」
背後から、ゴーストに抱きしめられた。
ゴーストに。抱きしめられた。
え? 俺死ぬの?
「私を人として見てくれてありがとう。
マスターも大事だけど……
私は貴方のことも、同じくらい──」
耳元でゴーストが囁く。
これはダメだ。
燻らせていた炎が燃え上がる。
いかん。我慢しろ俺。
ギルドで恋愛は地雷だぞ……!
「何やってんのよ」
メアリー襲来。
ぱっと離れるゴースト。
心臓がうるさすぎて振り返れん。ゴーストの顔見れん。
「邪魔しおってガキンチョ」
「ンだとコラ変態!離れろ!ゴーストの近くにいるの禁止!」
べしべしと的確に脛を蹴られる。痛い。
助かったぞメアリー。絶対に口には出さないが。
──◇──
「──system:感情制御on。
最優先事項更新。
私はあなた達の為に在ります」
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