第2話 無人だと思っていたら亜人がいた
朝、マクシミリアンが太陽の光がまぶしいと思って目を覚ます。太陽光がテントの中まで明るくしていたのだ。
「さて、時間もわからないけど、外に出て顔を洗おうか」
外に出てみると、複数の人物にテントが囲まれていた。
「何者だ?」
その中の一人が問いかけてきた。その人物を見ると、狐のような耳としっぽが見える。それ以外は普通の人間の男性であった。他の者たちもみな同じようであった。各々が手に木の棒や石を持って警戒をしていた。
マクシミリアンの頭に「獣人」という単語が浮かぶ。
それはさておき、質問に答えることにした。
「マクシミリアン・アンシュッツ。アンシュッツ子爵家の三男で、この地に代官として赴任したんだけど」
その回答を聞いて、質問をしたのとは別の獣人が質問した仲間に訊く。
「ケン、代官って何だ?」
「俺も知らん。おい、貴様代官とは何だ?」
再びマクシミリアンは質問をされた。
「領主に代わってこの地を治める仕事。まあ、治めると言っても誰も住んでないけどね」
そう言って手を広げて周囲をさす。
「俺たちが住んでいる」
「住民として登録はされているの?」
「なんでそんなことが必要なんだ?」
どうにも会話がかみ合わないが、この背景としてシュバルツライヒ王国をはじめとして、この世界では人の国がいくつかあり、その他に亜人といわれる獣人やドワーフ、エルフなどが住んでいる。亜人たちは人が決めたルールに疎い。そして、獣人は特に国土という概念が非常に薄いのだ。縄張りというものはあるのだが、それは強いやつがそこを支配するというだけのものであり、その縄張りに住んでいる者たちを正確に把握するということをあまりしない。部族でまとまって生活はしているが、納税という物が無いため、その辺は細かく把握する必要がないのだ。
「それで、貴様は偉い身分なのか?」
またもマクシミリアンは質問をされた。
「住民がいるならね」
その答えに獣人たちは満足すると、マクシミリアンを押さえつけて縄で縛った。
マクシミリアンは獣人たちと身体能力が違いすぎるため、全く抵抗できなかったのである。
「何をするんだ?」
「お前を人質にして、捕まっている仲間と交換する」
「僕に価値なんてないよ。いらないからここに放り出されたわけだし」
とマクシミリアンが言うと、獣人たちは胡乱な目でマクシミリアンを見る。そしてひそひそと話し合って、結論を出した。
「貴様をジルのところに連れていく」
「ジル?」
「俺たちの縄張りに住んでいるドワーフだ」
マクシミリアンは縛られたまま彼らに連れられて、魔の森の方へと進んでいく。しばらくすると、小さな集落が見えてきた。
その集落の中に入ると、一つだけ離れた場所に小屋が立っていた。マクシミリアンはそこに連れていかれる。
「ジル、人間を捕まえてきた」
「お前ら、人の住むところまで行ったのか?」
と、小屋の中にいたドワーフが獣人たちに問う。
「いや、そこまでは行ってない。近くに変な布があって、みんなで囲んでいたら中からこいつが出てきたんだ」
「そりゃ本当か?」
「そうだ。それで、こいつが代官だっていうから、それがなんだかわからないが偉そうなもんだから、捕まえてきたんだ。こいつを人質にして仲間の解放を要求しようと思う」
それを聞いたドワーフは、マクシミリアンに訊ねた。
「その話は本当か?」
「概ね。僕はこの地域を治める子爵の三男だけど、ギフトが父の望むものではなかったから、ここに捨てられたんだ。代官っていったって、管理すべき領民がひとりもいないんだよ。まあ、こうしてここに集落はあるけど、それは台帳には載っていない。そんなところに送り込まれた僕に価値があると思う?」
「無いな」
話を聞いたドワーフは、獣人たちの方を見た。
「お前らが連れてきたこの人間に人質としての価値はない」
「それは本当か?噓をついているんじゃないのか?」
