【#6】ギルドに行こう

 ──それから翌日。ティーシャとの朝食の席にて、俺は決意表明した。


「……ティーシャ。わたし、決めました!! 今日から配信します!!」


 すると、ティーシャは嬉しそうな顔で言う。


「おー!! さっそくアヤカちゃんの記念すべき門出かどでだね!! それで、今日は何するのかな?」


「とりあえず、まずはギルドに行って冒険者登録しようかな、と」


 この世界と異世界を繋ぐ組織、それが”ギルド”だ。


 ダンジョンにおいてトラブルのない日はないらしく、探し物からモンスター討伐まで──ギルドにはたくさんの依頼クエストが舞い込んでくる。


 そのクエストを達成すれば、成功報酬としてお金が貰える。さらにクエスト攻略の様子も配信すれば収益も得て一石二鳥というワケだ。


 それが現代ダンジョンにおける配信者のメジャーなやり方だった。


 そんな俺の提案を聞いて、ティーシャは優雅に紅茶を飲みながら言う。


「アヤカちゃん、ギルドに行くのは初めてだよね?」


「えぇ。そうですね」


「それじゃ、あたしがついていってあげる! ちょうどギルドに友達がいるから話を通しておくね!!」


「あ、ありがとうございます……!!」


 あれ? 結局ティーシャの世話になってない……?


 まぁ、一人で右も左も分からないのも嫌だし、ここは素直にお世話になっておくか。


◇◆◇◆◇


 こうして二人で向かった先は、『東京中央ダンジョン』の地下一階。


 ここはモンスターが近寄らない安全地帯であり、その性質を利用して大型のギルド酒場が造られている。


 流石に都内最大規模のギルドだけあって、たくさんの冒険者達で賑わっていた。異世界から来た亜人の姿も多く見受けられる。


 そんな人混みの中で、変装したティーシャがヒソヒソ話してくる。


「アヤカちゃん、バレないようにね。多分バレたら大変な騒ぎになるから」


「う、うん……」


 流石は"有名人"ってとこか。これから一緒に過ごすなら気をつけないとな。


 やがて、俺達はギルドの受付まで来た。ティーシャは慣れた感じで受付嬢に声をかける。


「ラビちゃん、こんにちわ〜!」


「お! 来たっすね〜」


 手を挙げたのは、白髪はつはつサイドテールのバニーガールだった。


 頭に生えた二本の可愛いウサ耳に、満月のような金色の瞳。それらは亜人・兎耳族バニエルの証だ。


 黒のバニースーツに身を包んだ彼女は、興味津々な様子で変装している俺を見てくる。


「おぉ〜!? そちらがウワサの酒クズちゃんっすね!? 自分、このギルドで働いてる"ラビス"という者っす!! よろしくっす〜♪」


「え、えぇ。よろしく」


 慣れない握手をラビスさんと交わす。すげー、めちゃくちゃ綺麗な手……。まるでモデルみたいだ。


 それからラビスさんは嬉しそうな顔で電子端末タブレットを取り出した。


「さて、話はティーシャから聞いてるっす! ここに一通りの情報打ち込めば冒険者登録完了っすよー。さぁ、どうぞっす!」


 それからタブレットに、"天霧アヤカ"としての情報を打ち込んでいく。名前、住所、指紋に声紋といったものを。


 まるで新しい人間になる儀式みたいだ。そんな俺の心が”男”である事は他の誰も知らない。


「これで良しっすね」


 ラビスさんの言う通り、登録は意外に早く終わった。それから彼女はタブレットを操り、クエストの一覧を見せてきた。


「まずはDランクあたりの仕事で力量を見るのがいいっすかね。これとかどうっすか?」


【大量発生したヌルスライムの討伐】


《誰でもできる簡単なお仕事です》


 蒲田ダンジョン内で過剰繁殖した彼らの巣が、通行の妨げになっています。こちらの区域で討伐完了した方には報酬を与えます。


「……なるほど」


 ヌルスライムといえば、初心者でも簡単に倒せるくらいに弱いモンスターである。確かに肩慣らしにはちょうどいいかもしれない。


「じゃあ、これにしよっかな?」


「リョーカイっす!」


 こうして、クエスト受付は完了した。


 それに合わせて、ティーシャがぐーっと伸びをしながら言う。


「ぜひともアヤカちゃんの初陣ういじんについていきたいけど、実はこのあと取材のお仕事あるんだよねー。アヤカちゃん、一人でも大丈夫?」


「は、はい!! 簡単なクエストみたいですし、ティーシャは気にせず仕事に専念してください!!」


「うん、ごめんね〜。仕事終わったら合流しにいくから〜」


 まぁ、なんとかなるだろう……多分。

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