第20話 不意打ち
ドローテは敵の理解できない事態をなんとか把握ようとしていた。
最初の爆発と、逃走する馬と同じ速度の乗り物。
それと火を噴く鉄の筒。どうもその筒からは何らかの塊が射出されているようで、自分の近くを通過していったことが感覚として伝わってきた。
視線を後ろに向けて、部下たちの状況を確認したいが、今は正面から視線を逸らすだけの余裕がない。射出されたものが、自分を狙って外れたのか、それとも意図的に外しているのかがわからないのだ。
(亜人どもがこんなマジックアイテムを手に入れていたとはな)
心の中で舌打ちをする。
ドローテもこれがマジックアイテムによるものだと考えたのだ。今までの人生経験では、これがマクシミリアンのスキルによって調達された、現代の地球のものであるとは想像がつかないのだ。
マクシミリアンの運転するエルフは集落にたどり着いた。そして獣人たちに合流する。
「ここまでは作戦どおりだね」
マクシミリアンはエルフから降車して、ケンにそう話しかけた。
「ここからが一番難しい。なにせ相手はあの剣神ドローテだろう。一斉射撃で撃ち殺すのだって難しいのに、それを生け捕りにするっていうんだから」
「まあね。でも、やるしかないんだから。このまま永遠に戦い続けるなんてまっぴらごめんだよ」
「それはそうだな」
ケンも何度もこうした戦いを出来るとは思っていなかった。なので、今回で終わりにしたかったのである。そんな会話をしているうちに、ついにドローテが集落の目の前まで到達した。
ドローテと子爵が集落の目前までくると、ケンは二人の乗っている馬を狙うように指示を出した。
「最後の仕上げだ。二人の馬を撃て!」
その指示を受けて射撃が行われ、二人の騎乗する馬も弾丸に倒れる。
だが、剣神と剣聖のギフトをもつ二人は、倒れる馬から飛び降りて無傷であった。
ドローテが剣を抜いて亜人たちを睨みつける。
「どうやってその不思議な鉄の筒を手に入れたか知らんが、既にその攻撃は見切っている。無駄な抵抗は止めて大人しく斬られろ!」
どうやっても受け入れられない要求を突きつけるドローテ。当然マクシミリアンたちは受け入れない。
「そちらこそ、武器を捨てて降伏してください。弾丸を斬る自信があるのでしょうけど、こちらは鋼すら破壊する武器です。持っている剣が粉々に砕け散りますよ」
「そこまで言うなら試してみるか!」
ドローテはマクシミリアンを挑発した。そして自分に向けられた銃口全てに注意を払う。
ジルがこっそりと耳打ちする。
「どうするんじゃ?実際に撃ち込んでわからせるしかなさそうじゃが」
「万が一にも相手が回避をミスれば死ぬから、それは出来ないよ」
マクシミリアンはドローテとアンシュッツ子爵を孤立させて、銃で脅せば降伏すると思っていた。
しかし、ドローテは脅しには屈しなかった。
彼女は本当に弾丸を見切って、飛来するそれを斬る自信があったのだ。それこそが剣神のギフト持ちである。
じりじりと時間が経過していく中、思わぬところで事態が動いた。
「ぐっ」
突然ドローテが苦悶の表情を浮かべる。
マクシミリアンたち集落の方向からは何が起こったのかわからなかった。しかし、アンシュッツ子爵からは良く見えた。
というか、アンシュッツ子爵が持っていた剣でドローテの鎧の隙間から、脇腹付近を刺したのだ。そして、ドローテの筋肉で押さえられて抜けなくなった剣を手離すと、サブウェポンとして持っていたナイフで彼女の剣を持っている右腕を刺した。
「子爵、これはどういうことだ」
ドローテは怒りの表情でアンシュッツ子爵の方に振り返る。
「貴女に手柄を立てられては困るのですよ」
と言いながら、アンシュッツ子爵はドローテを蹴飛ばした。そして、彼女の落とした剣を拾う。
これこそが、クレフが子爵のもとを訪れた理由であった。ドワーフの討伐失敗による、アンシュッツ子爵家への罰を下さない代わりに、ドローテを暗殺せよというものであった。
子爵はクレフの提案をどう実行しようか悩んでいたが、捨てた息子が最高の舞台を用意してくれるとは思ってもいなかった。子爵はこれを神に感謝した。
「期待外れの息子だと思っていたが、思わぬところで役に立ってくれたな。そこのドワーフを差し出せば、今までのことを全て許して跡継ぎとして認めてやろう」
子爵の言葉にマクシミリアンの怒りは爆発した。ドローテに向けていた銃口を、今度は子爵に向ける。
「父上、あなたは何をしているのですか!」
「ルードルフとローラントの失敗を雪ぐには、アンシュッツ家で手柄を立てねばならぬのだ。それには障害は取り除かねばならんだろう」
子爵はそう言うと、倒れているドローテに剣を突き立てようとする。
マクシミリアンはそれを阻止するために引き金を引いた。
「ぐふっ」
弾丸は鎧の胸の箇所を突き抜け子爵の体内へと入る。
胸を撃ち抜かれた子爵の口からうめき声があがる。剣神であるドローテであれば弾丸の軌跡を見極められたのだが、剣聖でしかない子爵では、飛んでくる弾丸に対処できなかった。
子爵は撃たれた胸のあたりを鎧の上から押さえながら、恨めしそうにマクシミリアンを見た。
「父である私を撃てるとはな。やはり、あの時情けなどかけずに殺しておくべきだったな」
そう言って前のめりに倒れた。そして動かなくなる。
マクシミリアンは父親を撃ち殺したことで、色々な感情が込み上げてきて固まる。それを見たケンがマクシミリアンの肩に手を置く。
「大丈夫か?」
「あ、うん」
その言葉で若干落ち着きを取り戻す。
「ドローテ嬢を手当てしよう。生きているかな?」
一同は恐る恐る、銃口を向けながら倒れているドローテに近寄った。
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