016 日常への侵食<前>
6月に入ってからずっと体調を崩していたので更新を止めていました。
良くなったとは言い難いですがこのままだと夏が終わるまで続きが書けないので再開します。
もし宜しければこれからまたお付き合いいただければ幸いです。
追記
今日中にできればもう一本投稿します
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制服を身にすっかりと夏めいた生暖かい風に吹かれて、月曜日の気怠い朝に降り注ぐ初夏の
深く座ってスカートから伸びる靴を脱いだ靴下の足をぶらぶらと暇そうに揺らして、ポップなステッカーで埋まって遠目では元の素材が何かもわからない背面のケースに彩られたスマホを手に、そこらに広がる広場と花畑をぼんやりと赤い瞳で見つめる制服姿の彼女がそこに居た。
光から隠れて暗がりに居ても尚、陰ることのない捉えて離さない魅力的な煌めきにも似た存在感を放ってやまない彼女の姿は、横顔は。緩やかなカーブで角度を変えて見え方を変えながら近づいていく中でこちらに気付いて、ゆっくりとこちらを見ると分かりやすく眼を細めて笑みを浮かべて。
けれどそんな仕草も様になっている所が、呼びつけられているのにそれでも可愛らしいとどこか思ってしまった自分がいっそ憎らしいとさえ思う。
「…朝からなんだよ、こんな所に呼び出して。」
「朝ごはんは食べた?」
にこりと笑ったままに話し出す、こちらの話を聞いているのかどうかも疑わしいマイペースな彼女の言葉に、一度合わせなければ始まらないだろうと諦めて肯定を返す。
「普通に家で食べてきたよ。」
「そう。…じゃあ、一個で許してあげる。」
トントンと座っているすぐ横を手の甲で叩いた彼女に
よく見れば反対側で鞄の横に広げられていたピンク色のランチョンマットの上に置かれていた、可愛らしい木で編まれたランチボックスの蓋を開いて、中からどこかの店ででも買ったのか角を揃えられたレタスがはみ出たサンドイッチを綺麗に包装紙に巻いて手にとって。
そのまま差し出してきたかと思えば距離は近づいて、顔の前へと持ち上げられる。
「あーん。」
「……。」
食べずに目を合わせていると、笑顔のまま押し付けようと更に近づいた手に。
受け取ろうと包装紙を掴もうとして微かに触れた細い指先にどぎまぎとしてしまった感情を隠すようにそのまま口に入れて、半分に噛みちぎる。
「どう、味は。」
「………。…美味しかったよ、ありがとう。」
口に大きく入った状態で聞かれた問いに、口を上下に早く動かして全て食べきってオーバーに情感を込めて感想を返せば「そう。」と、小さく笑みを深くしてもう一つ手に取ると自分の口に入れて食事を始めだす。
自分の鞄から取り出したペットボトルのお茶を口に含んで、食事が終わるのを待ちながら綺麗にとは言い難いが美味しそうに食べるその動作を見ていた。
「…それで、平日の朝から呼び出した理由がこれなんて言わないよな?」
ほっと一息ついて落ち着き払ったその顔に聞けば、にたりと笑って目を細める。
「そうだったら、嬉しい?」
「おい。」
一時間以上も早く学校に来て、そんな理由で納得できるかと眉をしかめると、クスっと吹き出して楽しそうに
「冗談よ、ただ先に話しておきたかっただけ。」
「先?」
先ということは後があるのかと引っかかって口にすると、「そ。」と膝の上に鞄を載せて肘置きにして、両手首を交差させると顔を乗せて顔を傾けて赤い瞳をこちらにじっと向けると、続きを語りだす。
「私、今日から本格的に復学するの。」
「ふぅん、なら一年ぶりに席に座って授業受けるのか。…だるそうだ。」
「そうかもね。」
そう言って小さく笑みを零すと、瞼を薄く閉じて細めた目で正面に広がる花畑へと瞳だけを動かす。
「だから、ね。お願いがあるの。クラスに馴染むまで助けてくれない。」
外された視線のまま、吐き出された殊勝な言葉に調子が狂わされる。
「そういうの得意そうだけどな、傍から見てる分には。」
「…そう?」
ゆっくりと動かされた瞳は僅かに下を向いて、伏せられたように見えて。
隠された瞳の奥が、どんな表情をしているのかがわからなくなる。
「…まあ、するのはいいけどさ。俺と五線譜じゃ受ける授業もほとんど違うだろうし、会うこともないと思うけどな。」
歌に関するジョブと、勇者じゃ求められているものも伸ばす箇所も違うだろう。
「クラスだって別なわけだし、乗り込んで行ってまで仲人できるようなスキルを期待してるんだったら残念だけど持ち合わせてないよ。」
「そんなこと端から期待なんてしてないわよ。」
「…そうかい。」
生のままの言葉に鼻白みはしながらも、
どこか硬くなっていた表情は少しだけ柔らかくなったように見えて、そんな素の顔に被せるようににこりと口角を上げると口を開く。
「それで、どうなの。理由じゃなくて、答えが知りたいんだけど。」
「……できる限りはサポートするよ。これから同じ学校の生徒になるしな。」
「そう。」
単調に返したと思えば、小指を上げると笑みを深めて距離を少し縮める。
「約束ね。」
「…子供かよ。」
黙ったままに表情変えることもなく見る彼女に、細くて白い小指に自分の小指を絡ませると何度かゆっくりと振って、指は引き抜くように離された。
「そろそろ私職員室行かなきゃいけないから、先に行くわね。」
「ああ…。」
いつの間にか広げていたランチボックスは片されていて、鞄一つを掴んで肩にかけると立ち上がり、上からこちらを見る。
「じゃあまた後でね。」
遠くへと遠ざかっていく後ろ姿を見ながら、今から空いた時間をどうしようかと空に考えながら思わず呟いた。
「なんの確認なんだったんだか。」
わざわざ時間を早めてでも会った意味が分からなくて、結局そのままHRぎりぎりまで一人悶々と考え込んでいた。
§
「――紹介にありましたようにこちらのクラスで復学することになりました、
ざわつく周りの声の中でも教壇の横から端まで通るその言葉を、目を疑いながら
空いた席へと誘導するように説明するその間、僅かに一瞬、不敵に笑う赤い瞳は間違いなくこの目を見ていた。
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