【#8】SSSランクモンスターとの戦い

"やばやばやばやば!!"

"これがあのヘル・タイラント!? デカすぎんだろ!?"

"酒クズちゃん、逃げてーーーー!?"


 突如出現したSSSランクのドラゴンモンスター、ヘル・タイラント。俺は柱の後ろに隠れながら、ラビスさんと電話を続ける。


『今、ギルドの救助隊を呼んだっす!! 酒クズちゃんはとにかく隠れながら逃げるっすよーー!!』


「りょ、了解!?」


 ──と言っている間に、柱の向こうでヘル・タイラントは動き出していた。


「ヴォァァァアアア!!!」


「わっ!?」


 凶暴性を抑えられないように、周囲に向かって暴れ回るヘル・タイラント。


 その攻撃はダンジョンの地形を破壊し、俺が来た通路を崩壊させてしまった!? 


 俺は小声でラビスさんに言う。


「やばいです!? 逃げ場がなくなりました……」


『ま、マジっすか……!?』


”えぇえええええええええ!?!?”

”あれ……? これ、詰んでる……?”

”救助隊のみなさん、早く──!!”


 そして、さらに悲劇が起こった。


 バキャゴッ!!


「……えっ?」


 上から落ちてきた瓦礫がれきによって、ドローンが潰されてしまった!! おまけにドローンにセットしていたスマホも道連れに!! よって、配信・通話共に途切れてしまった。


 おいおい、外と繋がる手段すら完全になくなったぞ!?


(あーあ、どーしよー……)


 こうなると、救助隊が来るまでここに隠れるしかなさそうだが──。


 ドゴォン!!


「……あ」


 その時、俺の隠れていた柱が崩壊した。そうなると、当然ヘル・タイラントは俺の方に気づくワケで──。


「ググゥ……?」


 ヘル・タイラントは俺の姿を視界におさめると、巨大な口を広げて威嚇いかくしてくる。


「ヴォァァァアアアアアアア!!!」


「うわぁぁあああああ!? 見つかっちゃったーーーーーー!?」


 くそっ!! こうなったら──。


「やるしかないか!!」


 とにかく時間を稼ぐしかない。救助隊が俺を助けにくるまでの時間を!!


「んっ!! んっ!! ぷはーっ!! 最高ーーーー!!」


 【酔剣】発動のため、酒を一気にがぶ飲み!! そして、腰からゆっくりと妖刀を抜いて構える。当然ながら、俺の妖刀を握る手は震えている……。


「ヴォァアアアアア!」


 いきなり巨大な前脚を叩きつけてくるヘル・タイラント。殺意のかたまりのような一撃──こんなの当たればひとたまりもない!!


「わわわっ!?」


 なんとかギリギリで回避!! だが、さらに絶え間なく攻撃は続く!!


「ヴゥア!! ヴゥア!!」


「くっ!?」


 逃げる俺に向けて、両方の前脚で乱打してくるヘル・タイラント。


 その暴れている様子はまさに破壊の化身のようであり、俺が回避した場所は一気に粉々になってしまう。


 このまま逃げてばかりではキリがない。かといって、相手はSSSランクモンスター。そもそも俺の攻撃は通用するのか、という疑問があった。


 そんな防戦一方になっていた頃、握っていた妖刀に意識が向いた。 


(……ん?)


 軽く視線を落とすと、赤いオーラが妖刀に集まっていくのが見えた。まるで力を貯めているかのように。


 そんな妖刀の姿を見た時、心の中で鮮明なイメージが浮き上がってきた。初めて使う剣技──しかし、まるで身体が覚えているかのように動き出す。


 ……そうだな。イチかバチか、やってみるか!!


「おらぁ!!」


 俺は脳裏のイメージとシンクロさせるように、思いっきり刀を振り下ろした。すると──。


 ズドドドドッ!!


 凄まじい轟音と共に、妖刀から赤い波動が飛び出した!! す、すごい!? 自分でも抑えるので精いっぱいだ!?


 そして、妖刀から放たれた波動は──ヘルタイラントの頭部へ直撃していく!!


「ガッ……!? ゴァァァァアアアアア!?!?!?」


 その一撃を食らったヘル・タイラントは、直撃した右目から魔力を噴き出していた。明らかに見て分かるほどのクリティカルヒットだった。


(あれ!? 効いてる……!?)


 まさかSSSランクモンスターにも通用するのか!? この妖刀、思ったよりもとんでもないモノなのか……!?


「ヴグゥゥゥゥゥ!!」


 やがて、ヘル・タイラントはそのまま最初に出てきた穴に戻って行った。


 この状況を”命の危険”と悟ったようで、地響きのような音を立てながらどこかへと消えていく……。


 俺はその光景を眺めながら、自分でも信じられないように呟く。


「逃げた……?」


 ……つまり、"撃退"できたのか?? あのヘル・タイラントを??


 そう思うと、身体から一気に緊張が抜けた。そして、リラックスしたせいか──余計にお酒が欲しくなってきた。


「とりあえず、一杯飲むかぁ~~」


 俺は床にあぐらで座り込み、日本酒をトクトクと喉に流し込んだ。なにか熱いモノが五臓六腑ごぞうろっぷに染みわたっていく。


(──あぁ、うまぁい!! そうか、これが”勝利の美酒”ってやつか)


◇◆◇◆◇


 それから30分くらい経った頃。


「おーい! 大丈夫かーー!?」


 道を塞いでいた瓦礫がれきが、爆破音と共に壊された。


 隙間から差し込んでくる光。光の中から緑色の服を着たギルド救助隊の方々が現れた。


 だが、彼らは俺のいる場所を見回した後、困惑したような顔でこっちを見て言う。


「あ、あれ? ヘル・タイラントは??」


 その質問に対し、俺はのどかにビールを飲みながら答えた。


「あぁ。それならどっか行っちゃいましたよー。あの大穴から」


「「「「「えっ!?!?」」」」」


 救助隊の方々はお互いに顔を見合わせ、改めて確認するように聞いてきた。


「キミ!! 詳しく話を聞いてもいいかい!?」


「あー……えっと……」


 素直に言うのはちょっと気が引いた。


 ティーシャのおかげで配信者デビューして、ただでさえ世間の注目を集めてしまっている状況。

 もし”SSSランクモンスターを撃退した”と知られれば、更なる賞賛と名誉を得る事となるだろう。


 だが、別に俺は”英雄”になりたいわけじゃない。


 正直言って、俺はもっとのんびり過ごして行きたい人間なのである。そのためなら世間には”ほどほどの強さ”と評価された方が気楽でいい。


 よし、決めた。やっぱり本当の実力は隠すことにしよう。今後の俺自身のためにも……。


「実はずっと瓦礫の下に隠れていたんですよ〜!? もう死ぬかと思いましたーーーー!!」


 俺の必死な演技に、救助隊の方々達は納得した様子だった。


「そうかそうか。それは運が良かったな!! もし見つかったら大変な事になってたよ!! なにせという話だからね!!」


「………………」


 そ、そうなんだ。やっぱ言わなくて正解だったな、これは……。

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