第19話 孤立
いよいよ集落に連合軍が近づいてきた。先頭を行くのはドローテとアンシュッツ子爵である。ギフトがあるので先陣を切るのがこの二人の戦い方であり、今回もそのような布陣になっている。
というのをマクシミリアンとジルはわなを仕掛けた場所付近に立ち、手に持った双眼鏡の中にその姿を捉えていた。
「先頭にいるのは父と、ドローテ様かな。見た記憶がある」
「公爵の次女じゃな。随分と大物が出張ってきよったの」
「好都合じゃないかな」
「生き残れればじゃがな」
マクシミリアンは父親の戦い方はわかっていたが、偶然にもドローテも先頭にいたことは、人質作戦にとっては僥倖であった。
マクシミリアンはジルの顔をみて笑う。
「おっぱじめようか」
「そうじゃの」
そう言うと、マクシミリアンはエルフを倉庫から取り出すと、運転席へと乗り込みエンジンをかける。一方ジルはポリタンクの栓に繋がった紐を手に取った。そして、荷台の上に立つと大声で連合軍を挑発する。
「人間ども、お前らが狙っとるドワーフはここにおるぞ!」
その姿を見たドローテは一気に目つきが変わった。
「自ら出てくるとは愚かな。行くぞ!」
本来ならばどうみてもわなであるため部下がとめるところであるが、剣神であるドローテに対してはどんなわなだろうが通用しないことがわかっているので、誰一人としてドローテを止めるものはいなかった。
ドローテは馬を走らせると、騎兵がそれに続く。アンシュッツ子爵も当然一緒である。
敵が気づいたことを確認したジルは、マクシミリアンに合図をした。
「かかったぞい」
「落ちないようにね」
「うむ」
合図を受けてマクシミリアンはエルフを発進させた。ジルが手に持っている紐がピンとはったかと思うと、次の瞬間にポリタンクの栓が抜ける。
「栓も抜けたわい」
「よし、じゃあ少し離れたところに誘導しようか」
マクシミリアンはハンドルを切って、敵の追ってくるルートをわなから少しずらすようにする。
今回はなるべく死傷者を出さないようにするつもりだった。人質作戦ではあるが、その後の交渉を考えて相手の被害も抑えようというわけである。
追い付かれず、かといって離れすぎない速度でエルフを走らせる。
ドローテはその奇妙な乗り物がなんであるかわからなかった。アンシュッツ子爵に問いたかったが、全速力で走らせている馬上での会話を諦めた。
そして、乗り物の正体がわからないのはアンシュッツ子爵も一緒であった。
(なんだあれは?マクシミリアンめ、あのような乗り物を作れるスキルのギフトであったとは。それにしても、わながあってもよさそうなものだが)
と考える。
子爵も当然わなを警戒していた。考えられるのは待ち伏せか落とし穴である。しかし、見通しを遮るような樹木や高い草はなく、落とし穴にしても既にマクシミリアンたちがいたところを通過している。ならば、その可能性も薄いかと考えた。
その矢先である。ついにポリタンク爆弾が爆発した。見た目の派手さを演出するために、ナパームも置いて巨大な爆炎を発生させた。
(魔法か!)
ドローテは馬上から音の方を振り向く。
爆弾を知らないドローテは魔法だと考えた。
訓練された軍馬であっても、初めて経験する爆発音に驚き、多くの騎兵は暴れる馬からふるい落とされた。流石にドローテとアンシュッツ子爵の馬はそうではなかったが、既にマクシミリアンとジルを追いかけている騎兵は十を切っていた。
後からついてくる歩兵たちも、爆炎をみて足がすくみその場にとどまってしまう。
ジルの目にもその様子が見えた。
「狙い通りじゃ。おおよそ十まで減ったわい」
運転席のマクシミリアンに話しかける。
「よし。じゃあ、合図を」
「わかった」
ジルは荷台に置いてある銃を手に取り、空に向かって引き金を引いた。フルオートで弾倉が空になるまで撃つ。
集落にいるケンたちは、その合図を確認する。
「フルオートってことは、先頭が要人でそれ以外を狙えってことか」
これは事前に打ち合わせしていたことである。アンシュッツ子爵は先頭にいるであろうと思っていた。セミオートであればアンシュッツ子爵だけが先頭。フルオートなら子爵と公爵軍の指揮官または要人が先頭という区分である。それ以外は何もせずに逃げてくるというものであった。
獣人たちは狙撃銃を手にしてスコープをのぞき込む。そこにドローテが映った。
「深紅の鎧ってことは先頭はドローテ・シュタイアーか。合図通りだな」
コンは狙いをつけながらそう言う。
「後ろの馬を狙えよ」
ケンが最後の注意を促す。
集落に残っている狙撃班は、騎兵の馬を潰すのが狙いだ。ドローテと子爵を孤立させるためだ。
「わかってるって。的がでかいから鳥よりも楽だぜ」
狙撃は時間があるので、散々やってきた。今では全員が飛ぶ鳥ですら狙撃できる程度に上達している。
「撃て!」
ケンの指示で一斉に引き金を引く。
弾丸はエルフ、それにドローテと子爵のわきを抜けて、後続の馬を射抜いた。騎兵たちは落馬し、怪我を負って動けなくなる。
こうしてドローテと子爵のみがマクシミリアンとジルを追うこととなった。
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