第6話 会社の真実

 ジャイアントボアの襲来を受けて、マクシミリアンは武器が必要だと痛感していた。

 なので、武器になるようなものが調達できないか、工場の妖精を呼び出して訊いてみた。


「何か野生動物と戦うための武器は無いかな?」

「鉄パイプなんかどうかな?野生動物と戦うだけじゃなく、警察みたいな暴力装置との殲滅戦でも有効だよ」


 妖精の返答に、マクシミリアンは「おや?」っという感情が沸いた。どうして暴力装置という言葉に違和感しか感じなかった。

 暴力装置というのは警察や自衛隊をさす言葉であるが、あまり一般的ではない。そして、なぜ今このタイミングでそんな言葉が出てきたのか不思議だった。


「暴力装置はさておき、鉄パイプでジャイアントボアと戦うのは怖いね。僕はそんなに身体能力が高くないから、遠距離で攻撃できる弓矢みたいなのがあると嬉しいんだけど」

「じゃあ、鉄パイプ爆弾ならどうかな」

「鉄パイプ爆弾!」


 鉄パイプまで聞いたときはまた同じかよと思ったが、今度はその後ろに爆弾という言葉が付いた。


「鉄パイプ爆弾なんて、どうやって調達出来るんだよ」


 マクシミリアンの声が大きくなる。


「『腹腹時計』と『薔薇の詩』が調達できる。それを読めば爆弾づくりに必要な知識が得られるし、材料も普通に調達できる」

「『腹腹時計』と『薔薇の詩』?」

「『腹腹時計』は時限爆弾の作り方が書いてあって、『薔薇の詩』は爆薬の作り方が書いてある。他にも『球根栽培法』も調達できるけど。こっちは火炎瓶ね」

「なんでそんなものが、工場で調達できるんだよ」

「君は自分が勤めていた会社のことを何も知らないんだね。あの会社は創業社長が革命闘争のために作った会社なんだよ。さかのぼる事1971年、創業社長の実兄が群馬県の新左翼の山岳ベースに合流するために、群馬県山田郡植木野村にあるシンパの実家を訪ねたんだ。中央大学の同級生であると嘘をついて、一晩泊めてもらうことにした。だけど、その時法学部であるはずなのに、商学部と言ってしまったことで家族から不審に思われたんだ。そして、風呂に入っている間に警察に通報され、そのまま逮捕となった。元々火炎瓶闘争とかで指名手配になっていたしね」


 突然の妖精の説明にマクシミリアンは戸惑う。


「それが創業社長とどんな関係があるの?」

「創業社長も実兄と同じく革命思想を持っていたんだ。実兄の逮捕を受けて、前段階武装蜂起論を実現するために、極左冒険主義路線を否定して、会社を経営しながら闘争に必要なものを調達できるようにしようと考えたんだよ。そうして創業して海外に進出。管理の緩い発展途上国で役人とマフィアの両方にコネクションを作り、銃と弾丸を入手。それを図面化して大量生産できる準備をしたんだ」

「まさか」

「会社の図面でML-で始まる部番のものが全てそれだよ。公安に踏み込まれてもわからないように、組図は作らずに、部品だけを図面化したんだ。その辺は活動家の家に行った帰りに、公安の嫌がらせを兼ねた持ち物検査の経験からだね。路上にカバンの中身をぶちまけられた悔しさは今でも忘れない」

「あの、それって創業社長の話であって、妖精さん自身の話じゃないですよね」

「勿論」


 公安警察への恨みが、どうにも自分自身のものであるように感じたため、そう質問したが違うと言われた。


「ところでMLってなんの略?ミリタリーとか」

「マルクスレーニンにきまってるじゃないか。常識だよ」


 常識という言葉に、マクシミリアンはそれじゃあすぐに公安警察にばれるじゃないかと思ったが、それを口にはしなかった。


「じゃあ、銃も弾丸も調達可能なの?」

「主にソ連軍のものだけどね」

「十分だよ」


 妖精は非常に満足そうな顔になる。


「しかし良かった」


 何が良かったのかマクシミリアンにはわからなかった。


「何が良かったの?」

「会社を創立した目的が革命だったのに、それが達成できないまま半世紀が過ぎたからね。実績だけ見れば当時ルンプロと馬鹿にしていたルンペンプロレタリアートとなんら変わりない。ましてや、自分が憎むべきブルジョワジーとなってしまったからね。プチブル的というのが今となっては自分に突き刺さるのさ。自己批判しようにも、次の闘争をするには歳を取り過ぎた。手遅れなんだよ。でも、準備していた道具をこうして君が使ってくれるから無駄にならなくて良かったんだよ」

「どうして僕は、異世界に転生して、はずれギフトのせいで実家を追放されたのに、こんなところで活動家の総括を聞いているのかわけがわからないよ」


 突然の話に、転生したときよりも、外れギフトのせいで家を追放されたときよりも驚くマクシミリアン。

 妖精はそんなマクシミリアンに不満そうな表情を見せた。


「ノンポリの君にはわからないかもしれないけど、これは非常に重要な問題なんだ。搾取されている人民の救済というね」

「搾取と言うなら、工場には労組が無かった。それこそが資本家による搾取じゃないの?どうしてそんな革命を目指す創業社長が労組を認めなかったのさ?」

「それは、労働闘争と安保闘争の根っこの違いだね。労働闘争をしていた組織では、学生は労働者ではないとして、加入を認めなかったところもあるんだ。あくまでも労働者の闘争だからね。それに対して安保闘争は学生が主役だ。創業社長は最初その違いが判らずに、近くの組織に行ったが、学生だということで門前払いをくらったんだ。それ以降、労働闘争に対して敵意を持っているんだよ。だから、労組は認めないんだ」

「そんな理由で?」

「そんなとは酷いね。セクトごとのドグマの違いこそが内ゲバの根幹。愛国的反米と、反日反米は共存できない。ましてや、敗北主義などね。米帝を日本の解放軍と位置付けた連中と仲良くできると思うかい?」

「ごめん、ついていけそうにないので、銃と弾薬をください。あと、爆弾の作り方の教本と材料も」

「うん」


 妖精はまだしゃべりたそうだったが、マクシミリアンの思考の限界を感じて、要求されたものを調達して終わった。

 そして、マクシミリアンの手元には頼んでもいないのに『毛沢東語録』の書籍が届けられていた。

 それを見てマクシミリアンは、この先もこの妖精と付き合っていくのに、若干の不安を覚えたのだった。



【後書き】

異世界転生、追放ざまあ系の作品に個性の味付けをしようとしましたが、どうにも味付けを間違った感じがしなくもないです。作者は思想的な偏りはないと思って書いてますので、最後までお付き合いいただけると幸いです。まあ、既に最初に考えていた最後にはたどり着きそうにないんですけど。

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