第18話 ポリタンク
マクシミリアンは避難時の物資を調達するため妖精を呼び出す。いつものように妖精はご機嫌であった。
「待っていたよ」
「嬉しそうだね」
「そりゃそうだよ。君が人質作戦を決断するなんて、いよいよ革命家らしくなってきたなと思ってさ。立派に育ってくれて嬉しいよ」
妖精がご機嫌な理由はマクシミリアンの作戦にあった。人質をとって為政者と交渉するというのが、実に革命家っぽいと喜んでいたのだ。
マクシミリアンはため息をつく。
「お互いに多くの血を流し過ぎたからね。今や交渉チャンネルは一つもない。まともな手段じゃ会話もできないからね」
「そのようだね。何千年と種族どうしでぶつかってきたから、もはや会話なんかできる状態じゃない。ジェノサイドが一番可能性のある解決方法になっているよ。だからといって、それを勧めるわけじゃないからね。帝国主義打倒が目標なんだから」
「わかっているよ。反米反日なんでしょ」
マクシミリアンのそのセリフに妖精の機嫌は斜めになった。
「わかってないよ。反米愛国路線だ」
「愛国って右翼っぽくない?」
「いいや、そんなことないね。自国に対する愛国心が無ければ他国の人間を理解することなんて出来ないよ。それをわからない者は社会帝国主義者だ。スターリン的だよ。いや、君の場合はノンセクトラジカルか」
「ごめん、用語がわからない」
マクシミリアンは知らない単語がぽんぽん出てくるので、説明を求めた。すると、妖精は残念な表情になる。
「まあそのなんだ、詳しくはインターネットで調べてくれたらいい」
「ここじゃネットに繋がらないけどね」
「うん…………」
話が本来の目的からそれているので、マクシミリアンはそれを元に戻す。
「食料とテント、それにトラックの燃料を調達してほしい。戦闘に加わらない人たちには避難してもらうから」
「そうだね。ベトナム戦争じゃないんだから総力戦ってわけでもないしね」
「子供にまで爆弾を抱えさせて戦うような未来は回避したいよ。ただ、ここで失敗すればそうなるかもしれないけど。公爵を殺してしまったんじゃ、人間側も簡単には拳をしまえないからね」
「うまくいくように祈っているよ」
「ありがとう」
マクシミリアンが物資を受け取ると妖精は消えた。それを確認したマクシミリアンは、今後は路線の話はやめようと思ったのだった。
そして、物資をトラックの荷台にみんなで積み込み始める。アッシュ、パメラ、ミーチャ、ジーナの四人もワーフォックスの女性や子供たちと一緒に避難することになった。
四人はそれが不満であった。
以前よりは心の壁も低くはなったが、それは無くなったわけではない。ならば、危険であっても集落に残りたかった。ましてや、マクシミリアンやジルが命を落とした場合、さらに肩身の狭い思いをするのが見えていた。ならば、ここで運命を共にする方が良いと思ったのだ。
「マー、僕たちもここに残るよ」
「駄目だ」
アッシュが四人を代表してそう言ったが、マクシミリアンは認めない。
「どうして」
「子供を危険に晒したい親がどこにいるんだ。必ず迎えに行くから、みんなと一時的に避難しているんだ」
「でも――――」
なおも食い下がるアッシュの肩にジルが手を置いた。
「あんまり困らせるもんじゃない。今から迎え撃つための準備をせにゃあならん。準備が遅れれば、そのぶんだけ危険になるんじゃぞ」
そう言われると、アッシュは引き下がるしかないと思った。後ろを振り返れば三人が不満そうな目で見ている。
しかし、彼らを説得するのが年長者である自分の仕事だと思った。
「わかったよ。その代わり絶対に迎えに来て」
「アッシュ――――」
三人が抗議の声をあげるが、アッシュはそれを制した。
マクシミリアンは笑顔をむける。
「約束するよ。それで、今夜はカレーにしようか」
「絶対だからね」
「大丈夫だよ」
アッシュはマクシミリアンと約束すると、三人と共にトラックの荷台に乗り込む。準備のできたトラックは次々と連合軍とは反対の方向へと走っていく。運転については大人の女性にも練習させており、今では皆普通に運転できるようになっていた。
ただし、未舗装路のため速度は出せない。
さらには、護衛としてワーフォックスの成人男性が三人ほど、トラックに分乗して同行している。集落に残るのはワーフォックス七人とマクシミリアンにジル、ワータイガーの五人となる。
トラックを見送る時間も惜しく、マクシミリアンは罠づくりへと取り掛かる。
罠はポリタンクを使った爆弾である。ポリタンクの中に電極を入れ、純水で満たした後上部に木の板ともう一方の電極、起爆装置を設置する。そして、ポリタンクの下部に穴をあけて水を抜くと、最後は電極同士が接触して通電するというものだ。
水抜き穴の大きさと、内部の純水の量で爆発時間をコントロールすることが出来る、一種の時限爆弾なのである。
というものなのだが、ジルはそれを興味深そうに見ていた。
「なんじゃそれは?」
「起爆装置だよ。爆発時間をコントロールできるから、これを使って爆発で敵を分断するつもりだ。水抜き穴の栓を抜く危険な作業をやらなきゃならないけどね」
敵の接近する時間を計算して、栓を抜いたら全力で走って逃げるつもりだった。エルフを使ってマクシミリアンがやるつもりである。
仕組みを聞いたジルは一緒にやろうと言い出した。
「わしも一緒にやるかのう」
「駄目だよ。万が一敵に捕まったらっていうのがあるから、一人でやるから」
「いや、敵の狙いはわしじゃ。なら、わしが居れば敵も足の速い騎兵がまずは追ってくるじゃろう。そうばれば歩兵と分断できる」
「それもそうか」
マクシミリアンはジルの説明に納得し、それを受け入れた。
「よし、出来た。あとは設置しに行くだけだ。他のみんなにはここで待機してもらおうか」
こうして迎撃する準備は整った。
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