第26話 公都到着とモンケンの思い出
暗殺者以外、公都までは特に問題は無かった。人間と亜人の混成軍であるが、途中途中の砦ではドローテが問題ないと一言言えば、あとは誰も異論をはさむことは無かったのだ。
公都の門に到着すると、出入りを確認する兵士たちは見慣れぬ乗り物に乗ったドローテのところに走ってきた。
彼女は助手席に座っており、ハンドルはマクシミリアンが握っている。
「ドローテ様、これは?」
「アンシュッツ子爵領で手に入れた乗り物だ。馬の要らぬ馬車と思ってくれればよい。便利だろう?」
そう説明されると、兵士たちは興味深そうにエルフを眺める。が、すぐに職務を思い出した。
「この軍はどうしたことでしょうか。見ればアンシュッツ子爵の旗と獣人たちが混ざっておりますが」
「親父の仇を討つための軍だ。彼らは協力者だ」
「しかし、いかに貴族とはいえ他の領地の軍を武装したまま迎え入れることは。公爵様からも連絡を受けておりません。ましてや、武装した獣人など」
兵士は入場を渋る。
その態度にドローテは怒り出した。
「貴様!私が公爵より先代の仇を討てという命令を受けていることを知らぬのか!」
「申し訳ございません」
兵士はドローテの怒気におそれをなし、混成軍の入場を認めた。
先頭で、エルフに乗ったまま門を通過するマクシミリアンとドローテ。ドローテがマクシミリアンに道順を指示する。
「このまま大通りをまっすぐ進め」
「わかりました。しかし、このまま城内に入ってすんなりいきそうですね。公都の入り口でも、特に足止めされなかったし」
前方を見ながらマクシミリアンはドローテにそう言った。ここまで特に障害がなかったことで、簡単にいきそうだという思いがあった。
「姉貴次第だな。おそらくは私がアンシュッツ子爵かクレフに殺されたと思っているのだろうが、無事に帰還したとなれば策が失敗したと気づくであろう。そして、帰還した軍は子爵軍と亜人も加わっているとなれば、どうなったかくらい簡単にわかるはずだ」
ドローテはマクシミリアンほど楽観はしていなかった。
そして、その考えは正しい。
ドローテが城門に来た時に、兵士の一人がその帰還を報告するために、ゲルタの元に走っていたのだ。
それは、別に暗殺の指示が出ているというのを知っていたからというわけではなく、単に公爵家の人間が帰還したのを報告するためという、ごくごく一般的なことであった。
ゲルタもその報告を何食わぬ顔で受けた。が、すぐに城内を守備する兵士たちに、ドローテが反乱を企てているということを告げる。
「ドローテは亜人と組んで公爵の地位を狙って反乱を起こした。謀反人の首を討ち取れ」
ゲルタはそう指示を出したが、兵士たちはドローテの実力を知っており、彼女と戦うことには及び腰だった。
そしてドローテが城に到着する。エルフが停車すると、彼女は助手席から降りて、荷台に上がった。
「抵抗せず武器を置けば殺しはしない。が、武器を置かぬ者には容赦はせぬ!」
そう声高らかに宣言する。
ドローテを見た兵士たちは、ただ遠巻きに立っているだけであった。
マクシミリアンはやはり簡単にゲルタのところにたどりつくことが出来るのではないかと思った。しかし、そう簡単にはいかない。
全身を覆う金属鎧に、大きな盾を持った一団がやって来た。
ドローテはそれを見て
「重騎士か」
と忌々しそうに言う。
マクシミリアンは初めて聞く言葉だった。
「重騎士?」
「動きを犠牲にして防御力に特化した騎士だ。あれに道をふさがせているうちに逃げるのかもしれんな」
それを聞いたケンが重騎士に銃を向けると、躊躇なく引き金を引いた。
重騎士の盾は7.62x39mm弾を防ぐ。が、重騎士もその殺傷能力を理解し、盾に隠れて身動きが取れなくなった。
「マクシミリアン、俺たちはここで足止めしておく。先に行け」
「わかった。予備の銃と弾丸、それに鉄パイプ爆弾を置いていくね」
マクシミリアンは貸し倉庫からそれらを出庫するため、妖精を呼び出した。
出てきた妖精は興奮していた。
「機動隊のジュラルミンの盾なら、簡単に貫通出来たのにね」
「.22LR弾でも貫通したんだっけ?」
「いや、あれは弾頭の鉛を鋳つぶして、バックショットに作り直したやつだったはずだよ。そうだ、それで思い出したんだけど、モンケンを調達しようか?」
「いや、操縦できないからいいよ。っていうか、ここは軽井沢じゃないから。急ぐからその話はまたあとでね」
マクシミリアンはしゃべり足りなさそうにする妖精を見て、後ろ髪を引かれる思いであったが、今はそれどころではないので、出庫を促した。
足元に自動小銃、弾倉、弾丸、鉄パイプ爆弾とライターが出現する。
「ここに置いておくから。あんまり撃ち続けると、銃が壊れるからね」
「わかった」
ケンたちが重騎士の動きを封じているうちに、マクシミリアンとドローテ、ジルとアッシュがゲルタのところを目指す。他の兵士たちは城内の兵士を拘束することに従事していた。
そして、マクシミリアンたちは城内でゲルタが居そうなところを探して回るのだった。
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