【#7】配信開始!スライムを倒すだけの簡単なお仕事

【蒲田ダンジョン・地下一階】


(さて、まずは身体を温めますか)


 昼。単身ダンジョンへ入った俺は、"魔法カバン"の中を漁る。


 この魔法カバンはティーシャに借りたモノで、魔法の力でたくさんのアイテムが詰め込める便利なカバンだ。


 そして、俺が持ってきてるものはもちろん──。


「ぷはーっ!! うめぇ〜〜♡」


 大量のビールだ。


 俺のスキル【酔剣】発動のためには、酒に酔っていないといけない。それに配信のためにはテンションも上げたいところ。


 だから、これは俺が飲みたいだけのために飲んでいるわけではない。……決して!


 そうやって数本飲み干した後、身体もずいぶん温まってきた。


「よし、そろそろ行くか〜♪」


 ティーシャから借りた撮影用ドローンを空中に飛ばし、ついに配信開始の準備が整った。


 3、2、1……配信スタート。俺はテンション上げて挨拶する。


「ど、どうもー! "酒クズちゃん"の配信、始まりますよーー!!」


"配信キターーーーーー!!!"

"酒クズちゃん、待ってたよー!!!!"

"もうだいぶ赤くなってて草"


「そりゃぁ飲まないと、恥ずかしくてやってらんないですから〜〜!!」


 冗談っぽく言ったが、心からの本音だ。


 まだ俺も配信を始めたばかりの初心者。しかも、こんな大人数の前で女の子を演じなければいけない。


 こんなの素面しらふじゃとてもできない!!


"ところで、今日は何するの?"


「えっとね、今日はさっそくクエスト受けてきましたよ~! ──じゃん!!」


 俺は配信画面にクエストの詳細を表示する。


”あー、スライム退治ね”

”懐かしいな。俺もダンジョン入りたての頃はやってたっけ”

”ま、最初にやるなら定番だな”


「そうそう。ま、これは流石に楽勝ですよ〜」


 俺はそんな風に気楽に言いながら、ダンジョンの奥へと進んでいく。


◇◆◇◆◇


 その後、蒲田ダンジョン地下二階へ。そのまま問題の区域へとやってきたが。


「ん〜? いないなぁ〜……」


 通路の先を見ても、スライムの姿は確認できなかった。おかしいな。クエストの情報ではこの辺なんだけど……。


「とりあえず、おかわり飲んじゃおうー♪」


"また飲んでる……!?"

"安定の酒クズ"

"あの【鋼の肝臓】ってスキルがないと死んでるペースだよ、これ"


「そ、それはそうかも……」


 確かに女になる以前では考えられないペースで飲んでる。ホントにあのスキルがあって助かったな……。


 そんな感じで、のんびりコメントを返していた時だった。天井の方からペタペタと音が聞こえた。まさか──!?


「「「ヌルヌルーー!!」」」


「ぎゃーーーーー!? 上から来たーーー!?」


《名前》ヌルスライム


《データ》液体状のモンスター。貧弱であり初心者冒険者でも倒しやすいが、数が集まると厄介。


 不思議な鳴き声と共に、緑色のスライム達が襲いかかってくる。


「「「ヌルヌルーー!!」」」


「ぐえーーー!? やめてーーーーー!?」


 身体にスライムが纏わりついてくる!? ヌルヌルして気持ち悪い……!? 


""うおーーーー!? 酒クズちゃんがスライムまみれに!?"

"おぉ、えっちだ……♡"

"録画!! 録画!!"


「みんなーー!? 少しはわたしの身も心配してーーー!?」


 ……とりあえず、早く振り払おう!!


「このぉ〜!?」


「「「ヌルーーーー!?」」」


 襲ってきたスライム達を、妖刀の一撃で斬り伏せた。ウワサの通り、簡単に倒すことができた。


"ちっ、もう倒したか〜"

"ちなみに弱すぎてあんまり知られてないけど、ヌルスライムって服だけ溶かすんだよねー"

"くそっ!? あともう少しで完全に溶けてたはずなのに!!"


「えーー!? そうなの!?」


 まさか……全世界に裸をさらすところだったのか!? あぶねぇーーー!?


 そんな社会的ピンチを乗り越えて、一安心していた頃。


「〜〜♪♪♪」


 ドローンから鳴る着信メロディ。ドローン内に接続セットしている俺のスマホからだ。


「?? 電話??」


 誰だろう? 俺にかけてくる知り合いは少ないはずだが。俺は通話モードをオンにした。


「……もしもし?」


『あっ!? 酒クズちゃんっすか!? こちら、ラビスっす!!』


「あぁ、誰かと思えばラビスさんでしたかー♪」


 そういえば、ギルドで番号書いたっけ。急に電話かけてくるからビックリした。


「何かありましたか? ちなみにクエストの方は順調ですよ?」


 だが、ラビスさんは焦ったように語気を強めに叫んでくる。


『もうクエストなんていいっす!! とにかくその場から早く離れるっすよ!?』


「え? どういうことですか?」


『たった今、緊急警報が出されたっす!! 神出鬼没のSSSトリプルエスランクモンスターのドラゴン、"ヘル・タイラント"がそのダンジョンで確認されたらしいっす!! とにかく逃げるっすよーーー!?』


「う、ウソでしょ……!?」


"それ、やばくね?"

"たしかヘル・タイラントって、災厄級のモンスターのはずじゃ"

"酒クズちゃん、すぐ帰った方が……"


「そ、そうですね! じゃあ、今日はこの辺で──」


「ゴァァアアアアアア!!!」


「……え?」


 その時、地中から突き上げるように巨大なドラゴンが出現した。


 まるで鎧のような真っ黒な鱗に覆われた地竜。

 そいつはまさに『怪獣』といった感じの巨大なドラゴンで、一目で明らかにヤバいと分かるモンスターだった。


"おいおいおいおい!?!?!?"

”こ、これがヘル・タイラント!?!?”

"ガチで本物!? 初めて見るぞ!?!?"

"おいおいおい!! ヤバいって、これは……!?"


 一気に加速するコメント。


 俺は柱の裏にこっそり隠れながら、ラビスさんに小声で言う。


「あー、ラビスさん? たぶんそいつ、今わたしの目の前にいます……!!」


『そ、そうみたいっすね……』


 おいおい、初仕事でこんなトラブル有りかよ……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る