第7話 自己批判
小屋の外でマクシミリアンは爆弾を作っていた。鉄パイプを適度な長さに切り、旋盤でその外周に溝を彫っていく。旋盤は手回し式のものが調達出来た。なにせ、会社の創立が古いので、大昔にそうした物を仕入れた実績があったのだ。最新式のNC旋盤を調達しても、電気が無いので動かせないだろうという判断から、そうした古い工作機械を調達したのだ。
鍛冶の合間の休憩で外に出てきたジルが、その姿を見て訊ねる。
「何をしとるんじゃ?」
「爆弾を作っているんだ」
「爆弾?」
聞きなれない言葉に、ジルはマクシミリアンに説明を求めた。
「爆発して相手を殺傷する兵器のことだよ。この前みたいにジャイアントボアが出現したら、僕がいなくても倒せるように、道具を用意しておこうと思ってね。室内でやらないのは、これが爆発したら危ないからだよ」
「ここで爆発しても、お主は死ぬじゃろう」
「みんなを巻き込まなくて済むってことだよ」
そう会話をしている間にも、マクシミリアンは鉄パイプ爆弾を一個完成させた。
「ちょうどいいから、威力を見せてあげるよ」
そういうと、調達してあったライターを手に取り、導火線に火をつけて遠くへ放り投げた。暫くすると大きな爆発音がして、爆弾があった場所で土煙が上がる。
「ほら、こんな感じ」
「こりゃあたまげたわい。いや、その手に持った道具から火が出たのも驚きじゃが」
爆弾の威力もさることながら、ジルの目にはライターが奇異にうつる。マクシミリアンが魔法を使う様子もなく、いきなり火を作り出したのだ。そんなこと、見たことも聞いたことも無かった。
「これはね、ライターっていう異国の道具なんだ。スイッチを押すことで簡単に火が付くんだ」
マクシミリアンはそういうと、再びライターに火をつけてみせた。
「わしにも出来るかの?」
「難しくは無いですよ」
マクシミリアンはライターの使い方をジルに説明した。ジルはおっかなびっくり、教えられたとおりにライターを使ってみる。
「ぬおっ!」
炎が出た時、ジルは驚いてライターを投げ捨てた。当然ながら炎は消えてしまう。
マクシミリアンは笑いながらライターを拾い上げた。
「驚くのもわかるけど、そのうち慣れるよ。これは記念に差し上げます」
「すまんな。火起こしが楽になるのはわかった。後はわしが慣れればいいだけじゃな」
「だね」
ジルはライターを懐にしまい込む。そして、爆弾のことを思い出した。
「そうじゃ、ライターについてはわかったが、あの爆発はなんじゃ?あれも魔法じゃないというのか?」
「あれも魔法じゃないんだよね。塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウム、それに硝酸を主薬として作った爆薬、つまり爆発する薬なんだよ。それを火を使って起爆させたらああなるんだ」
マクシミリアンは妖精から調達した書籍で、爆弾の製造方法を学んで実践したのだ。しかし、その説明をジルは理解できなかった。ただ、魔法を使わなくても高威力の爆発物が作れるということだけの理解にとどまった。
なお、他にもピクリン酸を使った爆弾にも挑戦中である。
「あれが魔法じゃないというのなら、魔法使いはみなお払い箱じゃな。くそ生意気なエルフに見せてやりたいわい」
「エルフもいるの?」
「何を言っとるんじゃ」
「いや、今まで生きてきた中で、エルフの話なんて聞かなかったから」
「そうか。まあ、奴らも人間は嫌いじゃから、人前にはなかなか姿を見せんからのう」
ドワーフがいればエルフもいる。ここはそういう世界なのである。
「で、やっぱりエルフとドワーフは仲が悪いの?」
「やっぱりがどういうことかはわからんが、仲は悪い。わしらドワーフは鉄と共に生きるが、奴らは鉄を忌避しとるからの。ドワーフの国の歌にもある。火に根を下ろし、鉄と共に生きよう。鉱脈を掘って冬を越え、鉱石と共に春を迎えようってな。そんなわしらドワーフと、鉄を触ることすら嫌うエルフが仲良くは出来んわい」
