期待外れギフトのせいで家から追い出されたので、ド田舎でスローライフをしたい。そう思っていたら、スキルで呼び出した妖精の思想が強めで、目の前が真っ赤っ赤に。ここはアジトじゃないんだぞ

工程能力1.33

第1話 外れギフト

 鈴木豊は目覚めると、いつもと違う景色が見えた。思い返せば目覚める前の最後の記憶はプレス機に挟まれる直前のものであった。1000トンの力を持つプレス機の清掃をしていたのだが、電源を切ってから作業をしていたはずであるが、どういうわけだがそれが動いたのである。


(生きていたのか?)


 と思うが、言葉がうまく出ない。そして、体も自由に動かすことが出来なかった。事故の後遺症かと思ったが、どうにも見たこともない人々が自分の顔を覗き込んでおり、皆が微笑んでいるのだった。

 状況を整理すると、自分が自分であっても、鈴木豊ではないことが分かったのである。

 豊は成長とともに、ここが日本ではなく、地球でもないことが分かった。文明は地球での中世程度であり、魔法だったり、ドワーフやエルフがいる世界だったのである。そして、いくつもの国が存在して、時には戦争をしているのだった。

 そんな中の一つの国である、シュバルツライヒ王国にある、アンシュッツ子爵家の三男というのが豊の新しい人生であった。

 その名をマクシミリアン・アンシュッツという。

 父であるアルノルト・フォン・アンシュッツ子爵は武勇で名をはせている名将であり、シュバルツライヒ王国の西部地域に領地を与えられ、西への睨みをきかせていた。この世界で人間は14歳で成人を迎えると、教会で祝福を受けてギフトが示現する。

 ギフトとは神から与えられるものであり、剣豪や剣聖といった剣術の適性がある者や、農夫や工夫といった職業の適性がある。中には魔法使いといった特殊なものもあった。

 アルノルトは剣聖のギフトを持っており、剣術については比肩する者が無いとまで言われている。二人の兄もそれぞれ剣豪と射手というギフトを持っていた。

 アルノルトもやがては戦闘に適したギフトが与えられることになるだろうと期待されていたのである。

 だが、それは他の兄弟からしてみれば、後継者争いのライバルというわけである。長男であるルードルフと次男であるローラントは、マクシミリアンが幼いころより年の離れた可愛い弟という目線ではなく、いずれは家督争いをする相手という目線で見ていた。

 子爵としては残念ながら、剣豪や射手では戦場で活躍出来ないと思っていたのである。だからこそ、マクシミリアンにレアなギフトが示現すれば、後継者などあっという間に入れ替わってしまうのである。

 前世の記憶があるマクシミリアンは、計算については既に知っており、神童と呼ばれるほどであった。そもそも簡単な四則演算程度が出来るのが珍しい世界であり、二人の兄も計算は苦手としており、成人した兄よりも子供のマクシミリアンの方が上となっていた。

 当然二人の兄はそのことが面白くない。なので、マクシミリアンに勝てる剣術や弓術でマクシミリアンを可愛がっていたのである。勿論、角界でいうところの可愛いがりでだ。

 マクシミリアンはそれが嫌で、早いところ家を出たいと思っていた。成人すればそれが叶うと、指折り成人の儀日が来るのを数えて待った。


 そして、本日がその待ちに待ったマクシミリアンの成人の儀となる。平民たちは衆人環視の中でそれを行うが、貴族の子供については親のみが立ち合いとなるのが通例であった。なぜならば、農夫などというギフトが示現してしまえば、その家の血筋が疑われてしまい、他の兄弟の婚姻の話も無くなってしまうからである。

 司祭が神に祈りを捧げ、ついにマクシミリアンのギフトが示現した。


「マクシミリアン様のギフトは『工場労働者』でございます」


 司祭が告げたギフトに、立ち合いのアルノルトの顔が険しくなった。


「労働者はわかるが、工場とはなんだ?工房ではないのか?」

「神の啓示によれば、工房よりも規模が大きいところとのこでございます」


 アルノルトの剣幕に司祭が恐る恐るこたえた。

 工場という概念がこの世界にはなく、近いところで工房という例えが提示された。それで十分に子爵には通じた。子爵は司祭を睨む。


「つまり、息子は工房の作業者と同じということか。決して口外しないように」

「心得ております」


 貴族家の将来を左右するギフトの内容である。軽々にしゃべることは出来ないし、ましてやそれが外れだとした場合、最悪口封じに殺されることもある。

 司祭もそれはわかっており、余計なことを言うつもりは無かった。


「父上」


 マクシミリアンはアルノルトに話しかけたが、アルノルトから一方的にそれは打ち切られた。


「今日からお前は息子ではない。二度と気軽に話しかけるな」


 こうしてその日のうちにマクシミリアンの追放が決まった。

 追放先は領地の最果て、魔の森と呼ばれる凶暴な魔物がうろつく森のすぐ隣である。そこに代官としての派遣というのが表向きの理由であった。しかし、随行する者はおらず、実質的な追放であった。そして、そこで野垂れ死ぬことを期待されていた。