「価値が無いのは本当だ。高貴な人物がなんでこんな辺鄙なところにひとりでこにゃあならんのだ?価値が無いからこそ、ここに捨てられたという説明が一番ぴったりじゃろう」
「たしかに……」
ドワーフの説明に獣人たちは納得した。そして、マクシミリアンの扱いに困ることになった。
「どうする?」
「殺すか?」
「食うか?」
物騒な言葉が次々と出てきて、マクシミリアンは不安になった。
「生かしておいてくれれば、役に立つと思うよ」
「何が出来る?」
ドワーフに訊かれたマクシミリアンは、スキルで色々なものが調達できると伝えた。
「食料品や金属、ブラジャーからミサイルまでなんでも揃えてみせるけど」
「ブラジャーとミサイルがなんだかはわからんが、食料品と金属は本当ならたすかるのう」
「それじゃあ、この縄をほどいてくれたら、今すぐ調達してみせるけど」
マクシミリアンのアッピールに、ドワーフは縄をほどいてくれる。
「ジル、縄をほどいて大丈夫か?」
「人間の若造ひとり、ドワーフに素手で勝てるわけもないじゃろう」
獣人の心配を、ドワーフは手で制した。
やっと自由になったマクシミリアンは、手の感覚を取り戻すためにぶらぶらと振った。
「さて、じゃあ肉を調達しましょうか。現場を支えるネットストアじゃ、肉も野菜も扱っていますからね」
マクシミリアンは調達のスキルで牛肉を調達する。スキルを使うと工場の妖精が出てきた。
「待っていたよ」
「牛肉を調達したいんだけど」
「何グラム?」
「10キロいけるかな?」
「お安い御用。今日は29の日♪」
「どこかで聞いたことあるんだけど」
「気のせい、気のせい」
すると、パックに入った牛肉が出現した。ラップされてトレーに入っている牛肉に、一同は興味津々で見入る。
勿論妖精は見えていない。
「これは?」
「牛肉。切られた状態で入手できるから、便利でしょう」
「透明な布がかかっているではないか」
「詳しい説明は省くけど、ほこりが付かないようにだね」
「いや、詳しい説明をしてほしいんじゃが」
ジルと呼ばれたドワーフに説明をせがまれたが、マクシミリアンとしてもラップをどう説明してよいものかわからなかった。そもそもラップがどうつくられているかもわかっていない。
「スキルが勝手にやってくれるから、僕に訊かれてもわからないんだよね」
「それなら仕方ないのう。そうじゃ、名前をきいとらんかったのう」
「マクシミリアン。マクシミリアン・アンシュッツ」
「わしはジルじゃ」
そういってジルは握手を求めた。マクシミリアンもそれに応じる。
「さて、見ているみんなも食べたそうだし、肉を焼こうか。おっと、調味料も必要だね」
そういうと、マクシミリアンは塩と胡椒を調達した。小瓶に入った塩と胡椒が出てくる。
「今度はなんじゃ?」
「白いのが塩で、黒いのが胡椒」
「塩はわかるが、胡椒は初めて聞くの」
「香辛料が一般的じゃないのか。肉に味をつけるものだと思ってもらえばいいよ」
マクシミリアンの説明に、周囲の男たちがざわつく。
「塩だけでもありがたい。それなのに、肉に別の味まで付けられるとあっては、明日死んでも悔いはない」
「俺は酒が無ければ死ねない」
「そうだ、酒は必要だ」
その話を聞いて、マクシミリアンは酒も調達することにした。再び工場の妖精を呼び出す。
「お酒は調達できる?」
「工場の地鎮祭で酒屋から調達した実績があるから大丈夫だよ」
「じゃあ、ビール、日本酒、ウイスキーを」
「銘柄も言ってもらわないと困るなあ。僕はお任せって言われても判断できないこともあるから」
「そうか。じゃあ――――」
マクシミリアンは知っている銘柄を伝えて、それを調達した。
ジルたちの目の前に酒がずらりと並ぶ。
「はい、お酒」
「見たこともない綺麗な容器じゃの。普通は樽に入っているもんじゃが」
「樽に入っているやつが調達できないんだよね」
こうして集落の人を集めた宴会が始まることになった。
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