「なんかちょっと引っ掛かるけど、そういうことなんだね」
マクシミリアンはこの世界にエルフがいることと、エルフがドワーフと仲が悪いことを知った。そして、出来ればエルフにもあってみたいと思ったのだった。勿論、ジルにはそんなことは言えないが。
「しかし、見た限りでは魔の森の奥に住む魔獣を倒すには威力が足りんかもな」
「さっきの爆発でも倒せないの?」
「グリフォンやフェンリルならいけるかもしれんが、ドラゴンのうろこを傷つけるのは容易ではないぞい」
「グリフォン、フェンリル、ドラゴンもいるの!?」
マクシミリアンはファンタジーなモンスターの名前に興奮した。屋敷にいるときは、魔の森には狂暴な魔物が住んでいるとしか教えられなかった。しかしそれも無理はない。人の力では太刀打ちできないので、近寄らないようにしていたから、その生態系はわかっていないのだ。
「まあ、いるじゃろうって話じゃな。わしも自分の国にいた時に聞いただけで、自分で見たわけじゃないがの。見て生き延びられることもまずまずないじゃろうし」
「なるほどねえ。でも、そうした連中には爆弾だと相性が悪いかな。素早く動かれて爆発の範囲外に逃げられたら意味が無い」
「じゃな」
「とすると、銃か」
「銃?」
「クロスボウみたいなものだよ」
マクシミリアンは口で説明するよりも、見せたほうが早いかと貸し倉庫から自動小銃を取り出す。
ソ連で開発され、某国でコピー生産されたものだ。
鉄と木で出来たその銃に、ジルの目はくぎ付けとなった。
「どこがクロスボウじゃ。弓の弦などついとらんじゃないか」
「こいつは弦の戻る力を使って飛ばすのとは違うからね」
そういうと、マクシミリアンはストックを肩に当てて、引き金を引いた。
バンッ
発射音が周囲に響き、弾丸の当たった木の枝が落ちた。ジルは驚いて大声でマクシミリアンに詰め寄った。
「うおっ、なんじゃ今のは?」
「鉄の塊が撃ち出されたんだよ。爆弾と似たような原理でね」
「こいつもわしにくれんか?」
「構わないけど、暴発には気を付けてね」
マクシミリアンから銃を手渡されたジルは、子供のように大はしゃぎで観察し始める。そんなジルを見ながら、マクシミリアンは追加で自動小銃を調達することにした。
スキルで妖精を呼び出すと、妖精は笑顔だった。
「オルグに成功したかい」
「オルグって何?」
またも妖精が知らない言葉を言うので、マクシミリアンは訊ねた。
「組織拡充のために仲間を増やす行為だよ。大切な彼女をあのドワーフに渡してまで仲間にしようとしたんでしょ」
「彼女?渡したのは銃だけど」
「彼女っていうのは銃の隠語だよ。常識だからね」
「どこの常識かわからないけど、常識なんだね」
「そうだよ。時々学生寮に業者を装ってデカがやってくるけど、そうした連中に聞かれてもいいように、彼女って呼んでいるんだ」
「いや、常識なんだったら、相手も当然わかっているよね」
マクシミリアンのつっこみに、妖精はあからさまに不機嫌になった。
「で、何の用?」
そっけなく訊ねられる。マクシミリアンは面倒くさいやつだなと内心思ったが、それは相手に筒抜けとなることを忘れていた。
「今面倒くさいやつだって思ったでしょ」
「あ、うん。そう言えば以心伝心、頭で思ったことが伝わるんだったね」
「そうだよ。僕に対してそういう感情を持っていると知ってしまったからには、このままでは一緒に革命を戦い抜くことは出来ない。自己批判してくれないか?」
マクシミリアンはなぜ自分が自己批判しなければならないのかと思ったが、この先調達が出来なくなるのは困るので、妖精に自己批判することを伝えた。
「妖精さんを不快にしたことを自己批判します」
「よろしい」
妖精は満足すると、マクシミリアンが欲しかった銃を手渡した。
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