第24話 お迎え

 マクシミリアンはドローテとの話し合いが終わったので、避難している集落の非戦闘員を迎えに行くことにした。

 ケンが自分たちが行ってくると言ったが、アッシュとの約束もあるので、マクシミリアンは自分も行くと言う。


「子供たちに迎えに行くって約束をしたからね。僕が行かないと不安になるだろうし」

「まあ、そうだな」


 マクシミリアンとケンの会話を聞いて、ドローテが質問をする。


「子供というのは誰の子だ?」

「獣人の孤児たちだよ。誰の子供なのかはわからない」

「なるほど。その口ぶりだと随分と懐かれているのだな」

「血のつながった家族以上に家族だと思っていますよ」


 マクシミリアンの答えを聞いて、ドローテはどこか嬉しそうにした。

 彼女は戦闘での協力以外にも、普段の生活からの信頼関係というのが確認出来たことが嬉しかったのだ。人間に追い詰められてやむにやまれぬ共闘というわけではなく、普段から信頼関係を築いているのであれば、今後の融和政策にも期待が持てるというものである。

 ましてや、子供たちともなれば次世代を担うものであるので、未来に向けて明るい兆しがあるということなのだ。

 マクシミリアンはケンとジルと一緒に合流ポイントに向かった。ここは予め決めてあった場所である。一日経ってもここに来なかった場合は、さらに遠くに逃げるように伝えてあった。

 マクシミリアンたちのエルフが近づくと、アッシュが気が付いた。


「迎えに来た!」


 荷台から飛び降りてマクシミリアンたちほうへと走り寄ってくる。パメラたちもそのあとに続いた。

 トラックの前に走り寄ってくるアッシュたちを見て、マクシミリアンは注意した。


「危ないからエルフの前に向かって走ってこない。前にも言ったよね」

「だって」


 アッシュはマクシミリアンを見つけた嬉しさから、注意されていたことを忘れてしまったのだった。

 それに対して言い訳をしようとするが、マクシミリアンはそれを聞かない。


「だってじゃないよ。鉄の塊にぶつかったら怪我するからね」


 シュンとなったアッシュを見て、ジルが間に入る。


「まあまあ。子供たちも嬉しかったんじゃよ。その気持ちは汲んでやらんとの」

「まあそうなんだけど」


 マクシミリアンもその気持ちはわかるので、それ以上は言わないようにした。


「さあ、集落に帰るぞ」


 ケンは他の者たちにそう伝える。


「どうだったんだい?」


 ケンの妻が彼に結果を問う。


「それが勝ち負けというわけじゃなく、一緒に公爵を倒しに行くことになったんだ」


 ケンの説明に、待っていた一同がぽかんとなる。


「実は、ワータイガーが公爵を襲った裏には、人間の暗躍があったんだ。今の公爵が親を殺すのに、ワータイガーを使ったらしい。で、話し合いをしようという考えの妹を捕らえているから、それを救い出して新しい公爵にしようって話だ」


 ケンの追加の説明を聞いて、アッシュはマクシミリアンを見た。


「本当なの?」

「うん。これから公爵領まで行くことになった」

「じゃあ、俺もついていく」

「駄目だ。危険だぞ」

「じゃあ、俺にも銃をくれよ」


 アッシュは強い決意を秘めた目でマクシミリアンにお願いした。

 だが、マクシミリアンはその願いを聞き入れない。


「駄目」

「なんで」

「子供に銃を持たせたい親がどこにいるんだ。こんなもの、子供たちが親になる時代には無くなっていればいいんだよ。それを子供に持たせるなんてしない」

「もう子供じゃない。待っている間に獣に変身できるようになったんだ。俺が子供じゃなくて、力があれば戦うことが出来るんだ」


 獣人が大人になるというのは年齢ではなく、獣に変身できるようになったかどうかで決まる。なので、大人になる時期には、ばらつきがあるのだ。

 マクシミリアンを待っている間、アッシュは自分が虎に変身できるようになっていることに気づいたのだった。


「拒否する理由がなくなったようじゃな」


 ジルは笑った。


「いくつになっても子供は子供だよ。たとえ10年後だったとしても、僕はアッシュに戦うことはさせたくないよ」

「親はみんなそんなもんじゃよ」

「ジルは知ったようなことを言うけど、子供がいるの?」

「おるぞ。ま、腕を磨くと言って修行の旅に出たがのう」


 ジルが子持ちであるという事実を初めて知ったマクシミリアンであった。その話を詳しく聞きたかったが、今はそれどころではなかった。


「わかったよ。アッシュ、集落に戻ったら銃の扱いを教える。だけど、パメラが大人になるまでには銃が必要ないようにするから」

「そんなの神様だって無理だよ」


 亜人と人間の戦いの歴史はアッシュも知っていた。だから、マクシミリアンの言うことは無理だと思った。


「神様なんてなにひとつこちらを助けてくれはしないよ。祈る時間なんて無駄だから、その時間を考えることに充てた方がいい。神様もマルクスも僕たちを救ってくれはしないんだからね」

「マルクスがなんだか知らないけど、マーが神様もマルクスも嫌いなのは伝わってきた」

「あ、うん。そういうことで、一旦集落に帰る。40秒で支度しな」

「短いよ」


 不満を口にするアッシュであったが、マクシミリアンと一緒に公都に行けることで、胸が期待に高鳴っていた。

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