 実際に、そこまで物資を運ぶような商人はおらず、何一つ生活に必要なものが入手できないのだ。貴族の屋敷で育ったマクシミリアンが、すぐに死んでしまうのはわかり切ったことであった。

 遅くに出来た子供であり、今まで可愛がっていたのは事実。なので、自ら手にかけるのはしのびなかったのである。

 兄たちに嫌味を言われる暇もなく、マクシミリアンは身一つで放り出されることになったのだった。


 馬車で行けるところまで連れていかれ、街道が無くなったところで降ろされた。この数日は馬車の中で監視される日々であり、そこから解放されて少しだけ気が晴れた。


「さて、どうしようかな。こういうのって、実はチートなスキルだったりするんだけど」


 マクシミリアンは何をしようか悩んだが、とりあえずギフトによって使えるようになったスキルを使ってみることにした。

 調達というスキルがあるのは、自分のステータスを確認してわかっており、それがどんな効果なのかが気になっていた。アルノルトは本来それを確認してからマクシミリアンについて判断を下すべきであったが、怒りが冷静な判断をさせなかった。

 マクシミリアンは教会で説明を受けたステータスウィンドウで、自らの能力について確認していたのである。

 なお、このステータスウィンドウは基本的に自分のステータスしか見ることが出来ない。

 鑑定の魔法が使える者のみが、他社のステータスを確認することが出来るのだ。

 それによれば


マクシミリアン・アンシュッツ 14歳 人間 男

ギフト 工場労働者

生命力:64

魔力:256

腕力:51

器用:77

敏捷:31

スキル:調達


 となっている。


「スキルの使い方なんてしらないけど、調達って叫んでみればいいのかな?【調達】」


 マクシミリアンがそう叫ぶと、目の前に小さな妖精が出現した。


「うわっ」


 おもわず驚いて大きな声を出してしまった。


「やあ、僕は工場の妖精」

「工場の妖精ってなんだよ」

「なんだと言われてもそのままよ。豊は魔力を消費することで、工場で買えたものを買うことが出来るの」

「工場で買えたものがなんでもってことは、テントとか弁当とかも?」

「そうそう。現場を支えるネットストア的なところから、異世界までお取り寄せ出来るよ。他にもいろいろな商社があったと思うけど、そうした物が魔力と引き換えに調達出来るんだ」


 その説明にマクシミリアンは納得した。前世の知識からすんなりと呑みこむことが出来たのだ。


「便利なんだね。でも、魔力の消費量ってどれくらい?」

「一回の注文で魔力を1消費する」

「随分と少ないんだね」

「そりゃそうだよ。作ることに比べたら、注文なんてほとんど労力を使わないじゃない」


 至極当然な回答に、マクシミリアンは頷くしかなかった。例えばパソコン。これをネットで注文する場合はものの数分でそれが完了するが、パソコンを作るための時間とエネルギーはそうではない。金属や樹脂の素材を作るところから、もっというならば設計するところからかかっているエネルギーを再現するのであれば、それはとてつもないものになる。

 これで朗報は二つ。

 一つは前世で使っていたものが入手できるということ。そして、もう一つはそれがとても多く出来るということ。

 そんな朗報に小躍りしたくなったが、ふと、別のことが頭をよぎる。


「ひょっとして、アイテムボックス的ななにかもあるの?」

「ああ、貸し倉庫があるね」

「貸し倉庫!?」

「貸し倉庫の契約料は月に魔力30。月末に翌月分の契約を確認して、契約するならその時に魔力を30支払ってもらう」

「なんか、ファンタジーっぽくないねえ」

「我慢しな」


 話が終わって早速スキルを使ってみることにした。調達したい製品を妖精に伝えるだけで、それが

 こうしてマクシミリアンは初めてのスキルでテントを調達した。

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